▲▲つ13っ!きょうのひは、おやすみっ!

 「じゃあねっ!クーンちゃん!!」

 一方。 

 アビーは俺とは異なり、いつもの様子で、元気に手を振り送った。

 まあ、アビーなのだから、気にもしないのだろう。 

 「……。」

 「……静かだねっ!」 

 そうして、クーンがやがて帰る場所に入り、その姿が消えたなら。

 アビーは少し寂しそうに呟いてきた。 

 皮切りに、先の喧騒はいずこ。

 急に寂しさが包むものだから、またも、言葉が浮かばずにいる。 

 「……ねぇ!大和ちゃん!」

 「!」 

 その寂しさに、アビーが静かにするわけがない。 

 何か思い付いたか、トーン高く声を掛けてきた。  

 おかげか。 

 思考が巡りだし。  

 アビーの言いたげに、耳を傾けた。

 「明日ね、クーンちゃんと一緒にお出掛けしようよっ!……何だかね、そんな気がするんだっ!」

 「ああ……ああ?!」

 ではそれは。 

 アビーが弾むようで言ってくることは、クーンを遊びに誘おうとすることであり。 

 最初、俺はぼんやりと相槌を打ったが、思考が戻るや。

 ぎょっとして、アビーを見つめてしまう。

 見ればアビーはニコニコしていて、期待を込めてもいるよう。 

 「だってねっ!クーンちゃんがあんなに積極的なの、きっと、あたしたちと遊びたいんだと思うんだっ!だから……っ!」 

 「!!……ぬぅ。」 

 アビーがどう解釈をしているか分からないが。 

 クーンの様子をそう捉えるなんて、言われて俺は、唸るしかない。  

 クーンの様子だと、単にからかうだけだとしか……。

 だが、内心何を考えているかは分からずにいる。 

 それに俺としては。 

 かなりの緊張を強いられるのだから、……あんまりいい気分じゃないかも。 

 「ねっ!いいよね?」 

 「……う~ん。その時次第かな……。」 

 「えへへっ!」

 アビーは傍ら、にっこりと笑顔を添えて。

 そうなると、嫌とも言えずに、曖昧な返事しかできない。

 アビーはそれだけでもよく、……だが、さも決定のように言っていた。 

 「それじゃっ!帰ろっ!」

 「!……あ、うん。」

 決まったなら、早速とアビーは踵を返して。 

 軽く伸びをしてこちらも帰路に就こうとして。

 その切り替えの早さに、つい驚きもするが。

 アビーなのだからと俺は自分に言い聞かせて。

 頷いて応じる。 

 「えへへっ!」

 「!」 

 でも、アビーはだからといって、自分だけ先に行くことはしない。 

 立ち止まるなら俺を見て、手を差し伸べてきて。 

 「……。」

 らしさに、そっと笑みを浮かべて、俺はその手を取り、2人して、帰路を行く。

 

 やがて辿り着く、和風古民家を改装したような、そんな家。

 およそ、この異世界にはそぐわない、なんて思いそうな趣だが。

 そこは、アビーの家であるし、そも、大体の家が、こんな古民家風だ。

 暗がりに、静かに佇んで、主たるアビーを待つかのよう。

 「んふっ!」

 「!……。」

 アビーは軽く息を吐くなら、スキップしながら古民家へと向かう。 

 スライドドアを引いて、開くなら、暗闇がまず出迎えて。

 なお、俺はアビーの吐息に合わせて。

 スフィアを一つ、取り出してはそっとその場で投げ上げる。

 まるで、羽を飛ばすかのよう。

 合わせてか、スフィアは清らかなグラスハープの音色を立て、光を放ち浮遊する。 

 その光、暗闇照らし。

 闇夜に眠ろうとする家を、微かに起こす。

 「……えへへっ!さっすがぁ!」

 「!……まあ、ね。」

 アビーは俺がそうした後、振り返ると笑顔で褒めてくる。 

 俺は、まあ、それほどでもないといった感じに。

 多少の照れはあるが、今はもう、慣れに慣れたもの。

 マフィンのおかげで、ここまで扱いが上手くなったうえに。

 今じゃ、マフィンに劣らぬ使い手になってしまっているし。

 何よりも、ああ、実感があるかは今もよく分からないけれど。

 最高の使い手たる称号を持っているから。

 〝ウィザード〟だと。

 「えへへっ!」

 「……。」 

 そんな俺の成長を、さも自分事のように喜んで。

 アビーはまたも笑い声を漏らすなら、また前を向いて先導していった。 

 アビーの様子に、らしいとも感じて。

 また、こちらもアビーが喜んでいると感じるなら笑みも浮かぶ。 

 いつも、傍で見ていてくれたから、ね。 

 思って、俺はアビーの後に続いた。

 囲炉裏の部屋につくなら、早速とアビーは部屋の隅に行き。

 漁るなら、布の塊を取り出してきて。

 ボロ布とも思うが。

 それは、布団だ。

 アビーらしく、……大切に使っているようだけど。

 あと、前々からアビーと暮らしているけれど、相変わらずだ。

 呆れて、俺はそっと笑う。 

 「うわっととと!」 

 おまけに、2人分用意しようとしていて。

 そうなると、足元もおぼつかなく。

 まあ、アビーなら2人分の布団も持っていけるだろうが、視界は塞がってしまう。

 「わぁっ!」

 「俺が持つよ。」 

 から、俺が出て、アビーが持った内の一組を、俺が手にして抱えた。

 予想外に、アビーは軽く声を上げる。

 「……えへへっ!大和ちゃんやさしー!ありがとう!」 

 「いいよ。いつもそうだし。」

 「お疲れなのに、ねっ!」

 「……今更だよ。……もっとえげつない目に遭っているし……。」

 俺の行動に、布団から視線を出してアビーは、言ってまた笑顔を向ける。

 労われても、俺は苦笑を返して。

 言った通り、もっとえげつない目に遭っているし……。

 それこそ、モンスターと呼ばれる存在を相手取ったり。

 帝国の巨大な城壁を攻略するし。 

 戦闘機に乗るし。

 マキナに乗るし。

 やっぱり、改良型だがモンスターを相手するしと、……ううむ慣れたものだね。

 つい、頭の中で思い描きつつ、数えた。

 「あははっ!でもでも、大和ちゃんらしいねっ!」

 「……か。」

 苦笑に対して、アビーはにっこりと笑って、らしいとも。

 俺は、そうかと軽く頷いた。

 「よっと!」

 そうしてアビーは笑みを浮かべたまま、手にした布団を床に置いて。

 敷き、整える。 

 「!」  

 様子に、俺も気付いて。同じように布団を敷き。 

 なお、アビーの傍に、並べるように。

 ああ、いかがわしことはない、いつもこうだから。

 アビーと一緒にいるのだから、ね。

 「それじゃ、大和ちゃんもお疲れだから!そろそろ寝よっ!」

 「……あ、ああ。」

 布団を整えて、さもいつでも眠れる状況にしたなら。

 アビーは元気よく言ってきた。

 にっこりといつもの笑みで。ただ、その元気そうな笑みだと。

 この後まだ、夜が更けに更ける真夜中まで、遊びそうな様子でもあるのだが。 

 まあ、いつものことで、いちいちツッコむのも悪く、俺は頷く。

 「!……。」

 そうと決まれば、と。アビーは着ている服を脱ぎだして。

 服とスカートを取り去り、下着姿に。

 気まずくもつい思えるが、だが、これが日常なのだ、アビーなのだ。

 ……気にすることもない。 

 俺に対してか、いや、誰に対してもそうだろう。

 年頃だろうに、臆することはない。

 「……はぁ。」

 俺は、マフィンじゃないが、呆れに溜息をつき、頭を抱えた。

 「?どうしたの?大和ちゃん、寝よっ?」 

 「……あ、ああ。」 

 当然、アビーは気にすることもない、むしろ、不思議そう。

 ……まあ、そうなると、ツッコむのも野暮だ。

 素直に俺は頷くことにして。

 アビーと同じよう、着ている物を脱ぎ。

 バックパックを下ろして、枕の傍に置いた。

 合わせて、自分の身体も布団の上に投げ広げ。天井を仰ぎ見るように。

 「えへへっ!大和ちゃん大胆!それじゃ、あたしも!」

 「!」

 隣のアビーはそんな俺を笑顔で見ていて。

 俺のを見て、真似するか。

 同じように隣の布団にダイブ。そうなると、2人して天井を見ることに。

 「……。」

 「……。」

 不思議と、だのに言葉が浮かばない。

 おかしく、笑いそうになるのに。何をしているのだろう、なのに。 

 「……えへへっ!今日もまた、楽しかったね。また、明日もいい日で!」

 「!……だね。」

 ようやく出た言葉だが。

 笑い合うというよりは、どこか祈りみたいに。まあ、今日の日はさようならって?

 ただ、普通の人なら、祈りには聞こえないだろうけれど。 

 アビーであるというなら、確かにそのような言葉をチョイスしそう。 

 祈りの静けさ感じて、俺は静かに頷いて。

 「おやすみっ!」

 「!あ、うん。おやすみ。」

 締め括りには、夜の挨拶。アビーらしい、元気のある感じで。

 言葉はいらない。俺は、素直に応じて、同じように返した。

 早速、夜の闇を呼ぼうと、手をかざし。

 この部屋を照らすスフィアを呼び寄せようと。

 「……くーっ。」

 「?!」

 ……傍ら。急に静かになるのだから。

 見れば、アビーは、挨拶を済ませてすぐに寝入ってしまったか。

 小さい寝息が、もう聞こえてくる。

 「……はやっ……。」 

 俺はそんな静けさにて、ふと呟いた。 

 疲れているのは、俺の方だろうに、アビーの方が早いなんて……。

 「……。」

 ツッコミを入れようにも、寝入っていると悪かろう。

 それに、アビーなのだからで片付けられるし。

 野暮に思えて俺は、頭を掻いてしまう。

 致し方ないやと。

 軽く鼻息を漏らすと、また天井を見て。

 スフィアを呼び寄せて、そっと、手に包む。

 そうすると、家は宵闇に包まれて。静寂も相まって、眠りへと誘う。

 

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