▲▲つ12っ!からかいじょうずのくーんちゃんっ!

 「!」

 「ねねねっ!マフィンちゃん!」

 それならと、俺は多少期待することにして、様子を見ることにする。

 アビーは項垂れるマフィンに声を掛けて。

 「大丈夫大丈夫っ!マフィンちゃんだって、大きくなるよっ!だって、あたしと会った時よりも大きくなっているじゃない!」

 慰めに、か。

 おまけとして、元気そうに跳ねるなら、見ているなら元気そうだが。

 「……むかっ!!!」

 「あ……。いや~な予感……。」

 しかし、マフィンには、逆効果。

 項垂れているのに、マフィンは軽く怒ったような声を上げて。

 こちらから表情は見えないが、何か気に食わないこととなったのだろう。

 俺は、どこか嵐を予感して、身を退く。

 「あ~な~た~に~は~言われたくなぁぁい!!」

 「?!えぇ?!ど~してぇ~?!」 

 「……うわぁ……。」

 やがては、おぞましい声を上げて。

 マフィンは顔を上げると、鬼のような形相であり。

 また、唸り声のそれは、恐ろしささえ感じてしまう。 

 アビーは、どうしてと不思議そう。

 俺もまた、疑問あれど、むしろ恐怖に逃げそうになる。

 「昔は、私とほとんど変わらなかったのにぃぃぃぃ!何で私よりも成長しちゃうのよおおおぉぉぉ!!!」

 「え~!!」

 「え~……。」

 続けて嘆きもあり。 

 ふとそれは、俺を理解に誘って。

 「……。」 

 マフィンに失礼だが、……アビーはマフィンと幼馴染で。

 その、幼馴染であるアビーの方が、成長しちゃっているから……。

 ある意味嫉妬に、マフィンは叫んだ、と。 

 理解して俺は、……やっぱり静かにしている。

 なお、そっとスフィアを取り出して、浮遊はさせておく。 

 もし、スフィアによる攻撃が始まったら、建物が壊れかねない。 

 せめて、守りたくはある。

 「!……このっ!」

 「!」

 マフィンは軽く息を吐いて。

 立ち上がるなら、途端緊張を招く。俺はごくりと唾を飲み込んだ。 

 攻撃するか?!

 「ひぇ?!ま、マフィンちゃん!!!」

 「!!」

 では攻撃はとすると。

 マフィンは、徐にアビーに近付くなら。

 両手を広げて、アビーの頬へと伸ばす。

 「み、みぎゃっ!!」

 マフィンは掴んで。アビーはその際、痛みか冷たさについ悲鳴を上げた。

 「たてたてよこよこまるかいてぴょん!!!!」

 「うにゃぁぁぁぁ!!!痛い痛い痛い痛い!!!」 

 「……。」

 マフィンは、そんなアビーに容赦せず。 

 アビーの柔らかな頬を縦横無尽につねり回した。

 アビーは痛みに涙目。

 余計に叫び、ついにはその瞳を涙で潤ませた。

 俺は、こちらにまで被害が及ばなくてよかったと思う反面。

 アビーに対して、何もできない無力に、複雑な表情を呈してしまった。

 

 「……うぅぅぅ~……。」 

 「……。」

 「もうっ!」

 引っ張られてアビーは、頬をさすりながら、涙を流していて。

 マフィンは、やや悪態をついて。 

 そっぽを向いていた。 

 板挟みに、俺はどうともできず、頭を抱えた。

 「あらあら。嫉妬?もうぅ、仲良し2人ね。」 

 「……。」

 傍ら、クーンは、ようやくな感じで、仲睦まじいと微笑む。

 これもまた、どこか違うような。 

 ある意味元凶?なのに?俺は、何が何だか分からなくなりそう。

 「……ああもぅっ!ややこしい!」

 クーンの一言に、睨むようにマフィンは言い。

 痛むか、頭を抱えてしまう。

 「……うぅぅ!!」

 「!」 

 苦悶に喘ぎ。

 「……も、もう帰るっ!」

 「……!!あ~……。」 

 耐え切れず、マフィンは言い切る。 

 この場の雰囲気や、他、これまでのこともあって、だ。

 心中察して、俺は納得に声を出す。 

 マフィンは立ち上がって、背を向けてヅカヅカと足音を立てて出て行こうとして。 

 「!!あっ!マフィンちゃん待って!」 

 「!……。」

 アビーはそのマフィンの様子に、先ほどの痛みはどこへ行った。

 慌てて立ち上がるなら、その姿を追おうとする。 

 どうも、アビーも当事者だというのに、その考えはいずこに。 

 まあ、アビーなのだから、忘れてそう。俺は、沈黙するしかなく。 

 「!!って……。」 

 だが、置いてけぼりも何だか嫌だ。

 俺はアビーに追従する。 

 「あらまぁ!もう。」

 「!!うぅ……。」

 その後ろから、クーンも付き添ってきて。 

 が、余韻に俺は、何だか気分が。

 マフィンもそうだろうが、俺もまた、今日散々なのだから、ね。 

 そうして追うなら、外に出てしまう。 

 「!」

 どれだけ長くいたか分からないが。 

 外に出るともう暗く。見たら、つい立ち止まってしまう。

 また、夜風がよぎり、ほてりを拭って。 

 頭への血の登りも下がり、か。 

 マフィンを追ったなら、冷静になっていたか、静かに立ち止まっていた。

 空も見上げていて。

 合わせて俺も立ち止まり、空を見上げる。 

 「……わぁ!!すっごーい!!」

 「!……ああ。」

 アビーも見上げて。

 その星空に変わろうとするさなかを、喜ぶ。 

 素直に俺は頷いて。

 空の一瞬の煌めきに、宵の明星を思って、俺は思考が停止してしまった。

 「……ふぅ。……呆れた。」

 「!」  

 先に思った通りにか、ふとマフィンが呟いてくる。

 振り返ると、マフィンは呆れながらも笑みを浮かべている。

 その表情には、やはりか。

 どうでもよくなったと見て取れよう。

 「……今日は色々あったけど、ま、いいかしら。私疲れたから、もう帰るわね。でないとお婆さまに叱られちゃう。」

 「!……だね。」 

 気持ち入れ替えて。

 マフィンが続けるなら、もうそろそろお開きのようだと。

 見え隠れしているのは、遅くまで出ていると、身内が心配するという感じ。 

 「!あ、そっか……。村長さんに言われちゃうもんね!」

 アビーも聞いて、少し悪いことをしたかもと、項垂れもして言う。

 マフィンは村長さんの孫娘であるがため。 

 このままだと、怒られるかもと。 

 「そういうことっ!じゃあ、私は帰るわね!」

 このままの流れで、マフィンは言い、今度はそっと嬉しそうな笑みを浮かべて。

 さらには、手を振って、別方向へと歩を進めて行く。

 「!あ、ああ。」 

 「!!じゃあねっ!マフィンちゃん!!」

 そんなマフィンに、俺とアビーは急いで手を振って、送る。

 「あら!じゃあ、私も帰らないとねっ!ラクちゃんに怒られちゃうって!」 

 「!……あ、うん……。」 

 傍ら、マフィンの様子に、同じくクーンも言ってきて。

 帰る様子に合わせてと。

 振り返れば、こちらもマフィンと似た感じの表情であった。

 ただ、怒られちゃうとか言っている割には。

 恐怖心とかそういうものが感じられず。

 想像だが、怒られても飄々と受け流していそう。

 「……あ~……。」 

 「!」 

 同じく見ていて、聞いていたアビーは、少し残念そう。

 クーンは。 

 「あらあら!そんな悲しい顔しないでっ!お姉ちゃんは、いつでもどこでも、呼んだらすぐ来るからっ!ねっ!」

 「!」 

 アビーの様子に、嬉しそうな感じになりながら。  

 いつでも呼べば来ると、寂しさ紛らわすように言ってきた。 

 「……。」 

 俺は聞いて、苦笑してしまう。

 それが言葉の文ならだが、クーンの場合、本気でしそうだし。

 「だねっ!!」

 「!……。」 

 「うふふふっ!」

 アビーは聞いて、寂しさなんて吹っ飛ばす。 

 元気よく返事して、頷いて。

 その元気さに、つい臆しそうになるが。

 アビーの場合、多分深く考えていなさそう。逆に心配になってしまう。

 本気にされて、何かしないだろうか……。

 傍ら、お世辞か、あるいは本気か。

 クーンはそんなアビーの様子に、期待しているかのように笑みを零した。

 「……じゃあ、お姉ちゃんも帰るねっ!」 

 「!あ、うん。それじゃあ……。」 

 そうして、クーンも帰ろうと手を振り、近くの建物へと歩いていく。

 ……〝アライハウス〟、クリーニング屋さん。

 さも遠くに帰りそうな雰囲気であっても。

 そもクーンはこのクリーニング屋を宿にしているのだから、そこが帰る家だ。

 俺は礼儀に、小さいながらも手を振り送って。

 「うんうん!じゃあねっ!クーンちゃん!」

 同じく、らしい感じでアビーも見送る。

 クーンは元気をもらったか。 

 にこやかに応じて、戸を開けて中へ消えようとした。

 「あらっ!そう言えば……。」

 「!」 

 ふと、クーンは思い出したかのように立ち止まり。

 振り返ると、期待を湛えた笑みを浮かべていて。

 「ねえ、大和ちゃん!」

 「!」

 何か、聞いてきそう。 

 「いつか。お暇かしら?」

 「!……あ、ええと……。」 

 それは、予定でも聞くかのようだ。

 言われるとつい、俺は、どうだろうかと頭を巡らせて。

 「もし、空いていたら、お姉ちゃんとデートしない?」

 「ええと、ええと……。はぁ?!」

 クーンは気にもせず、そのまま予定をねじ込むかのように言ってきて。

 思考中の俺にとっては、それは横っ腹を突くかのようなことで。

 迷っていたら、思わずぎょっとして声を上げてしまった。  

 「そして……今日できなかったこと、最後まで……。」

 「?!」

 こちらの表情よそに、クーンは進めていて。 

 挙句、頬を赤くして、とろけるような視線を伴い見つめてきて。

 また、胸元のボタンを外し、その豊かな胸を露にさせようとまでもする。

 それは、銭湯に入る前にやっていたやり取りの続きのよう。 

 その視線に射抜かれると、俺は、折角収まった動悸がまた始まって。 

 「……ってクーン!!!早いって!!ま、まだ俺はそういうのは……っ!!」  

 「うふふふっ!!」 

 「?!」

 たまらず俺は、声を上げるが、どうも効果は薄い。

 クーンはすっかりその気のようで。

 魅了の力、ここぞとばかり高めよう。

 不敵な笑みを漏らすと、こちらにゆっくりと歩み寄っても来る。

 もしそうなると、我慢できずに?!

 「……って、ちょっと!!」

 俺は、だが、クーンの魅了に耐えて。

 軽く拒否しようと手を伸ばした。

 「……うふふっ!冗談よ!だって、大和ちゃんにはアビーがいるものねっ!」

 「!!ぬぅ……。」

 「え?」

 なお、どうもこの期に及んで、冗談だとクーンは言ってきて。 

 顔が赤い自分が、恥ずかしく。 

 余計に顔が赤くなってしまう。

 引き合いついで、アビーのことも言い、その際にアビーは反応して。

 「……じゃあっ!今日はこれぐらいで。うふふっ!大和ちゃん、からかうの面白いんだもの!」

 「……ぬぅぅぅ。」

 からかいだとも。 

 続けては、笑みを浮かべる。 

 また、これぐらいにしておくと、クーンは言い。

 来た道を嬉しそうにスキップしながら戻り。

 振り返っては軽く、いたずらみたく笑む。

 俺は、何とも言えず、軽く唸るばかり。 

 攻撃でもない、クーンらしい行為に、文句も出てこない。 

 「じゃあ、またねっ!」 

 「……。」 

 気にせずクーンは、やがて家に入ろうとするか。 

 またも手を振り、俺とアビーを見送った。 

 加えて、ウィンクだってすれば、きっとどんな男もイチコロかもしれない。

 そんな魅了に際して、致し方なく俺は、静かに手を振って応えるしかない。 

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