▲▲つ10っ!やっぱり、いっしょにはいろっ!

 「……はぁぁぁぁ……。」 

 完全に気配も消えたなら、安堵に大きな溜息を漏らす。 

 そうなると、余計にどっと疲れた気分となった。

 「……。」 

 とはいっても、そもそも疲れを取るために来ているし。

 それも全て、洗い流してしまおう。

 頭を振って、さっきまであった嵐のような出来事を、汗と共に落として。 

 俺はまた、シャワーを動かした。 

 身体を洗って。 

 大きく、かつ1人きりの浴場に身体を沈めて、伸ばした。

 こうすれば、疲労も記憶も拭い落とせよう。 

 「……!」

 と、思えば俺は、気になることも。 

 薬湯。  

 よく訪れているために、今日はどうしようか。

 そう思考してしまう。向けばふと、先のことも思い起こされて。 

 女湯ともつながっているから、このまま入るとマフィンに……。

 しかももし。 

 そんな時に俺が入ったら、それこそマフィンにどやされるだろう。 

 先のは、クーンが原因だが、この〝もし〟をしたなら、確実に俺の過失。

 そうなると見えるのは、マフィンの裸ではない。 

 ある意味の地獄。

 思うと、折角温まった身体が冷めてしまった。

 「……いないよね?」

 折角の温もりも消えると寂しい。それなら、薬湯に入らせてもらおうかな。 

 また、いつもアビーと来ていることもあってか、癖になっているかも。

 そのため、俺は湯船から出ると、薬湯のある部屋の扉へと向かった。 

 そっと扉に耳を当てて、その向こうの音を拾おうと澄ます。

 「……。」 

 何だか、デジャヴとしてさっきもやった気がするけれど。

 念には念を。俺はそうして音を探すが。

 伝わるのはお湯の流れる音と。

 薬湯の入った湯船にあてがわれた、スフィアたちの音色のみ。  

 その他、そう、人の気配を察知することはない。

 「……なら、いいか。」

 それならと、いないことに安心して。

 胸を撫で下ろすなら、その扉を開けて、薬湯へと向かおう。

 開け放つと。

 「?!」

 向こうから同時に、同じような音が響いてきた。 

 「あ……。」

 「あ……。」 

 つい声を上げるが、それは向こうも。

 湯気の満ちる空間で、その像を認識するのは難しいが。

 声からして、マフィンであることは間違いない。 

 「……。」

 俺はそっと後退して、その扉を閉めた。

 どうやら、ほぼ同じタイミングで入ろうとしたみたい。

 なら、俺が入るのも憚れる。

 何せ、マフィンはスフィアを使うのだから。

 それこそ迂闊に踏み入ると、クーンみたいに攻撃を受けかねない。 

 バスタオル羽交い絞めどころか、下手すれば直接攻撃。 

 俺にレーザーが直撃しかねない。

 ……いくら、化け物を相手取って帰還したとしても。

 何もないこの状態じゃ、身体に受けるとどうなるか。  

 「!マフィンちゃん今のって、大和ちゃんじゃない!じゃあじゃあ、一緒に!」

 「?!って、アビー!!!あなたはよくても、私はっ……!!そもそも、年頃の男女が一緒って、何を考えて……!」

 「……。」

 扉の向こうでは、加えてアビーも入ってきたようで。  

 俺だと気付くと、早速俺を誘おうとしてもいる。マフィンは当然咎めていて。

 恥ずかしがる様子も見せてもいるよう。 

 マフィンの言う通りかも。 

 年頃の男女がって……ううむ。 

 「じゃあ、多数決!大和ちゃんと一緒に入りたい人!はいっ!」

 「あなたねぇ!多数決って意味知ってるの?って、そもそもこれって、そういう問題どころじゃないけど……。それよりも、あなた以外に手を挙げる人いるの?」

 向こうでは会議みたいなこともしている。 

 今度は、俺を入れさせたいと意気込んでもいるよう。

 アビーは楽し気に声を上げていてついでに、手を挙げてもいるか。 

 マフィンはして、恥ずかしさもさることながら。 

 いつもの説教臭い冷静さを見せた模様だ。 

 アビーに対して、ツッコみを入れてもいる。

 アビーのことだから、多数決の意味を知っているのかどうか。

 さらには、感じからしてマフィンは反対の模様だし。

 アビー以外に手を挙げる人はいるのかどうかも疑問を呈して。 

 「……。」

 その疑問通り、多分決まらないだろう。   

 人がいないから。 

 「……あらぁ!じゃあ、お姉ちゃんも、はいっ!ほら、けって~い!」

 「わーい!!」

 「?!」

 ……前言撤回。

 いた。それも、クーンだ。アビーのように弾む声であり。

 同じように扉の向こうで手を挙げている模様。 

 それにもぎょっとするが。 

 そもそも、帰っていなかったのか?!

 あるいは、一緒にお風呂を満喫していたとでも言うのか?!

 心の中で、この状況にツッコんでしまう。

 「あぁぁもうぅぅ!!!ややこしいのがまだいたぁ!!!」

 「!……。」

 そんな状況にて、マフィンが叫び声を上げた。

 心中察するが、クーンまでいた、ついでに、手を挙げたとなると。

 話がややこしくなるようで。  

 扉の向こうで、頭を抱えて呻く様子さえ、想像できてしまう。 

 思って、静かに扉を見つめた。

 「大丈夫っ!マフィンちゃん!大和ちゃん、狼みたいに襲ってこないよっ!」

 「……まあ、お姉さんとしては、狼みたいに襲ってくれても、嬉しいけれどね?」

 「……それとこれと……じゃないっ!!あなたたちみたいに、羞恥心のない人じゃないのよ、私はぁぁ!!」

 「……。」 

 そんなマフィンを宥めようとするか。

 それぞれに声が上がるのを耳にするのだが、フォローとか。

 助けになっていない様子であり。 

 マフィンはきっと、頭痛に余計頭を抱えることとなっただろう。 

 ただ、内容もどこか、抜けているというか。

 俺を何だと思っているのだろう?何だか誤解しているようで。

 聞いていて、少しその認識、正したくもなる。 

 だが、冷静に。 

 このまま行けば、マフィンから非難轟々は元より。

 色々とカオスなことになりそう。

 デリケートであり、あれこれ言いたい気持ちをある程度抑えないとね。 

 そうして、そっと胸に手を当て。

 冷静さを感じては、向こうがどうするか、冷静に見据えることにした。 

 裏腹に、彼女らは。

 「じゃあ、びっくりさせないように、迎えに行くねっ!」 

 「えぇ?!そんなぁ。それはお姉ちゃんがしたいわぁ!」

 「……あなたたちねぇ……?!」

 「?!」

 迎えに来てくれるようだ。

 だが、マフィンは耳にして呆れ果てていて。

 それが意味することから、……あんまり驚かないものじゃないみたい。 

 「じゃあじゃあ!!行ってくるね!!」

 「……って、話はまだ……っ!!ああもう!!せめて、バスタオルで隠すぐらいはしなさいなっ!!!」

 「はーい!」 

 「!……。」

 マフィンの呆れは尻目に。

 アビーは早速俺を迎えようとして、同時に、水音を立てる様子から。

 湯舟から上がったらしい。

 マフィンは見て、もう諦めたか、仕方ない口調をして。

 アビーの姿から、そのまま行くのは薦めないとして、アドバイスをしていた。

 扉の向こうから聞いていて、俺は緊張にごくりと唾を飲み込んだ。

 驚かないばかりか、そんな会話を聞くと、逆に緊張してしまう。

 そうは言っても、迎えに来るだろうて。

 このままじゃ、対面する前に、顔面を傷めることになりかねないや。

 俺はさっと、扉から離れて、念のためにと姿を隠す。

 「!」

 丁度そのタイミングで扉が開いた。

 「大和ちゃん!!おーいで!」

 「!」

 開いたなら、そっと声と姿が現れて。口調から、明らかにアビーである。 

 その姿まずは見ないようにとつい逸らしつつ、横目でチラ見すれば。

 アビーはマフィンに言われた通り、バスタオルでその身体を覆っていた。

 そうなると、緊張も幾分か薄れよう。

 「あれぇ?」

 アビーはだが、呼んでも俺が現れないから、首を傾げているようだ。

 心配そうにされても悪く、俺は物陰からそっと姿を出した。 

 「あっ!大和ちゃんみっけ!どしたの?かくれんぼ?」

 「!……い、いや、何でもない。ただ、ちょっとだけ緊張しただけで……。」

 「?ふーん。」

 俺を見つけると、アビーは声を弾ませて喜びつつ。

 遊んでいるのかと、興味津々としてもきた。

 俺は、首を横に振って、ただ単に、緊張しただけだと。

 アビーは不思議そうにするだけで。

 「……そ、それよりも、薬湯に入っていいってこと、……だよな?」

 「!うん!さっすが、大和ちゃん!よく気付いたねっ!えへへっ!すっごーい!」

 「……。」 

 話変えるに。

 それは俺を薬湯への誘いだとしても。

 そう言うと、まるで超能力でも使ったかのような言い様をアビーは見せてきた。 

 言葉に詰まってしまう。

 まあ、言うまいが。

 そも近くでアビーみたいな通る声なら、聞こえない方がおかしい。

 「じゃあじゃあ!一緒に入ろっ!」

 「!……あ、うん。」

 なお、いつまでも不思議そうにはしない。

 追及よそに、アビーは翻って。

 期待に胸を膨らませつつ、手引きに手を差し出してきた。 

 俺は、静かに頷いてその誘いに乗る。

 そうして、また薬湯へ向かえば。

 「!」

 クーンとマフィンもまた、同じ湯舟にいるものの、マフィンは背を向けていて。

 どうやら、マフィンは恥ずかしいのだろう。

 クーンはクーンで、身体をタオルで隠していて。

 俺を見ては、にっこりと笑みを浮かべつつ、手招いていた。

 「え、ええと……。」 

 なお、俺の方は緊張に声を出せないでいて、また動けずにいる。 

 「あらぁ!緊張しなくてもいいのにっ!マフィンちゃんみたいに、恥ずかしがらなくてもいいのよ?アビーと一緒に入っているなら、お姉ちゃんとも入ろっ!」

 「……う、うぅ……。」 

 「そーそー!入ろっ!」

 「!!ひぇ!」 

 そんな俺にクーンは招きに嬉しそうな声を掛けてきて。

 躊躇う俺に、後ろからアビーが声を掛けるなら、そっと背中押すようで。

 軽く悲鳴を上げて、俺はうつ伏せに湯舟に浸かりそうになる。

 「……っととと!」 

 なお、それほど広くないために、俺は湯舟の淵に手をついて事なきを得た。

 「!……。」

 その、眼前に迫る湯舟であるがため。

 薬草の独特な匂いをダイレクトに嗅ぐこととなりむせ返りそう。

 湯舟の底から感じるスフィアからは、温もりさえ感じて。

 それが、落ち着かせてくれるなら。

 身体を一旦湯舟から出して、改めて姿勢を整えて入った。

 「!あぁ!」

 「わっ!お湯が溢れたぁ!すっごーい!」

 「!!ひぃっ!」

 「!」 

 すると、湯舟は満ち満ちて。

 淵から沢山こぼれる。見ていたアビーはすごいと意気込み。

 クーンはどこか、楽しそうに声を上げて。

 ……なお、他方マフィンは悲鳴を上げていた。

 思わぬことにぎょっともするが、マフィンの様子には、不思議そうにしてしまう。

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