▲▲つ9っ!よばれてとびでてくーんちゃん!

 何を思ったか。それは、クーンがして、俺の服だけじゃなく。

 下着や手袋を手に、臭いを嗅いで、悦に至る、そんな様子。 

 あのクーンのことだ、やりかねない!

 「……っ。」 

 しかし、小さく息を吐いて、緊張を解き、頭を振ってそんな思考を拭い去る。

 このままお風呂に入って、汗と共に流してしまおう。

 そうして、備えられているタオルを持ち、俺は浴場へ向かった。

 「!」

 なお、浴場へ至る前に、身体を止めて。そっと扉に寄り、耳を立て、気配を探る。 

 それは経験から。 

 こう、何度も何度も別れたのに、アビーときたら。

 いつの間にか男湯にいて、一緒に入ろうとするのだもの。

 まあ、簡単に出入りできるのはできるのだけど。 

 この銭湯には、それぞれの浴場の奥に、薬湯のある部屋があるのだけども。

 そこは男女問わず、行き来できるようになっていて。

 そこを通れば、簡単に往来できる。 

 ああ他にも、アビーぐらいなら、浴場に備えてあるシャワーや洗顔の壁。

 天井付近が開いているけれど、そこを飛び越えることぐらい、できるし。 

 いずれにしても、先のこともあって、緊張が余計にあって、つい警戒してしまう。 

 「……。」

 耳を澄ましても、銭湯からこんこんと流れるお湯の音だけがあって。

 その他。

 誰かの息遣いなんて、聞こえやしない。まあ、他に人はいないみたいだね。 

 それを安堵の印として、俺は浴場の戸を開き、中へ進んだ。 

 湯気の充満する世界であって。

 時折落ちる水滴の落下音がよく響く、そんな静けさ。

 他の人の気配はなく、ここには誰もいないことを訴えていた。 

 「……ふぅ。」

 安心の息を吐いて、俺はまず、汗を洗い落とすよう、シャワーへ向かい。

 また、椅子に腰かけて。

 勢いよく、そのシャワーの音を響かせるのだ。 

 流れる音と熱に、疲れもまた拭い落されよう。

 「……。」 

 顔を上げて、思い耽るかのように目を瞑り。

 流れる感触に身を委ねた。 

 「……ぬぅ。」

 ……でも、思考までは拭えないか。 

 クーンが今にも脱衣所で、ハァハァと息を撒いて、興奮しているかもって。

 結局、温かいのに、ぞっとする感覚に身が震えるだけで。

 「……ハァハァっ!」

 「?!」

 いや待てよ。 

 その感じた嫌な思考が、現実になりそうで。俺の背中から、誰か。

 そう、女性が吐息を漏らすような音を聞き、それも、背中の方から。

 その思考によるぞっとした感覚が、現実になりそうで、より強くなる。

 「……。」

 恐る恐る振り返るなら。

 「?!……!!」

 俺はぎょっとして、言葉を失った。

 そう、そこにいたのは……。

 「大和ちゃんが、私を想っていたから、来ちゃった!うふふっ!」

 ……クーンである。

 それも、わざわざ裸で……。……じゃない!!

 気付いたなら俺は、気まずさ感じて、さっとまた前を向いて。

 ……湯気で覆い隠されてはいるが、浴場において、らしい佇まい。

 「……って!!じゃない!!何で?!どうして?!」

 確かに、浴場に服を着て出入りするなんて、作業員じゃあるまい。 

 だけどもと俺は、それ以前にと頭を振って、拭って。

 「何でいるのっ?!」

 疑問を口にした、それも、背中にいるクーンに。なぜ、ここにいる

 何を考えている。 

 して、その答えは……。

 「えぇ?だって、大和ちゃんの臭い、とっても良かったんだもの。お姉さん、ちょっと興奮しちゃったかも?」 

 「?!」

 興奮した……とか?

 それに対して、何を言おうか。俺は返す言葉が思い浮かばない。  

 ただただ、ぎょっとするだけで。

 「!!」

 そうしている傍ら、クーンは歩を進ませて、俺にべったりと肌を重ねてくる。

 いつもの服装から分かるが、その胸の膨らみを、嫌に、直に、感じさせる。

 というか、何をしている? 

 俺は感じて、ただただ驚くばかり。

 「ねぇ?感じる?お姉さんの鼓動。大和ちゃんの臭いに当てられてね?うふふ、このまま2人で、〝いいこと〟しましょ?ねぇ?」

 「!!……!!」

 そのまま背中から俺に抱きついては。

 耳元で囁いてくる。おまけとして、とろけるような息遣いまで付けて。  

 俺は背筋を強張らせて、異様な緊張感を得てしまい。

 思考は、混乱して、どうしようか困り果てそう。 

 「あれぇ?大和ちゃんって、初心?うふふ……。かわいい!」

 「あ、あわわわわわ……!!!」

 その状態さえ、クーンは嬉しがるか。 

 嬉しそうに言っては、俺の身体をまさぐりだす。緊張から俺は慌て始めて。

 「うひゃぁぁぁ!!」

 耐えられず、叫んだ。 

 「!!!大和ちゃん!!!どうしたのっ?!」

 「!」

 と、その時に、壁の向こうからアビーが声を掛けてきて。

 そのトーンは案じに、不安さえ見え隠れて。

 「あ、アビーその……っ。」

 聞こえたなら、俺は助けを求めたく、声を掛けようとするが。

 「ふぅぅぅ~……っ!」

 「?!あひゃぁぁぁぁ?!?!」

 中断に、クーンにより耳に息を掛けられて。

 助け求めようとする言葉は消えて、逆に変な声だけが向こうへ届く。

 「!!!大和ちゃん!!!待ってて!!」 

 「……ってアビー!!……うぅ、何が起こったか、嫌な予感がするわ……。」

 「!!」 

 それだけでも通じる。

 アビーは、この時は察してくれて。こちらに向かおうとしてくれる。

 なお、傍らにマフィンもいるよう。アビーが何かするか察しては。

 注意しようとするが、ついでに、俺の身に何が起こったのかも察し付いていた。

 「?!わぁ?!」

 おいといて、ではアビーが何がするかと思えば。

 慌てて銭湯の、女湯と男湯を隔てる壁に、ひょいと軽々と飛び越えてきて。

 俺を驚かせるが、それ以上に困ったことに。 

 向こうも、一糸まとわぬ姿なのだから、この場に油を注ぐようなことに。

 なお、湯気は察してくれるか、ある程度覆い隠してくれているけれど。

 そうであっても俺には、恥ずかしさを感じさせて。つい視線を下げてしまった。

 「!!ああ、クーンちゃん!!!ダメだよぉ!!!」

 「えぇ?ダメなの?お姉さん、大和ちゃんと一緒にランデブーでもしたかったのに?」

 傍ら、アビーはクーンに気付いて。

 困ったようにしながら、咎めてもきた。 

 なお、背中のクーンは飄々としていて、効果はなさそう。

 むしろ、俺をダシに、話をややこしくしていて。 

 困惑して、間の俺は頭を抱えた。

 「ダメェェ!えーい!!」

 「!」 

 効果がないからと、アビーが次にしたのは、壁から男湯へ飛び降りて。

 その際に、床の水気が、バシャリと音を立てた。

 派手ではないことから、上手く着地した模様。

 その次は?

 「うにゃにゃにゃにゃ!!」 

 「!……その掛け声は……。」

 アビーは妙な声を上げつつ、また水場を蹴った模様。

 見てはいないが、察するに攻撃を仕掛けるようだ。

 その次は、実力行使らしい。

 「ふーん。そうするの?でも、お姉さん負けないよっ!」

 「!!……。」

 俺の後ろでクーンは見ていて。

 アビーの攻撃に対して、買って出るか。

 ふと、背中にあった感触が遠のいた。

 「……。」

 想像だけであるが、この後起こりうるのは?キャットファイトか。

 ……猫耳娘だけに……。ただし、見物はさすがにこちとら恥ずかしくてできない。 

 裸の少女同士がやりあうなんて……その、気まずい。

 「……って、あなたたちねぇぇぇ!!!!!」

 「?!」

 そうして、今にも始まりそうな矢先に。 

 マフィンの怒号が響いて。なお、方向は壁の向こうじゃない、もっと別の。

 そう、薬湯の入り口側から。

 アビーとクーンを見ないようにして俺は、視線を向けた。

 そこには、タオルを巻いて、肌が見えないようにしているマフィンであり。

 アビーの目に余る様子に、先の恥ずかしさは消えていて。

 言うことを聞かないことに、立腹の様子だ。

 「!って、クーン!!!いつの間に!!!……ああもう!!」

 クーンに気付くなら、アビーと同じの、肌の露出に。

 自分事のように顔を赤くしては、怒りか、恥ずかしさか含ませて。

 顔を赤くしては悪態をつく。

 「もう少し、恥じらいを持ちなさい!!!えいっ!」

 「?!えぅ?!マフィンちゃん?!うぎゃぁぁ!!」

 「えぇ?!ちょ……!!!いやぁん!!!」

 「!」

 説教臭くしそうな、そんなマフィンは勢いに乗せて、片手を動かすと。

 どこからか、清らかなグラスハープの音色が響き渡って。

 それは感じるに、スフィアである。

 何事かと思い、恥じらいなんてよそに、頭を上げて見渡した。

 「!」 

 と、マフィンのコントロールに合わせて、スフィアたちが飛来して。

 編隊組みつつ、光の膜を作っていて、何かこう、タオルらしき物を包んでいた。

 「……っ!」

 マフィンは聞こえるよう、短く息を吐き、そっと片手を動かすなら。

 合わせてその編隊は崩れて、見事布を。

 いや、大きなバスタオルを器用に広げていく。 

 それをなんと、クーンとアビーを包み込ませて。

 露になっていた肌を、隠していく。

 こっちとしては幸いだと安堵しそうだが、クーンとアビーの2人を見るに。

 どうも優しいとは遠そう。

 どちらかというと、縛るような感じで。  

 だからで、2人からは少々苦しそうな呻きを耳にした。

 また、ただ単にタオルを任せただけではない。

 よく見れば光の膜が、そのタオルに重なるようにあり、余計きつそうになる。 

 「いやぁん!!マフィンちゃん、あんまりよ!」

 「うぅぅ!マフィンちゃん、緩めてぇ~!!」 

 それがため、2人は訴えてくるものの。 

 「あなたたちねぇ!!!こうしないと、言うこと聞かないでしょ!!!もう!!」 

 「がーん。」 

 「……。」 

 マフィンの反論に一蹴される。

 知っていて、こうでもしないと2人は止まらないだろう。

 ショックを露にしているようだが、他方俺は納得する。

 クーン……は知らないけれど、アビーが暴れたら。

 マフィン自身じゃ手が付けられないだろう。

 だが、スフィアを用いれば、無理矢理止めることは可能だ。

 得意技で、そうやって大人しくさせるのも、マフィンならできよう。 

 「さぁ!!!女の子は女の子のお風呂に戻るわよ!」

 「!!」

 「待って!!ねぇ!!き、きつくない?!あ、謝るからっ!」

 「マフィンちゃん!!ゆ~る~め~て~!!!」

 ついでに、そんな2人の状態なら、マフィン1人でも連れていけよう。

 そのままマフィンは手を動かして、縛り上げた?2人を引きずって。

 元来た薬湯の部屋の向こうへと行く。

 まるで、駄々っ子を引きずる母親みたいなセリフを言いながら。

 そうなると2人は、当然痛そうに訴えるが、マフィンは聞きもせず。 

 やがて、男湯へ突入したクーンとアビーは、湯気の向こうへ消えていった。

 「……。」

 嵐が過ぎたと、静寂に思う。

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