▲▲つ8っ!せんとうでいっしょに?

 「うぅ……ううううぅぅうう!!う~!!!」

 「……。」

 先の、クーンからのある意味の反撃に、マフィンは蹲り。

 だが、顔を上げることなく、唸るような声を上げている。 

 相当に揉みしだかれてか? 

 身体が言うことを聞かない? 

 あるいは、もっと前。

 俺との特訓に付き合ったがために、体力が消耗してしまって。 

 どうにも立ち回れなかったか。

 そのために蹲るも、だが、俺にはどう声を掛けていいか分からないままで。

 「ふぅ~。スッキリ!」

 「……。」

 他方。 

 クーンは元気だ。  

 マフィンとは裏腹に、いや、元々だろうか。

 マフィンへの反撃は成功のよう。 

 元より、疲労してもいないし、アビーみたいに、気にする質でもないか。 

 俺はだが、ターゲットにされないよう、視線を合わさずに。

 というか、先ほど見た光景に気まずさもある。 

 その、無抵抗な身体を……ごにょごにょにょ……。 

 刺激が強く、言い表せないや。

 「さぁ!大和ちゃん!」

 「?!うぐっ!」

 そうやって、俺は何とか見付からないようにしていたのだが。

 クーンはすぐにこちらに狙いを定めてきた。 

 俺は、背筋が強張り。

 この時には、飛び上がることもできないでいた。

 そうであっても、あの熱視線を喰らわないよう、目線だけは合わせない。

 「更衣室で服を脱いでね?私が持って行ってあげる!マフィンちゃんもね!」

 「……うぅうぅぅぅ~……。」

 「!……ほっ。」

 クーンは言ってくる。 

 それは、狙いを定めてから、やる〝ごにょにょにょにょ〟ではなく。

 素直に自分の仕事の話のようで。 

 マフィンも、と言ってくれるが、残念ながらあの余韻……か?に。

 未だ立ち直れないでいるがため、返事は軽く呻くかのよう。

 俺の方は、普通のことなのに、酷く安堵に溜息が出てしまった。 

 「うんうん!ありがとー!クーンちゃん!」

 「!」 

 「ええ。もちろん。」 

 その、俺とマフィンが何も言えないために、代わりとしてアビーが言ってくれる。 

 声色は高く、責め立てることもない。 

 アビーがそうなら、完全に安心できよう。

 俺は、視線をまた戻して。 

 なお、クーンはアビーを見て、こちらも嬉しそうに笑みを浮かべていた。 

 「じゃあ、あたしたち、銭湯に行くねっ!ねっ!マフィンちゃん!ほら、あたしが連れて行ってあげる!」 

 「……うぅぅぅぅうう~……。」

 「……。」

 そこから、アビーはマフィンを見ては、介抱に向かい。

 そっと手を差し伸べて、言ってくる。 

 クーンへ一瞥して。

 他方、マフィンはまだ立ち直れない。

 けれど、その身体をアビーに預けることはできていた。

 アビーに介抱される形で立ち、が、クーンを見ることはない。 

 「うふふっ!行ってらっしゃい。後で取りに来てねっ!あっ!その時はお茶も用意するわ!」

 「!……。」 

 アビーへ返すに、クーンはいつも通り、らしい様子を。 

 小さく手を振って応じつつ、また、誘いもあって。 

 また来たなら、今度はお茶でも出すとのこと。

 俺は聞いて、しかし、嫌な予感がしてしまう。 

 話のダシに、俺のことが言われそう。これには不安になってしまった。

 

 そうして、見遅れて銭湯に入れば。

 「おっ!いつもありがとう!」

 「!……ええ、こちらこそ!」 

 番台の、虎耳と尻尾のの女性が声を掛けてきた。

 お風呂を求める人が、少ないか、それとも開店前か。 

 入口付近や。

 冷蔵庫を手入れしている様子を見せている。 

 俺たちが入ってきたことに気付いて、耳を弾ませると。

 俺の姿を見るなら、ありがたいなと、にっこり笑う。 

 言われて、こちらも改まってつい頭を下げる。 

 まあ、度々訪れているんだから、もう俺とアビーは特に、お得意様だね。 

 「!!おぉ!珍しい!マフィンちゃんも来てんだ!うははっ!嬉しいねっ!」 

 「!……あ、そっか。」 

 続けては、珍しく俺たちがマフィンを連れていることにも気付き。 

 珍しさに、目を丸くもしている。 

 俺もまた気付くと、確かにと納得。 

 アビーと俺は、よくここを訪れていたけれど。

 確かにマフィンは、あんまりここに顔を出していないな。 

 それが今日、珍しく訪れていると。 

 「……自分の家にお風呂だってあるだろうに……ん?」

 「!」

 珍しさにどうしてだか、考え出してきて。

 その際に、軽く臭いを嗅ぐよう、鼻を動かして。

 「……ああ。」

 「!」

 何か気付いた模様。

 「ははぁ!結構な運動をしたようだねぇ~。それでか。まあまあ、じゃあ、入っていきなよ!お湯はもう、沸かしてあるからさ!」

 「!……あ、はい。……。」

 「?ん?どった?」 

 「……い、いぇ……。」 

 どうも、俺とマフィンから感じる、汗の匂いに判断したようだ。

 それで、察して笑みを添えて、勧めてくる。 

 だが、分かってはいたが、指摘されるとこちらは複雑となる。

 ああ、そう言えば。この時にマフィンが何か言いそうな気もしたが。

 今のマフィンはとてもそうできる状況じゃない。

 「まあ、いっか。いいよいいよ!しっかり汗流してきな!」

 「……あ、はい。ありがとうございます。」

 俺の複雑さに、番台さんは不思議そうな顔をしたが。

 まあ、大したことじゃないと思うとまたも誘う。 

 俺は、ここは素直に頷いておくことにして。 

 勧められるまま、脱衣所へ向かう。

 「?!」

 「ん?」

 だが、俺は男湯へ足を進めていたなら。

 別方向、そう女湯へ別れる足音が聞こえない。 

 何事と見れば、アビーはマフィンを引き連れたまま。 

 俺と一緒のお風呂へ入ろうとしていたのだ。

 「?!ちょ……っ!!」

 「ん?」

 「……。」

 声を掛けよう。

 待ったを掛けるように。 

 軽く声を上げたが、察しが悪い、アビーは首を傾げるばかり。

 俺が何を言おうとしているのか、これから察していないや。 

 ここは、男湯だ。……あの、年頃の少年少女が入っていい場所では……。

 言いたくもなるが、つい緊張に俺は言えないでいた。 

 「?!~~~~!!!あ、アビー!!!」

 「?!わ、わぁぁ?!ま、マフィンちゃん!!どうしたの?!」

 「!」 

 代わりに。

 介抱されていたマフィンが、やかんから湯気を出す音を立てるなら。

 続けてとてつもない悲鳴を上げて。 

 それには、2人驚いてしまう。

 アビーは、何事と向いては、目を凝らす。俺もまた。

 見ればマフィンは、赤熱しているかのように真っ赤である。

 「何で!!何で男湯に向かっているのよ!!」

 「えー?どーして?大和ちゃんと2人でもあったかいけど、3人ならもっとあったかいよぉ?」

 「っ!!だから……っ!!って、あなたねぇぇ!うぅぅぅ……!!」

 「……。」

 アビーが見たとなると、声を上げて訴える、そう、俺が思っていたことを。 

 ただ、言われたからとアビーは、不思議そうに首を傾げるばかり。 

 挙句の果てにアビーは、普段の自分たちがしていることまで口にする始末。 

 火に油を注ぐか。 

 マフィンの赤熱は余計に増して。周囲に熱まで放ってきた。

 思考がまとまらず、混乱に最後は呻くけれど。 

 傍ら。

 こっちは恥ずかしながらと、普段を思い返し、何とも言えないことに。

 簡単に言って、アビーは羞恥心はない。 

 よく、銭湯に来るものの、俺とアビーは一緒に入っている。

 ……というか、勝手に男湯に入ってくる。  

 恥ずかしいからと言ってはいたが。

 だが、アビーなのだ、聞きやせず、俺は普段も致し方ないとするしかない。

 恥ずかしいが、……男としては嬉しいような。 

 ううむ、何とも言えない。それが、言葉を失わせてしまう。 

 「私はまだ、結婚もしてないのよっ!!!男の子と一緒になんて、言語道断よ!!」

 「……。」

 「あと大和も!!!ちゃんとしなさいぃぃぃ!!!」

 「!……あ、……はい。」

 マフィンの勢いは消えない。 

 恥ずかしさのあまりに沸騰したまま、それこそ、魂の叫びのように告げる。 

 恥ずかしさの表れと、ついでに、俺への説教もか。

 ちゃんとしろと言われて、つい俺は姿勢を正した。 

 「……ええと、アビー。……その、マフィンがこうだから、ね?大人しく女湯に行って欲しい……なぁ?」 

 「?」

 「……。」

 からこそ、俺はアビーを見て、マフィンの意志を汲み、言う。 

 控え目になりつつも、今日はマフィンがいることだしと。

 大人しく女湯に行って欲しいと願った。

 が、通じず、首を傾げるばかり。

 そうなると、困ったと行った具合であり、俺はつい頭を掻いてしまう。

 こうなると、どういう手段を採ったものか……。

 「……!」 

 頭を巡らせて、気付くと顔を上げて、アビーを見た。

 「あ、あのさアビー。きょ、今日はマフィンもいることだし、その、マフィンはかなり疲れ切っているからさ、マフィンの介抱してあげてよ。だから、ね?ああ、俺の方は大丈夫だよ。何とか身体は動くしさ。」 

 「!!」 

 思い付いたことは、マフィンを見て感じたことでの閃き。 

 マフィンの様子、まあ、あれほど全力を尽くした挙句。

 クーンに掴まって、あんなことやこんなことされたのだから。

 疲弊の具合は俺の比じゃない。

 現に今、マフィンはアビーに介抱されるままであるのだから。

 そう諭すなら、アビーは耳を弾ませて。

 様子から俺は、アビーは理解した模様と。

 「あ!そっか!マフィンちゃんお疲れだったね!じゃあ、あたしが何とかしないといけないねっ!ごめんねっ!気付かなかったよ!」

 「……理解したみたいだね。」 

 言ってくることからもそう。 

 アビーはいつものらしい、弾むような感じで。

 おまけとしては、自分が何をすればいいかも分かっていると感じさせる。 

 それは良かったと俺は、頷いて安堵した。  

 「じゃあ、今日は仕方ないや。」

 「……だね。」

 「大和ちゃん、あたし、マフィンちゃんをキレイキレイにしてくるねっ!今日は一緒に入れないけど、でも、寂しかったらいつでも呼んでねっ!壁なんて飛び越えてきちゃうんだからっ!」 

 「……あはは。」 

 分かったとなると、アビーは少し残念そうにしながらも。

 らしくその続きに、マフィンと一緒に入ることを言ってきて。 

 らしくあって、俺は互い笑い合うことに。 

 そうして、笑顔のまま、それぞれ分かれて浴場へ向かった。

 脱衣所で俺は、バックパックを降ろし、大切にロッカーに入れると。 

 汗ばんだ服などを全て脱ぎ、畳んで籠に入れる。

 置いておけば、何でも、クーンが持って行ってくれるとか。

 さっき、そんな相談をしていたような気がする。

 「……!!うぐっ?!」 

 と、その時に、嫌な悪寒を覚えて、身震いした。

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