▲▲つ3っ!れーせのしゅぎょうっ!!
《それはそうと。……だから……。》
「!」
《だから最近、君はレーセの修行をしているのかい?》
そうしていたなら、傍ら博士は別のことを聞いてきて。
それは、最近のことになるが。
レーセの使い方の修行をと。
「……。」
言われて俺は一旦はっとなり、また視線を落として。
自分の手を握ったり開いたりして軽く物思いに更けてしまう。
博士は気付いていたか?
いや、多分こんな村だから、すぐに噂なんて広まるね。
というか、秘密にしてもいないし。アビーだって知っている。
マフィンなんて、言わずもがな。
ああ違うね。そもそも、マフィンが俺の師匠なのだ。
マフィンは、伊達に色々知っているわけじゃないよ、色々と器用にできる。
このレーセの修行だって、できる。
願ったことだし、そう、博士の言う通り。
〝だから〟。……いや、だから……もあるかな?また、フェンリルに、会って。
また、ヴァルキリーに会って、……戦うのかもしれない。
その時、もっとすごくなっていたら、どうなるかな?
負けたからではなく、守るために、かな。
「……かも?」
しかし、今ははっきりしない俺は、曖昧に首を傾げて、そっと笑む。
《……そうか。まあ、それが君らしいな。ははは!》
「……あはは。」
その曖昧であっても、よく。博士は隣で笑い、つられて俺も、苦笑して。
「……あ。」
と、その修行ということに、気付いて、笑い声を止めてしまう。
そう言えば、今日の予定ってどうだったっけ?
気になって、軽く慌ててしまう。
《……?どうしたんだい?》
「……そう言えば、マフィンと約束があったような……。やばっ!」
《……あはは。君らしいな。いつもは真面目なのに、時折、こんな風にポカを犯すなんてね。》
「……うぅ。」
気付かれて。
俺は一応話はしたが、軽く笑われた。
自分でも感じてはいたが。
指摘されると、恥ずかしくなり、俺はつい俯いてしまう。
《まあ、それよりも、約束があるなら、行ってあげないと。私の方は、これでいいからさ。また、機会があれば!》
「!……ええ。」
俯く俺に、追加で何かするわけもなく。博士は言って、俺の背中を押してくれる。
言われると、さっと俺は顔を上げ、そっと頷いたなら、またも口元に笑みを。
俺の様子見て、博士は画面の向こうから、手を振ってくれた。
こちらも手を振り、応じて。
かつ、空いた方の手で軽く空間を撫でては。
俺のバックパックを呼び寄せる。
中には、呼応するように光るバックパックがいて。
空中で手にしては、そっと紐を身体に通す。
荷物背負っては、また博士を向き、手を振った。
急いで行き、そう、村の中の、森がトンネルとなった道を駆け抜けたなら。
先には、開けた場所で、そこに辿り着く。
その向こうには、静かに、背中をこちらに向けて佇む、誰かの姿を見付けた。
森の中にいそうな、ふんわりとした服装で。
光の加減で、不思議と色合いが変わる、長い髪の猫耳な女の子。
マフィンだ。
この、開けた場所にて。
陽光に晒されると、その風合いが不思議と魅力的に感じる。
「!!……じゃない。」
……と、感心しそうになるも、そうじゃない。
約束を忘れていたのだから、と俺は頭を振り、感心を振り払って。
謝罪へと切り替える。
「と、ととっ!ご、ごめんよ!マフィン!」
その背中に向かい、俺は切り替えた謝罪を掛けた。
見えていないかもしれないが、頭を下げて。
「……。」
「?!」
その俺を見るか。
マフィンは振り返るなら。
その表情は憂いにも、哀れみにも捉えられる、複雑な表情を呈していて。
怒られると予想していた俺は、その表情から感じられることに。
ついぎょっとして、何事と身構えてしまう。
おかしい。
一体、なぜ、そんな顔をする?
いつものマフィンじゃないそれに、俺はこんがらがりそうになる。
また、その手にはいつの間にか、レーセだって握られていて。
それも、特徴的な柄をしている。
曲がっていて、丁度サーベルの類を思わせるか。なお、それは構えてはいない。
「……ええと、ま、マフィン?」
キョトンとしている俺は、そんなマフィンに、どう声を掛けよう?
俺は、混乱しそうになり、呼ぶ言葉も思い浮かばない。
マフィンは。
「……ええと。〝わ、私はあなたを育てた。あなたを愛し、武器を与え……〟。」
「?!あ、あのマフィン?!」
何を言い出すか?
しかし、言い回しがマフィンらしからぬ。
また、たどたどしくあり、顔こそ神妙を崩したりはしないが、言葉を忘れたか。
時折空を見て、思考巡らせる様子だって見せていた。
「……。」
致し方なくなったか、ポケットから何かメモを取り出すなら。
そのまま目で追いつつ。
「〝……技術を教え、知恵を授けた。も、もう私から与える物は、何もない。後は、私の命をあなたが奪って!〟……。」
「?!ひ、ひぇ……っ!」
……からの、続きを紡ぐと、なかなかに物騒な言葉だ。
言い換えると、ここで自分を殺せと言わんばかりの言い様。
俺は、聞いていて軽く悲鳴を上げて、身を退く。
「……〝自分の手で、どちらかが生きる。勝ち負けではない!私たちスフィアの使い手とはそう言う宿命!生き残った者が、ウィザードの称号を受け継ぐ!そして、その名を受け継いだ者は、終わりなき戦いに漕ぎだしてゆくのっ!〟……。」
「……あ、あの……?ま、マフィン?」
俺のたじろぎなんてお構いなし。
マフィンはなおも続けるや。
まるで今から、最後の戦いが始まらんとしているかのような状況に。
挙句、言いつつマフィンは、軽くその気を思わせるように。
こちらを見るや、鋭く射抜く、きつい視線を向けてきた。
「……ねぇ、大和。この時間、人生最高の時間にしましょう!」
「!!!」
最後の言い切りに、マフィンは手にしたメモを丸めて、投げ捨てて。
レーセを構えては、さながら、格好がよく。
光の刃を迸らせれば、今から戦いが始まると予感させた。
しかもその構え、エレガントにも思えて。
剣を丁寧に凪ぐかのよう。マフィンらしい、ような気がする。
「……っ!」
そうなると、俺も構えねば。
そっと、宙に手を掲げて、さも、何かを握るかのよう。
呼応して、バックパックが開き、細めの懐中電灯状の物が飛来する。
手に収まるなら、それは俺のレーセだ。
アビーからもらったものだけど。
まだ、使い続けている。
それを俺は、握り締めて、目の前に持ってくるなら、光の刃をこちらも迸らせる。
そうして、構えるが、俺のは違う。
握り締めたそのレーセを引き、片方の手は、弓のように構えて。
それは、かつて俺と対峙した、フェンリルが見せた構えだ。
「……。」
「……。」
2人して構えるなら、緊張に時が止まったかのような感覚に陥った。
それが嫌に緊張を呼び、俺はつい、ごくりと喉を鳴らしてしまう。
「……っ!」
「!」
その沈黙の最中に、マフィンがふと、小さく息を吐いた。
それは、攻撃のモーションか?!つい身構えて。
動く。
「!……?」
……だが、攻撃じゃない。
マフィンは突然、頭を抱えて蹲ってしまった。
「……うぅぅぅぅぅ~……。」
苦悶にも呻き。
「……?!」
なぜに?
何事?マフィンが突然そうなったことに、俺は混乱してしまう。
困ったことだ、何がそうなったのか?俺は分からずにうろたえそう。
おまけに、誰もこの近くにいないことが、不幸で、助け舟さえ呼べない。
なら、仕方ない、俺でどうにかしないと。
なのに、俺は思いつかない。
「……。」
レーセを仕舞い。
俺は祈るしかないか?
「!」
……しかし、風だけは味方か。
マフィンが丸めて捨てたはずのメモ?が、風に吹かれて転がり、俺の足元に。
「……。」
よく分からないが、これをマフィンは見て、俺にセリフを言っていたが。
果たして、何が書いてあったか。
そっと手に取り、丸められたメモを丁寧に解いていく。
「……ええと。」
誰が、何のために書いたか。
俺はそっと、その内容を読む。
「……〝レーセに緊張するマフィンちゃんに!これを読んで、このセリフを言えば、勇気が出るよっ!〟……とな?この字は……。」
最初に、そのようなことが書かれていて。
それも、癖のある文字であり、一見で誰の字だか分かった。
「……カワマツリさん……。」
その名を言う。
カワマツリさん。
あの、博士を直してくれた、手先の器用な人。カワウソの人だ。
また、続きとして、色々文字を読めば、マフィンが口にしたセリフの数々があり。
「……。」
見ると、何とも言えない気持ちとなった。
「……あぁぁぁ!!!もうぅ!!!らしくないことなんて、するんじゃなかった!それに、相談する人間違えたぁぁぁ!!!」
「!!……。」
傍らで、マフィンは悲鳴を上げて。
頭を抱えて叫ぶ様子は、異常なほどの後悔を感じる。
そのために、気にもなる。一体何を相談したか。
「!」
まさかとピンと来て、俺はそっと、マフィンに歩み寄った。
「……もしかして、マフィンまだ、怖い?」
「!!」
その歩み寄りに合わせて、言葉も。
口にするなら、そう、マフィンの抱くものを。それは、恐怖だと。
マフィンは耳にして、ぱっと顔を上げるなら、恐怖の色合いに顔を染めていた。
やはりだ。
では、何の?
決まっている、レーセ同士の斬り合いの恐怖だ。
マフィンから最初、教わった時に言われたことだが。
レーセ同士の斬り合いは、ここ数百年行われていないとのこと。
実際、あまりにも切れ味が鋭い。
というか、まずフォトンシールドなどでないと、基本防げない。
まあ、同じレーセぐらいなら何とかだけど。
とにかく、基本的に何でも切ってしまうために、対峙すれば恐怖するのだ。
そんなのだから、レーセによる剣術なんて、廃れてしまう。
かつ、剣術は扱いにくいこともあって、だ。
「当ったり前でしょう!!!!」
「!!ひぇ……っ!」
マフィンは一方で、顔を上げるなら、悲鳴混じりに叫んできた。
叫んできて、立ち上がると、俺を指で突き刺しつつ、非難さえある。
その様子に、たじろぐ。
「私は、あなたみたいに斬り合うようなこと、したことないわよ!!そもそも、資料で読んで知っているだけだし!!!」
「……うぅ!!」
ずけずけと俺に言葉を突き刺してくる。
そもそも、レーセで斬り合うなんて、危険すぎてできない。
そもそも、自分でも剣の実力はない、むしろ、資料で知っているだけ。
なお、俺はこの点には疑問を禁じ得ない。
読んだだけでできるなんて、マフィンは凄いと思う。
そう感心したくもあるが、今はそういう状況じゃない。
この状況をどうにかしないといけないと。
「まったくもう!!!あなたはすぐそうやって危険なことをするっ!!」
「うっ!……その……。」
……マフィンは突き刺す言葉を続けるが。
その言葉がやがて、説教臭くなり。先ほどまでの、恐怖はいずこか。
変わりように、こちらが怖くなってきた。
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