だい1しょう! そらのしたでへいわをいのるっ!

▲▲つ2っ!そらのしたで、へいわをいのるっ!

 風が通り抜ける、気持ちのいい草原に。

 向こうから小鳥の歌声さえ聞こえよう、そんな昼下がりに。

 俺は晴れた空を見上げて、腕を突き出して、そっと微笑む。

 平和の、その日常にか。それもある。

 けれどその笑みには、再会を、ああ、もう一人の俺との再会を喜んで。

 生きていたと、訴えて。

 生きていてくれて、俺は嬉しく、感謝もしたくなる。

 きっと、この空のどこかで、俺と同じように、手を伸ばして、見ているのかな。 

 微笑みながら、俺は思い出す。

 レーザーセイバーが弾き飛ばされて、俺に切っ先を突き付けた。

 俺の元の身体であり、それでいて、俺のような意志を持ち、個人として対峙。

 とどめを刺せそうだというのに、だが、刺さない。

 まあ、自分たちの仲間がやられているのに、戦闘なんて呑気なことできないか。 

 ……今も思う。

 衝撃だったけど、嬉しかったかも。

 そんな、彼……ええと、〝フェンリル〟、今もどこかで元気にしているかな。

 そう思えば、またも笑みが口元に零れる。 

 「!」

 と、その時に、妙なモーター音が接近するのを耳にした。

 そうだね、何だかラジコンの音みたいな。

 草原に寝そべっていた俺は、誰だろうかと身体を起こして、見渡して。 

 見付けるなら、音源は妙な機械からだ。

 その機械、大きなモニターに、キャタピラが付いた妙ちくりんな物。

 俺を見付けてか、独特な音を立てつつ、進み来る。  

 怪しく感じそうなものだが、警戒しない。

 その正体を知っているからだ。

 知っているから、俺はそっと笑みを浮かべて。

 《やあ。》

 「!……〟博士〝!」

 俺と視認できる所まで来たなら、途端モニターが点灯して、誰かの姿が映し出される。

 それは、白衣を着た、研究者か医者のようないで立ちで。もちろん、その人物が誰であるかも分かる。 

 俺を、俺の身体を保存した人で、また、俺がどうしてこの肉体なのかを解説してくれた人。スピーカーから、声掛けをしてくれた。

 ……あれ?

 人というよりは、どちらかというとプログラムみたいな、だったかな?

 まあとにかく、知り合いであり、安心する。

 いやそもそも、俺のいるこの場所近くに敵意を抱く人なんて、いないけどね。 

 知っているからこそ、俺はその人の愛称を呼んだ。 

 そんな、研究者みたいで色々と知っているから、〝博士〟と。

 なお、元々は俺が持つ盾の中にあった、プログラム?電子データ?

 みたいな状態だったんだけど。

 回収した時に、カワマツリさんが、色々なパーツを元に。

 自在に動ける、ロボットみたいなのを作ってくれて。

 こうして、動いてお話ができるようにしてくれたんだ。

 あ、カワマツリさんってのは、カワウソの獣人。

 手先が器用で、色んな道具を作っているんだってさ。

 だから、博士、ああいや、博士が〝保存〟されていた。

 〝アイギス〟……とか何とか言われる盾を修理して。

 ちょっと前からこうして稼働できるようにしてくれたんだ。

 おかげで、色々な話ができるようになって。

 今じゃこうして会っては、よくお話をする感じなんだ。

 《相変わらず、時間があったらこうして君は、空の向こうを眺めているんだね?》

 「……ええ。」 

 博士は俺に言い、優し気に微笑む。 

 俺は、そっと頷いて、同じような優しい笑みを浮かべた。

 「……思っているんです。」

 《?何を?あるいは、誰をだい?》

 「……もう一人の俺……って言えばいいのかな?元の肉体であっても、まるで、俺と同じように動いて、思考して……。それでいて、同じ名を名乗った、あの人を。」 

 《!……不思議な話だね?》

 ちょっと空を見ては、俺は呟くように言う。 

 もちろん、聞いてくれて。だからこそ、俺は続きとして、その誰かの話をする。 

 博士は、不思議そうにしていた。 

 「……ええと、まあ、不思議な話ですけどね。何だか、今でも信じられないや。」

 《……へぇ。》

 優しい笑みをしつつ、信じられないとも。 

 「……何でも、俺のあの盾が言うことには、〝モンスター〟に該当する……とか、なんとか。」

 《?!……何だって?!》

 「!」 

 そのまま、ぽつりと呟きつつも。

 また、生きていた理由の一環として、俺が告げたのはモンスターだとも。

 ああ、RPGとかじゃ、よくあることだろうけれど、この世界じゃ、そうそうない。 

 ここでいうモンスターって、実質不死身らしいから。なお、体内にスフィアを持っているらしく、永遠に生きられるって。

 だからこそ、俺の元の肉体は、生きていて。 

 でも、そう告げたなら、博士は顔色を変えて、驚愕の色となる。

 《……私でも、知らないな。》

 「!……あ、そうだ!博士って、元々帝国にいて、研究者としていたなら、詳しいですもんね。」

 《ああ、そうだ。……だけど……。》

 「?」

 それは、知らないとも。

 そこでふと気付いたけれど、博士は元々帝国の人だから。

 俺がピンときたことは、だったなら詳しいのかもと期待して。

 その点は頷いてくれるけれど、その先は何だか言い淀んでいるよう。

 何か気になる点があるのか、俺は気になり不思議にと首を傾げた。

 《私が知っているのは、あくまで〝昔〟までだ。最近は知らない。それでもいいなら、説明するけれど……。》

 「!……ええ、構いません。」

 その淀み、どうも知っていることには限りがあるということか。

 博士はよくない面持ちで俺に言ってきた。

 俺は、構わないと頷き、促す。 

 《分かった。なら話すとしよう。まあ、久し振りに誰かと話をするのも悪くないけれどもね。……こういう話じゃないなら、ね。》

 「!……そうですね。」 

 俺の促しに応じるように、博士は頷きやするが、どこか複雑そうで、苦笑も。 

 このように、誰かと話せるようになって。

 だけど、その話が苦々しいものなら、それはそれで悲しいかな。  

 俺も、苦笑するしかない。 

 《じゃあ、私が知っている限りでは、人型タイプのモンスターというけど、これぐらいかな?》

 「!」 

 苦笑から、博士は話し始めて。 

 知っている限りとして、自分の記憶を元に、情報をモニターに表示する。

 博士の姿は代わりに見えなくなったけど。 

 そこには、分かりやすく3人の姿が、顔写真付きで表示されていた。  

 灰色の、長い髪の、猫耳をした女性。 

 黒地に縞模様に、長い髪の猫耳女性。 

 三毛柄にて、大きな眼鏡をかけた幼女。

 おまけとして、動画も。

 灰色の女性の方には、荒々しく、また、狂獣の様相で、敵を薙ぎ払っていく様子。

 反対に、縞模様の女性は、静かに相手を殲滅していく。

 また、振り払うレーセの太刀筋は綺麗で、鮮やかだと思ってしまった。 

 三毛の幼女は……。

 ……一日中パソコンに向かっているだけ。

 先の2人とは反対に、動きがほとんどない。 

 まあ、この幼女に至っては、見たことはないのだけども。

 先の2人は逆に、俺は見覚えがあると言える。 

 ……先の、リオンキングダムにて、昔の俺と戦った時に、一緒にいた。  

 最初は、その灰色の女性を相手にしていたけども。

 それでも、強かった。

 俺が、色々と策を出さなかったら。

 今頃アビーと共に、あるいは皆が全滅していたかもしれない。 

 それだけ、強力な人物だ。 

 それと、縞模様の女性も。

 「!」 

 プロフィールまで表示されるなら。

 先の、灰色の女性から、〝ヴァルキリー〟。

 次に、縞模様の女性は〝トール〟。

 最後の幼女は、〝エイル〟と表示されている。 

 名前なのかも。 

 ああ、そう言えばと思い出す。

 リオンキングダムで戦った時、特に灰色の女性はそう呼ばれて。

 サカマタさんたちが恐れていたな。 

 強かった。

 そう言うしかないけれど。

 具体的には、大部隊が相手でもひるまず、下手をすれば、打ち勝つレベルで。

 それを傍らで見て言わしめるなら、確かにモンスターであったと。  

 《……私が知っているのは、この3人までだ。》

 「!」

 そこで、博士が知り得る人型モンスターの話は終るよう。

 画面が戻って、またの博士の姿で表示されるが、どこか残念そうだ。

 俺としては、悲しさも感じるが。

 意外と少ないことに、何だか何とも言えなくなる。 

 まあ、侮ってはいけないけども。

 《……これは、私の予想だが、この〝エイル〟というのが、厄介だと思う。他のもそうだけど。》

 「!」

 ただしとして、予想がある。 

 博士は口にして、暗い顔をして。 

 それは、エイルというモンスターに何かあるようだ。 

 《……その、このエイルというのは、身体能力は残念ながら、先の2人と比べると低いのだが、知識量は豊富。技術だってある。何より……。》

 「!……。」

 その暗い顔のまま、紡ぐのだが、やはり何か、嫌なことがあるか。

 すぐにまた、淀みへと変わる。

 《何よりエイルは、私の弟子のようなものだ。まあ、ようなもの、であって、完全にそうだというわけでもないが。》

 「?!」

 その淀みとは、どうもエイルというのは博士の〝弟子のようなもの〟、らしいが。

 しかし、断定していないことに、どうやら事態は複雑そうだ。

 して、それは?

 俺はより、耳を傾ける。 

 《彼女は、エイルは、私の知識や技術をコピーされているモンスターだ。直接脳内に書き込んだ、というのに等しい。それに、悪影響としてだな、エイルは後の私のクローンも弄ってしまってね。……それで、あんな狂人が産まれてしまったんだ。》

 「!……。」

 それは。

 言うなれば、まるでコンピューターでデータのやり取りをするみたいな感じで。

 技術や知識をコピーした存在であると。  

 挙句の果てには、その持てる技術と知識を使い。

 この博士のクローンを改造してと。

 聞いて脳裏には、帝国との決戦に挑んだ際。

 この人と同じ姿の男を見掛けたけれど。

 その人は、この人みたいに話ができる状態ではなかった。

 それは、エイルという人物がやったというのか……。

 理由はどうであれ、そんなことをするなんて。 

 《まあ、そんな彼女だから、きっと作れるに違いない。》

 「!」

 《私と同じ研究ができるということは、モンスターだって生み出せた。思うに、君が見掛けた、私の知らない人型モンスターは、そのエイルの手によって作られたのかもしれないな。》

 それを前提として、結論としては。

 あの、俺の元の肉体を使ったモンスターは、エイルという人が作り出したと。

 「……。」 

 耳にして、気まずさと、嫌な予感がしてならない。 

 「……それって……。」 

 抱いたそれを、口にしてしまいそうに。 

 「……その、モンスターって、作り出せる、ということですよね?なら、帝国はまだ、抵抗を続ける……と?」

 《……よくは分からない。せめて、その予感が的中しないことだけを祈りたいね。》

 「……です、ね。」 

 それは、今もまだ、戦いが終わらないと。

 モンスターが存在し続ける限り、抵抗がまだできる。からこそ、だ。

 でも、博士は祈る、そのようなことが起きないことを。

 俺も同じくと頷いては、この晴れた空を眺めた。

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