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ヤマトのバイトもるのさんがいることで面倒になり、実はあれっぽっちの給料なのに中間業者に天引きされていることがわかっていったんやめることになった。
るのさんがここに来てから10日ほど。
生活は平穏だった。るのさんは薬が切れたので駅前で適当な内科に事情を話し、薬を貰っていた。
眠るのを伸ばす薬も与えたかったが、俺には「あまり」はなかった。
その間にるのさんは台所の窓から光が差し込むのが「光が入って絵に影響する」と言って台所の窓にカーテンを張ったり(棒と布だけ買って1000円くらいで自作したという)電気で入れておくだけで煮物ができる鍋のようなものを買ったりしていた。
食器は使ったらすぐ洗っており、清潔に保たれている。
俺は相変わらず昼は眠気が取れずぼーっとしていたがるのさんが隣の部屋からダブルベッドの部屋の方に来て「映画みていい?」と言って一緒に見ることもあった。
少し話すとるのさんは映画は好きだがDVD派で、映画館が嫌いで映画館に15年行ってないという。
「今度一緒に行こう」と約束した。
俺はもう決めていた。
るのさんと一緒に住むことに。
るのさんがあとはどうするかだけだ。
11日目…ぐらいだったか?さすがの俺もハッキリとは覚えていない。
近所の公園に連れて行った。
家の目の前には確かにるのさんが十五夜の日に写真を撮ったという小さな公園がある。
その奥がとどろきアリーナで、サッカーをやっている日は歓声も聞こえるほど近いが、横にずれると長細く、広い公園があるのだ。たまに小さなフリーマーケットもやっているような市民公園だ。
広い公園のさらに向こうにはたまに映画を上映する小さなシアター、小さな市民美術館があった。
小さなミュージアムショップもあった。
るのさんは目を輝かせ、ミュシャの絵のクリアファイルとムンクの「叫び」の絵のノートを買った。
「これがムンクさんじゃないのは知ってるよ!?」というので笑った。
るのさんが「ここなら楽器吹いても大丈夫だよね?」と聞いてくる。
楽器?家には楽器などないが
「あと家ででかいスケッチブック見つけたんだけどもらっていい?」とも聞いてくる。
スケッチブックは俺が閉鎖病棟(いくら薬を飲んでも眠れなくなり入っていたのだ)にいた時に買わされたもので、スケッチの時間もあった。
ああ、あの巨大なやつ…まだあったんだ、と思い出す。
「楽器って?」
「えーっとね、ヴェノーヴァって言うんだけど、サックスみたいなやつ、去年から予約してて月末には届くんだよね」
ああ、YAMAHAのやつか。
家じゃ吹けないだろうから、もちろんここなら大丈夫だよ、と言っておく。
スケッチブックももういらないからいいよ、と言った。
俺は働き出そうと思っていろんな場所に履歴書を送っておいた。
俺の学歴書は美しいので(英検が準2級なのが不満なくらい)いくらでも働こうと思えば働けるのだ。
ミニシアターでは何をやるの?と聞いてきたので「あー、市民なら600円で見られて、プログラムも送られてくるよ」と答える。
るのさんが「じゃあいとうくんと初の映画鑑賞はここかな?」とニコニコしている。
るのさんは笑顔がうまくない、と思っていたけど素直に顔に出るタイプで、ひとりごとも多かった。
となりから「ああ!もう!」とか「んーーーー!!」とか「そうなんだ!!」とか聞こえてくるのは誰かとしゃべっているのではなく、ひとりごとなのだと数日で気づいた。
長く続き過ぎた夏の気配は終わり、急に秋を通り越してしまいそうな雰囲気が漂っていた。
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