3
るのさんが来て4日目、俺は友達の家に呼ばれていて、酒を飲みながら22時くらいに帰った。
帰るとるのさんの姿がない。
どこか行く時は書き置きをしていくはずだがテーブルにも書き置きはなく、ただカレーが入った鍋の乗ったカセットコンロと机の上にタブレットPCと無数の筆記用具があるだけだった。
電気も全ての部屋が消えていた。
いなくなってしまったのだろうか?
俺は不安になった。酔いが醒めていく感じがした。
ガラガラーとベランダに通じる隣の倉庫にしてる窓の音がした。
ベランダにいたらしいるのさんは倉庫部屋から台所に戻り電気をつけた。
「あー、ごめんごめん、気づかなかった、お帰りなさい」
「なにしてたの」
「今日は十五夜なんだよ。スマホだけど21時くらいまではね、外の前の公園でベンチに横になってたんだけど、中々雲が晴れなくて、やっと数枚写真撮れたんだけど
ちょっと寒くなってきたし、家のベランダで写真撮ってた。スマホだけどね」
俺はスマホで写真を撮らなかったし撮られるのも好きではなかった。
るのさんは一眼レフは手放したというが、写真を見せてもらうとスマホで撮ったとは思えないくらい見事で、フレームの切り方が独特の写真を見せてくれた。
「実は、探して欲しかったの」
ニコニコしてるのさんがいうけどそんなゲームめいた遊びは俺はあまり好きではない。その時は黙っていた。
「ご飯食べる?」
二人でカレーをよそって食べた。
一緒に何か見て23時ごろに一緒に薬を飲み、時計の針が0時に近いな、と感じたあたりで眠りについた。
5日目が何曜日だったか覚えてないが、そのくらいにるのさんの知り合いという「普段は女装しているゆずくんという男の人」と飲まないか、と誘われた。
ふと連絡を取ってみたところ偶然新丸子の駅から5分ほどのところに住んでいるという。
女装で暮らしている男子は結構ギーグ系には多いタイプなのであまりびっくりはしなかった。るのさんは駅前の繁盛してるさんしちゃんという飲み屋がテレビドラマに出ていたこともあり行きたい、というので「俺もあの店は悪くないと思うよ」というとゆずくんとやらもそこがいいと言ったようで、店の前で待ち合わせをした。
さんしちゃんが開く5分前にゆずくんとやらは男の格好でやってきた。
「え、え、どしたん!?」るのさんが聞くと「めんどくさい時はこうなんだよ」と彼は答えた。会社にいく時は男であり、常に女性でいるタイプではないようだ。
「ゆずくんでいいですか?いとうです」というとるのさんが「同居して4日くらいの人。10歳下」といい加減に説明するが、向こうも普通に「どうも、ゆずです」と女の時の名刺を見せてくれた。男である時も割と整った顔をしていたが、女性の時は乳と尻が同じ人とは思えないくらい大きかった。
あとでるのさんに聞いたが、ホルモンなどは打たず、一回太ったあとギチギチにコルセットで肉を移動させ、おっぱいを作ったという。
さんしちゃんはとにかく混んでいてうるさいので、ある程度飲んだあと、場所を移した。
会話が弾み、酔いもあって彼の内面の話もあった。彼は好ましい青年ではあったが、今で言うところの単純なLBGTにあてはならない部分を持っており、世間を嘆いていたので俺はポロリと「マルクス主義をおすすめしますよ」などと言ったりした。
なかなかに楽しい夜であった。
また飲む約束をして別れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます