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俺は今でも「男性向けの同人作家」をやっているのか聞き、アイコンにする絵を描いてもらおうとした。1万程度でいい絵を描いてくれるような気がしていたのだ。絵をみせてもらったが、さすが絵で食ってるだけあって絵はうまかった。


TwitterのDMで「アイコンにする絵を描いてくれないか」と聞く(俺と鶴野はTwitterでしか繋がっていなかった。LINEは教えあわなかったので、Twitterで鶴野のPNで検索し、見つけてフォローしたのだ。即フォローが返ってきた。アカウントを見るとフォローは400人程度だがフォロワーは2万人もいた)と

「今コミケ前で忙しいから」と返された。

正直俺は鶴野に興味をもつようになっていて、それが再会のキッカケになるといいなとも思っていたのだけど、まあ仕方ない、同人誌は鶴野の生業なのだ。


41にもなって、と思ってはいたけれど鶴野が同居していると言う同人作家は俺も読んだことがあるくらい有名な同人作家だった。俺は決して同人誌を買わなかったがビブロフィリアは同人誌まで及んでいて、いわゆる違法DLで格闘ゲームの同人誌をとにかく読んでいて(俺は鉄拳5では誰にも負けない自信があるし、格闘ゲームははっきりと勝敗が出るので好きな娯楽だった)知っていたのだ。

俺だってたまにはオナニーするし、Fanjaのサンプルか違法DL同人誌がいわゆる「オカズ」になる時もあった。


まあそれがなんだ、と思っていた。しばらくしてコミケ終わってひと段落ついたのか鶴野の方から改めて会いましょうとの報告があった。

それにしても少し遅い感じではあったが、単行本作業もあったのだという。9月も半ばを過ぎていた。

10日後はどうですか?と鶴野は提案してきた。

俺は迷わずコクーンに足を運んだ。


まだ暑さが残る9月の終わりだった。それはいまでもおぼえている。


川崎から浅草橋はかなり遠いのだけど、西船橋に住んでいる鶴野には総武線一本でこられて、鶴野はコクーンの「住人」ではなかったが月に一週間程度の割合そこで暮しているという。正統なお金は払っていないが、家事や掃除、自由にいれていい募金箱にお金を入れることでそうしていたことは平井とは合意していた。


なんでも平井は社長業の片手間に「Nuiro」と言うバンドをやっていて、ベースを担当し、CDまで出したり、日本にもマニアックなファンがいるが主に海外に認めらられ、海外からイベント出演のオファーまで来ているという。偶然「Nuiro」のファンだった鶴野は平井に気に入られ、他の「住人」とは違う形でそこにいた。


なぜだか聞くと鶴野は

「相方の故郷の青森の母親が糖尿病になり、年に半分は青森で生活してて行ったり来たりの生活を送っているの」

と返してきた。


鶴野は17年も付き合っている彼氏のことを「相方」と呼んでいた。

相方なんて漫才みたいだしなんだか違和感を感じていたけど、それは鶴野の「ことば」だ。気にするほどのことではない。


そしてキラキラした目で俺に半透明の結晶の入ったパケ袋を見せてきた。


「実は私、シャブ中でさぁ」


俺は産まれて初めて本物の覚醒剤を見た。


前述の通りハーブや大麻でコミュニティが壊れることはよくあることだったが、覚醒剤をやっているのは鶴野がはじめてだった。


しかも重度の中毒らしく「相方」がいないことで精神不安定になり、シャブを常用するようになってしまい、どうにか押さえるためにコクーンに顔をだしているという。コクーンにいる時の鶴野から、ニュースに出てくるような覚醒剤中毒者の雰囲気は全くなかったので驚いた。



俺も薬にはあこがれがあった。

「知覚の扉」を読んでメスカリンに憧れていたし、LSDで美しい幻覚をみたいと思ってもいた。大麻くらいは嗜んだこともあったけどたいした効きはなく、がっかりしていた。


鶴野も多くの女が「そう」であるように男に覚醒剤で「堕とされて」いるのかと思っていた。

鶴野は自分の「意思」で覚醒剤をやっているという。


それでバロウズの話でもりあがったのか、俺は納得すると同時に哀れみも感じた。

鶴野は同人誌でもキメセク(薬物を用いたセックスのことだ)ものを描いており、実体験によるものであるくらいリアルに見えた。それは本当にリアルだった。


鶴野は「これ、一緒にやってた相方以外、いとうくんにだけだよ、見せたの」と言ってきた。


俺はこいつを助けなければ、と思った。


その夜、いつものように「住人」とゲームで遊んだり、Youtubeのチャンネルを争ったりしているうちにひとりずつ自分の部屋へと戻っていった。0時をすぎ、住人は各部屋に就寝しに行った。遊びに来てた知らないやつも終電で帰って行った。終電がなくなっても鶴野はそこに残った

「帰らなくていいの?」と聞くと「しばらく相方帰ってこないから今日はここに泊まる」と言う。


30畳近くもある広いリビングに1時にはふたりきりになった。

鶴野はいつもそうしているのだろう、薬を飲んでリビングの一番奥の、少し狭くなっているところに敷かれた布団に横になった

「おやすみなさい」

とは言え導入剤を飲んでから効きが来るまで45分はかかるのだ。2時近くまで添い寝の形でふたりきりで話をして、そして2時ちょうどに鶴野は入眠した。


俺は薬を持ってきていなかったので、とりあえず目を閉じた。

鶴野と同じ薬を飲んでいるので、もらおうと思えばもらえたのだ、と気付いた時には遅かった。

朝の4時ちょうど、鶴野が入眠して2時間ピッタリ、鶴野は目をさました。

俺は目を閉じていただけなので気配でまぶたを開いた。


鶴野と真正面から目と目があった。


鶴野はびっくりして「いとうくん、今起きたの?」と聞いてきた。

「うん」

俺は眠ってはいなかったがそう答えた。

薬を飲んでも2時間で目が覚めてしまうんだ、とは言っていたけれど、俺と同じ強い薬を飲んでいてもこんなに目が早く覚めるやつをはじめて「目視」したのだ。


鶴野は笑って「同じ瞬間に目がさめるなんてわたしたち、運命みたいじゃない?」と言った。


俺は運命なんて信じていなかった。0と1だけのプログラムの世界と本に書かれていること、実際に見た映画、そしてすばらしく勉強ができる俺の「正しい」知識がすべてだった。とにかく難しいが正しく結論をだす数式、正しい「文法」のたぐい。

とにかく運命や偶然は俺が嫌いな言葉だった。

しかし、はじめて乗っかれるなら乗っかっちまえ、そんな気持ちでいた。


俺は鶴野の目をまっすぐ見て「うちに来るか?」と言った。

もう決心はついていた。

「うん」

びっくりするくらい即答だった


鶴野は笑顔があまりじょうずではないようにみえた。

多分笑顔だったと思う


始発の時間を確かめ、最低限鶴野がコクーンに置いてあった荷物をまとめさせ、鶴野の手を引いてとりあえず玄関まで行く。

こばにゃんも不眠気味なので、玄関の近くの部屋を半分開けて起きていた

寝ぼけまなこで俺たちに「どっかいくの?」と聞いてくる。

ギークハウスを点々としているこばにゃんは、人の名前をちゃんと覚えているし、何より一目見たら俺たちの事情を察したらしい。

「がんばって」

その言葉がありがたかった。

早朝の空いてるJRに乗る。


川崎のとどろきアリーナの近くの家までは一時間以上かかる。


鶴野の手はびっくりするほどやわらかく小さかった。

勝手がわからない鶴野の手をずっと握っていた。

何を話していいかわからなかったし、鶴野はやたら話を振ってくるやつだったが、何も聞いてこなかった。

鶴野は観念したように目を閉じて俺に寄り添っていた。

乗り換えのたびにだるそうに立ち上がって、とにかく俺が手を引くままについてくる形となった。


そして新丸子の駅に着いた。


そこから家までは15分かかる。

駅から遠いのだけが不満だが、とにかく家が広くて、三田線が通っている新丸子は母校がある三田駅の近くにある精神病院への通院にも便利だし、何よりサッカーファンである俺にはとどろきアリーナの目の前というのはいい場所なのであった。(俺はとにかく多趣味でもある)


駅から少し歩いて鶴野が口を開いた。

「まだつかないの?」少し焦っているように見える。

「家まで15分くらいかかる」俺は最低限の情報を与えた。


やっと家に着くと、これまでないくらい疲れていた。

ダブルベッドで寝ていた俺はスペースを半分与え、薬を飲んだ。

そして眠りについた。


それが2017年10月1日の早朝の出来事であったことを、俺は後で知る。




「コクーン」では俺たちのことがセンセーショナルに伝わっていた。


「コクーン」は別に女人禁制ではなく、たまたまその時いなかっただけで、住人に一人女もいた。

ただ、深夜男女が同じ小さな布団ですることといえば彼らの中では決まっていた。

「セックス」だ。


俺が鶴野とふたりでセックスをして逃げたことを、京都の自宅にいた平井まで確信してFacebookに俺の本名入りで「布団の弁償」との名目で書き込みをしていた。

「伊藤哲哉さんへ あれは俺の大事な無印良品の布団で、全部で3万円くらいします。気持ち悪くてもう眠れないので弁償していただきます」

あったこともない平井が俺の本名を(漢字まで)把握していたのは驚いたが、そんな事実はない。無視していたし、裁判でも起こそうならこっちのものだ。俺の慶應大学の友達には弁護士もたくさんいるし、そもそもそんな事実はない

鶴野が「体液でも調べたらどうですか?そんな事実はありません」とコメントしていた。


住人も過剰反応し、Twitterや自分のブログで「和姦禁止!」などわけのわからない言葉を使いながら俺らを非難していた。


味方になってくれたのはこばにゃんだけだった

「俺だって正直シェアハウスに女連れこんでセックスしたことあるよ」とLINEしてきた。こばにゃんに事情を説明するとむしろセックスをしてたわけではないということに驚いたらしい。


くだらない若いコクーン住人にはもう用はない。別にどうでもいいことだ。



鶴野が家に来て2日目、俺たちは本当にセックスした。

俺はもちろん童貞ではない(美形なので言いよる女は絶えなかった)が、射精障害があって、セックスで「達した」ことはなかった。射精をともなわないセックスを「セックス」ではないとすれば俺は童貞だと言うことになる。

それもあって大概の女は付き合ってセックスすると俺の元を離れていったし、一般的に「彼女」と呼ばれるものがいたこともあったが、俺の方が入れ込んだことは一度もなかった。

俺は冷静で常に客観的、他人のことには興味のない男なのだ。


鶴野はビックリするくらいフェラチオがうまかった。

俺が「きもちいいよ」というと喜んでくわえてきた


喉の奥まで俺のペニスを含んだあと、唾液の糸を引きながら一回口から抜くと

「どうしたらきもちいい?」

と聞いてきた。俺は正直に

「金玉も舐めてくれないかな?」と言う。鶴野はそれにしたがった。

今までにない気持ちよさだった。

「挿れてもいい?」

鶴野のヴァギナを触ると、驚くくらい濡れていた。クンニリングスが嫌いな俺は正直それをしなくて済むことにホッとし「いいよ」と即答した。


鶴野のヴァギナはいわゆる「下付き」で一般女性よりやや下側についていた。

俺のイチモツといえばちょっと人と逆方向に反っていて、それがピッタリはまるパズルのようであった。


俺のイチモツを後背位で挿入できたのは鶴野がはじめてだった。

挿入されて鶴野はあえいだ


鶴野のヴァギナは気持ちよかった。久しぶりの人間との行為に必死に腰を動かしているだけなのに、鶴野は獣のような声を出してあえいでいた。


鶴野は簡単に「イく!!」と叫び果てた。しかし女の快楽に終わりはない。

俺は腰を動かし続けた。「あ、あ、ダメ」という鶴野の声を無視する。


しかし、やはり俺は射精できなかった。

2回目に鶴野が果てた時、俺はペニスを引き抜いた。

そういえば鶴野はコンドームさえ要求してこなかった。

「いとうくんきもちよくなかった?」鶴野は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

コンドームを要求してこなかった理由はすぐに明かされた。


「私、ピル飲んでるから妊娠の心配はないの。中出ししてもよかったんだよ」


なるほど。

鶴野は俺が射精に至らなかったことが心配らしい。


「私ばっかりきもちよくなってごめんね」

俺は何もしていない。鶴野の方からフェラチオしてきて、あとは腰を振っただけだ。

「なんで出さなかったの?」

鶴野はさらに続けた。


俺はとりあえず射精障害であることは置いておいた。

「気にしなくていいよ、すごく気持ち良かった」


鶴野は笑顔になり、2人で同じ薬を飲んで寝た。ようやく気付いたけれどひとつだけ薬の種類が違っていた。それは鶴野の飲んでる薬には「寝付く」作用はあるものの「睡眠時間を伸ばす」ための薬が入っていないことだった。だから鶴野は2時間しか眠れないのか、と俺は思った。


俺は自分が通っている精神科に予約を入れさせよう、と思った。


次の日の朝起きるとすぐ鶴野は俺を何て呼んだらいいか聞いてきた。

「伊藤」でいいよ、と言ったら

「じゃあいとうくんって呼ぶね」と言う。これは結局ずっと変わらずそう呼び続けることになる。


「じゃあ私は?誰も呼ばないような、しかもPNとも違う名前がいいんだけど」

鶴野の本名は鶴野理詠(つるのりえ)という。

下の名前で呼ぶのは照れくさいし、鶴野姓のあだ名は「つる」でありPN以外で呼ぶ人は鶴野の「相方」が「りえ」と呼んでいるだけらしい。


「じゃあ、“るのさん“でどうかな?」

俺は提案した。

「うん!」


それ以来俺たちは「いとうくん」「るのさん」と呼び合うことになった。

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