第9話 働き口

「そういえば、この間の話はどうなったの?」

マディソンがホットドッグ片手に言う。

「なんのこと?」

「ベビーシッターだか、清掃員だかの話。」

話しながらも口はモゴモゴと動いている。

「ああ。バイトの?」

「そうそう。その話。決まったの?」

「まあね。」

一ヶ月ほど前からキアラは働きに出ることを考えていた。

母親からもらう生活費が足りないというわけでもないが、それでも心許ないことはかわりない。

「うちのパパが雇えればよかったんだけど。」

マディソンの父親は、地元で食料品店を営んでいる。従業員は彼とその子供たちだけ。母親は外に働きに出ているらしい。

「しょうがないよ。景気だって良くないしね。」


「で?何に決まったの?」

いかにも興味津々といった態で、身を乗り出される。

「ベビーシッターだよ。」

「それってコッチの?」

「いや向こうの。住宅街のね。」

比較的裕福な世帯が暮らす住宅地が、バスで三十分ほど離れた場所にある。

私立校に通うのは大抵そこの子供達だ。

「ええっ。それって遠くない?」

「交通費出してくれるってさ。まあ自転車でも使うつもり。」

「ふーん。」

「まあ遊べる時間は減るけどね。」

「今日からなの?それはそれで寂しいけど。じゃあ放課後のフロヨーもなし?」

マディソンは指のケチャップを舐めた。

「それとこれとは別の話でしょ。」

キアラは親友にニヤリと笑ってみせた。

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