第8話 ないものねだり

「別にそういうわけじゃないと思うけど。」


「あんたがそう思ってたとしても向こうは違うから。」

だんだんとニックが可哀想になってくる。

この純朴なティーンネイジャーは、彼の恋心には気づいていないらしい。

しばらくの間ニックにチャンスはなさそうだ。


「ふーん。」

プシュッ。

小気味のいい音がする。

ニックには気の毒だが、貰えるものはもらっておくに限る。

ただでさえキアラの財布の中身は薄いのだから。


「そういえばこれ。助かったよ。」

差し出されたのは件のノートだ。昼休みまで貸し出しておいた。

「なんとかなった?」

受け取りつつ訊いてみる。

「ベストは尽くしたよ。十字架も切っておいたほうがいいかな?」

「神様だってあんたのテストの内容まで構っていられないって。」

「だとしても祈っといた方がいいでしょ。」

「はいはい勝手にして。」

軽口を叩きつつ、サンドイッチを口に運ぶ。

「昔から数学だけはダメなんだよね。嫌になっちゃう。」

「そのかわり、歴史はA プラスでしょ。満足しておきなよ。」

「そんなこと言ったって。」

「あんたの神様はそこに帳尻合わせたの。」

「それは神様の仕業じゃなくて、うちのパパのせい。生まれた時から、独立宣言を朗読してた。アメリカ人だからってアメリカに固執しすぎたら、頭が腐って落ちるよ。」

マディソンは不満げに文句を垂れる。

「愛国心は大事なものよ。ベイビー。」

キアラもふざけて言ってみる。


マディソンの父についての話題には触れなかった。

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