第5話 親友

シャワーを浴びて、着替える。

トーストを齧って、靴を履く。


陰鬱とした家に暫しの間別れを告げた。

「行ってきます。」


ハイスクールは歩いてすぐだ。

二十分も歩けば、みえてくる。

この時ばかりは、ボロアパートの立地に感謝した。

スクールバスに乗ればその分別に請求が来るのだから。


キアラは別段友達が多いというわけでもない。

ただ、どの友達もキアラを見ると声をかけてくれる。

あるいは、気を遣っているか。


「おはよう!調子は?」

例えば、歴史と数学のクラスが同じのマディソンは声が大きい。

彼女の家は数代前にアメリカにやってきた移民だ。

だからマディソンの祖母は流暢なスペイン語を話す。

この親友本人は微塵の興味もないらしいが。

「悪くないよ。数学のテストがなければの話だけど。」

「……それって今日だっけ?」

「先生は週末にやるって言ってたけど。」

「今日って金曜?」

「世界がひっくり返っていなきゃ金曜日だよ。」

そうキアラが答えた瞬間、マディソンは頭を抱える。

「忘れてた。」

顔全体で失態を悔いる親友にキアラは肩を振るわせる。

「お願い。ノート見せて!フロヨー奢るから!」

放課後のフローズンヨーグルトはなかなかに魅力的だ。もちろん二つ返事で了承する。

「やった。」

「その代わり、トッピングはキャラメルブラウニーだから。」

ストリートにあるフロヨーショップでは、トッピングはオーダー制だ。

美味しいものを載せるほど、値段がかかる。

「もちろん。ナッツとチョコも載せていいよ。」

懐が暖かいのか、ずいぶん寛大な申し出をしてくる。

もちろんそれにもうなづいた。

「じゃあコレ。ランチの時に返してね。」

数学の授業はちょうど昼前だ。その時まで貸しておけばいい。

カバンの中から水色のノートを取り出してマディソンに手渡す。

マディソンは親友を拝みながら、自分のロッカーへと向かった。

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