第3話 後始末

ウィスキー。ジン。ブランデー。酒の瓶が転がっている。

キアラはため息を吐かずにはいられなかった。

これもいつものことだ。

母は酔えればなんでも飲む。そのうち、消毒用のアルコールに手を出すのではとヒヤヒヤするくらいに。


リビングのカーペットに新しいシミが増えた。

部屋には酒の匂いが充満している。


まともな生活でないことは分かっていた。


母はアルコールに依存している。

娘のために料理することも無くなった。

会話さえしていない。

ただ申し訳程度の生活費が、月末にテーブルの上に乗るだけだ。

カケラだけ残った親心。辛うじて母はまだ娘の存在を忘れていない。

キアラはそれに縋って生きていくしかない。


だから黙って後始末をするのだ。

耐えられないほどの匂いに窓を開けて、酒瓶をかき集め、こぼれた液体を拭く。ソファの毛布を畳み、クッションを整える。

果たして母は毎朝のこのリセットに気づいているのか。それすらも怪しい。


家の中には二人の人間がいるはずなのに、キアラは途端に世界で一人ぼっちの気分になる。

除け者にされて哀れな子。母親にすら疎まれる。


母親が笑わなくなったのは。娘の誕生日を忘れたのは。毎朝ベーコンを焼かなくなったのは。アルコールがなくては生きていけなくなったのは。


父のせいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る