第37話 完全に積んだ(アルト男爵side)

 帝国と手を組んだし、帝国軍が攻めてくる隙に国王と王太子を始末すれば、我々は、いい役職が約束されているのだ。

 これで、私は、男爵から一気に上級貴族だ。甘い汁すい放題だ。


「ナザル伯爵、いよいよ開戦しましたね。」


「ああ、アルト男爵。騎士団長は、前線に配置されたから、あとは、近衛騎士がいるくらいだが、近衛騎士は、みんな我々の派閥の令息だ。

私も息子には、話をしてあるし、私腹を肥やしたいだろうからな、協力してくれるだろう。」


「帝国軍の最前線が攻めはじめたようなので、もう少し動きがあったら計画通りに国王と王太子の所に行きましょうカヤック侯爵。」


「そうだな。」


 しばらく待っていたが、様子がおかしい……

 最前線が進撃してきて以降、帝国軍が攻めてこない。


「様子が変ですな。全く攻めてきませんね。計画と少し違いますが、国王と王太子を始末しに行くべきでしょうか。」


「そうだな。我々が国王と王太子をやれば、こちらの勝ち。今まで以上に好き勝手できるようになれますからな。早くやってしまうか。」


 こうして、我々は、始末するために国王のもとに向かった。


「どうしたのだ。その方ら、戦争は始まっているのだぞ。私たちの所に来る必要はないと思うのだがなカヤック侯爵、ナザル伯爵、アルト男爵 。」


 バレないように近づいたのに、国王が我々に向かって、突然そう言われた。


「おかしいですよ。カヤック侯爵。私たちより先に行ったはずの計画に賛同した貴族たちの姿がありません。先に行った者たちが、失敗したにしては、静かすぎます。国王側に計画がバレていて、他の者たちは、既に速やかに捕えられおり、我々は、まんまと誘き出されたのではないでしょうか。」


「その可能性が高い。あそこにいる近衛騎士の中にマッドの姿がない。既に捕えられているのだろうな。」


「何を隠れているのだ。出てきたらどうだ。私とレオンを始末しに来たのだろう。」


 やはりバレていたか。こうなっては、計画を成功させるのは不可能。帝国のやつらがモタモタしていたのが原因だ。クソタレが……


「ここまで、バレていては、始末するのは不可能。大人しく出ていきましょう。カヤック侯爵、アルト男爵。」


「「そうだな。」」


 そして我々、三人は、国王の前に出ていった。


「大人しく出てきたか。奴らを捕えよ。」


 私たちは捕えられ、国王の前まで連れていかれた。

 するとナザル伯爵が立ち上がり、国王のもとへ駆け出した。

 そんな状態で何をするつもりだ。みすみす殺されるだけだろうが……

 しかし、近衛騎士は、国王を護ることもナザル伯爵をとめることもしない。

 そして、国王の前まで行くと縄を解かれた。


「ご苦労だったな。ナザル伯爵。」


「はい。国王陛下。他の不穏分子どもは、既に捕えたのですね。」


「ああ、帝国がなかなか攻めてこないから焦って、真正面からきよった。」


「愚かですな。」


「まったくだ。」


 ナザル伯爵は、国王側だったのか……


「どういうことだ。ナザル伯爵!!」


「見ればわかるでしょうが、私はあなた方の仲間ではないのですよ。」


「裏切ったのか。」


「違いますよ。私は、最初からこちら側だったんですよ。ザザン伯爵派にいた時からね。」


「なんだと。前国王の婚外子で、伯爵家でも冷遇されていたから王家を恨んでいたではないか。」


「ああ、あれは嘘です。現国王陛下、騎士団長、神殿長猊下には優しくしてもらいましたし、伯爵家でも大事にされてましたから、知った時はショックでしたが、王家や伯爵家を恨んだことはないですよ。

私みたいな出生だと、反国王派にいても間者などと怪しまれないですからね。利用させてもらっただけです。」


「あとな。帝国側でも皇帝、皇太子、派閥に属する上級貴族当主たちは、今頃捕えられているぞ。

第二皇子や第二皇子派の貴族たちによってな。」


「なんだと。第二皇子と手を組んでいたのか。」


「そうだ。第二皇子たちは、今までの帝国の考えを変え、王国と同盟関係を築きたいと聞いたのでな。」


 完全に積んでいるではないか……

 私たちは、処刑確定だろう。ランが聖女とわかって、うまく利用できると思ったが、私の人生もここで終わりか……

 だが、役に立たなかったランもキーンも巻き込んでやれるから良しとするか。

 反逆罪だから連座だろうしな。


 アルト男爵は、王国貴族が減りすぎるのを危惧した国王により、連座はされず、今回の計画に協力した貴族家当主の家族以外は、処刑されないということを知らないので、見当違いのことを考え喜んだのである。

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