第36話 なぜこうなった(皇太子side)

 いよいよ開戦だ。もうすぐソフィアは、俺のものにミュゼルバ王国も我が帝国のものになる。


「マキシム、どうした震えているぞ。ビビっているのか。」


 父上は、何を言っているのだ。そんなわけがないだろうが……


「父上、そんなわけがないではないですか。武者震い、そしてもうすぐソフィアが私のものになるのだという歓喜の震えです。」


「そうか。」

「皆の者、いよいよ開戦だ。王国軍を打ち倒し、世界に我が帝国の覇道を知らしめるのだ。」


「「「おお~」」」


 皇帝である父上の一言の後、みんなやる気を漲らせている。そして戦争が始まった。

 しかし、何か様子がおかしい。


「父上、何か変ではないですか。」


「そうだな。最前線の兵士が王国軍に斬り込んで行っただけで、他に動きがないな。」


「皇帝カイザー、皇太子マキシム、貴様らを捕縛する。」


「ノイン。貴様、どういうつもりだ。」


 ノインのやつが俺と父上を捕縛しにきた。

 既にアリシタール公爵、マリーヌ伯爵、サバーキラー侯爵は、騎士や兵士に捕縛されていた。


「戦争中だぞ。王国軍が攻めて来ているのだ。愚かなことはやめろ。」


「父上、安心してください。王国軍は、攻撃を仕掛けてくる騎士や兵士には、反撃しますが、王国側でも貴方たちが捨て駒にしようとしていたアルト男爵たちの捕縛劇が始まっている頃でしょうからこちらには、攻めてきませんよ。」


 なぜ、ノインがアルト男爵たちのことを知っているのだ。こちら側の派閥に裏切り者がいたのか。

 これだけの人数に囲まれてしまっては、逃げることもできそうにないな。


「カエタール公爵、何をしている。皇帝である我を護れ。」


「なぜですか。私は、貴方たちを捕縛するためにここにいるのに……」


 こいつが、ノインに情報を流していたのか。ほとんど俺たちが話をする時にはいたからな。

 従順だったからまんまと騙された。


「お前が裏切り者か。」


「そうですよ。私は、ノイン皇子派ですよ。血統主義や貴族主義などもう古いんですよ。

 平民の方が多いのですし、自分達が優秀だと思っている貴方たちは、知らないでしょうが、貴族より能力の高い者も多いのですからね。」


 こうして、俺らは、ほとんど抵抗することなく捕縛された。

 抵抗してもこの人数だ。逃げきる前に殺されてしまうだろうから大人しく捕まった方が利口だ。

 やつらも皇帝や皇太子、上級貴族の当主を簡単に処刑などしないだろうしな。


 大人しく捕まったのは、利口な判断だが、帝国を変えるために処刑を前提に立てられた計画なので、簡単に処刑されないというのは、間違った認識だ。

 自分達の認識が間違っていたと気づくのは、処刑される直前になってからだ。




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