第20話 誰もいない(クライシス公爵side)

 妻と二人で、王都で、買い物をし、食事をしたりして、一週間ぶりに我が屋敷に戻ってきた。

 買い物や外食は、もっぱら王都に行く。

 クライシス領なら商人を屋敷に呼べばいいだけなのだが、我が領にある服や宝石、美術品は、ろくなのがない。

 それなのに、領民どもは、何とかしてくれと要望ばかり言ってくる。

 要望を聞いてほしければ、センスと技術を磨き、まともなものを作ってからにしろといいたい。

 領民どもへの愚痴は、この辺にしてと。

 屋敷に帰って来たが何か変だ


「カサンドラ、屋敷の様子が変じゃないか。」


「屋敷の明かりがついていないし、使用人どもの出迎えすらないですわね。」


 そうなのだ。妻カサンドラの言うとおり、明かりもついてなければ、使用人も出てこない。

 誰も屋敷にいない雰囲気なのだ。


「帰ったぞ。何故明かりをつけないんだ。」


「あなた、返事もありませんし、使用人どころか、ラルフも出てきません。」

「変ですわよ。」


 カサンドラに言われ、ラルフの部屋に二人で向かった。


「ラルフ、入るぞ。」


 ラルフの部屋に入ったが、真っ暗だったので、明かりをつけるとラルフはいなかった。

 その後、部屋中を探したが、ラルフも使用人も誰も屋敷の中にいなかったのだ。


「ラルフも使用人もどこに行ったのだ。まさか」


 いつも、文句ばかり言ってくる領民どもが、使用人と結託して、跡取りのラルフを拐ったのか。


「ラルフは、拐われたのか」


「あなた、領民どもを問いただしますか。」


「そうだな。だが、今日は疲れているから明日にしよう。」


「そうですわね。」


 そして、明日、領民どもを問いただすことして、私たちは、体を休めることにした。


「あなた、起きてください。領民どもを問いただしに行くのでしょう。」


 私は、昼過ぎにカサンドラに起こされた。

 カサンドラも起きたばかりのようだ。


「では、早速行くか。」


 私たちは、屋敷を出て、領民どものもとへ向かった。

 すると領民どもが集まっていた。


「おい、お前ら、我らが帰って来たら、ラルフがいなかった。お前らが拐ったのだろう。ラルフは、どこにいる。」


「何を言っているのですか。領主様。 何故、私共がラルフ様を拐うのですか。」


「そんなの、自分達が何もできないだけのくせに、ラルフを拐って、我ら公爵家を脅し、金品をせしめるためだろう。」


「そんなことは、してません。」


「そうですよ。ラルフ様なら一週間前に使用人の方々と馬車で、何処かへ出掛けていかれましたよ!」


「何だと!!」


 ラルフが、使用人どもと出掛けただと、そんなことがありえるのか。


「ラルフと使用人は、何処に行ったのだ。隠しだてするとただでは済まさんぞ。はやく言え」


「私共がラルフ様たちが何処に行かれたかなど、存じているわけないではありませんか。」

「出掛け行くのをお見掛けしただけなのですから」


「わかった。我らは行く。ちゃんと働けよ。」


 これ以上、話を聞いても、何もわからないだろうし、領民どもが何か言ってきても面倒なので、屋敷に戻ることにした。


「ラルフは、公表はまだだが、マリー王女殿下との婚約が決まっているのだぞ。」

「ラルフがいなくなったのが、国王陛下の耳に入れば、問題になる。」


「あなた、ソフィア付きだった使用人もまだ雇ってましたから、ソフィアが何か企んで、ラルフを拐ったのではないでしょうか」


「あり得るな。あいつは、レノン王太子殿下と婚約したから、王妃教育のために王城にいるはずだ。」


「問いただしに行きましょう。」


「そうだな。」


 我らは、ソフィアを問いただすために、また王都に向かった。

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