第13話 殺人現場。

 夜も更け、人の出入りも少なくなった時間帯に、俺たちは数カ所の殺人現場を訪れた。


 時間が時間だということもあるだろうが、ここ最近の首斬り事件の影響からか、いつも以上に人の気配を感じない。


 上から降り注ぐのは月明かりと街頭の光だけで、周りは風の音が聞こえるぐらい静かだった。


「……どうだ?」


 俺は周りを警戒しながら、殺人現場を調査している剣狼と奇術乙女に尋ねる。


 すると、奇術乙女が顎の下に手を置きながら答えてくれた。


「やっぱりすっっっごく微かだけど、魔力が残存しているよ。 1つの場所からだとまったく分からないけど、ここまで数カ所訪れたから、そろそろ手掛かりに繋がるかも。 後は、剣狼待ちだね」


 奇術乙女が視線を向けた方を見ると、そこには地面にしゃがみ込んで使い魔と話をしている剣狼の姿があった。


「サージュ。 そろそろ分かりそうか?」


「もうちょっと待て。  あと少し、あと少しなのだ……」


 1人と1匹は真剣な顔で顔を近づけて話をしている。


 さっきサージュがあと少しって言ってたし、もうちょっと待つか。


「やっぱり足跡追及するなら、サージュと剣狼のコンビが1番だね。 ボク達には真似できないことだ」


 俺はポケットに手を突っ込みながら引き続き警戒していると、奇術乙女が俺の近くに立つ。


 サージュとは剣狼の使い魔のことで体長2m50cm、体重150キロ以上の大きな黒い狼のことだ。


 狼王という狼の中で最上位のクラスで、今はまだ子どもだが、成人するとランクSSに匹敵する強さを持つ。


 剣狼はこのサージュとコンビを組み、数多くの難易度の高いクエストをクリアし、今の地位にいるというわけだ。


「うむ。 やっとある程度分かったぞ! 待たせたな雷拳、奇術乙女」


 俺が奇術乙女と今いる廃墟について話をしていると、サージュの凛とした声が耳に届いた。


「2人ともちょっとこっちに来てくれ」


 俺たちは剣狼に呼ばれて2人の近くに行く。


 そこで俺たちは情報を共有した。


「まず犯人の属性が分かったぞ。 やっぱり俺の予想通り、闇属性の使い手だ」


 剣浪が近くの2人ぐらいなら座れそうな大きな石へと座り、話し始めた。


 隣にはサージュが背筋を伸ばして控えている。


「剣狼の言った通りだね」


「あぁ。 で、ここまで調べて分かったのはまず少なくとも俺と同等、もしくはそれ以上の闇属性の使い手の可能性が極めて高い」


「剣狼と同等か、それ以上の闇属性の使い手? そんな人物、アトラス王国で両手で数えられるぐらいしかいないだろ」


 俺は木に寄りかかりながら剣狼に疑問をぶつける。


 頭の中に色々な人物の顔が思い描かれたが、事件を起こすような人物は予想できなかった。


「雷拳の言う通り人数は限られてくるな。 犯人は成人男性のようだし……」


「成人男性? それも分かったことの1つなのか?」


「そうだ」


「なんでそこまで分かったの?」


「それはやっぱり、こいつの優秀な鼻のおかげだよ」


「ええぃ! プニプニと我の鼻を撫でるでない! くすぐったいわ!!」


 剣狼がサージュの鼻を優しく撫でると、サージュは眉間に皺を寄せて顔を背ける。


 図体はでかいんだけど、言動に可愛さがあるんだよなサージュって。


「成人男性特有の匂いを嗅ぐことができたんだ。 被害者が女性であってもね。 正直、血の匂いや香水の匂い、草木の匂いとかでかなり薄まってたから、確信に至るまでは時間がかかってしまったよ」


「やっぱりサージュって凄いね。 ボク達ではまず気づかないところから気づくし、複雑な状況であっても正解に辿り着くことができる。 流石鼻が効くぅ」


「触るでない」


「いたぁい!!」


 奇術乙女が優しくサージュの背中を撫でようと近づくが、容赦なく大きなフカフカな尻尾で手をはたき落とされた。


 奇術乙女はふーふーと叩かれた手に息を吹きかける。


 いや、絶対そこまで強くは叩かれてないだろ。


 サージュ、剣狼以外に触られることは凄く嫌がるけど、人を傷つけるぐらい強く拒否することは基本的にないはずだ。


「じゃあ、分かったことは成人男性で闇属性の使い手。 実力はSランク同等、もしくはそれ以上の強さってことか……」


「いや、まだ後1つある」


「それはーーーーーーーー」


 俺が剣狼に聞こうとした瞬間、俺たちはある気配を感じ取った。


 剣狼は剣を構え、サージュは毛を逆立て戦闘モードへと入る。


 奇術乙女はスナイパーライフルを素早く構えて攻撃し、俺は十八番の技をに打ち込んだ。


「おいおいおい……攻撃性高えなぁ。 もうちょっと優しくしてくれよ」


「(……攻撃が当たった感触がない……!!)」


 黒いモヤから出てきたのは、フードを被った1人の人間だった。


 声は男とも女ともとれるが、身体付きで男ということが分かる。


「いや〜……犯人は現場に戻るって聞くけどさ、本当に戻ってくるんだねぇ」


 奇術乙女はそんなことを言いながら、スナイパーライフルから小回りの効くハンドガンへと持ち替えて後方へと下がる。


「今ので分かっただろ? 相手は強い……全員気をつけろ」


 剣狼はロングソードを持ち、サージュと一緒に前線に出た。


「お前ら結構つええなぁ。 一撃で殺そうと思ったのに……」


 そう言ってその男は死神が持つような大鎌を肩に担ぎ、悠々と歩みを進める。


 俺達と犯人の距離は約20m。


 俺の前には剣狼とサージュが戦闘態勢に入り、後ろでは奇術乙女がいつでも魔法を打てるように準備をしていた。


 俺はポケットに手を入れたまま、いつでも攻撃できるように構える。


 そしてーーーーーーーー


「見つかったんならしょうがねぇ! お前らはここで殺してやるよ! オレァまだ殺し足りないんだよォォ!!!」


 ーーーーーーーー唐突に戦いの火蓋は切られたのだった。

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