第12話 『無冠の五帝』、『剣狼』と『奇術乙女』

「おばちゃん、ちゅうもーん」


「はいよー」


「でさ、俺はその時やばいと思って後方に下がったのよ! そしたらさ、上手い具合に魔法が魔物に当たってなんとか倒すことができたんだ!!」


「はいはい。 もう何回目だよその話……」


 俺はマスターの部屋を出た後、行きつけの見た目ボロボロな酒場へとやってきていた。


 ここの店主には話をつけていたので、俺は限られた者しか知らないルートを使って店に入る。


 そして俺専用の部屋へと入り、『剣狼』と『奇術乙女』が来るのを待った。


 ここの酒場は昔から利用していて、なにかと便利だ。


 防音対策などの魔法がバッチリで、隠れ家的存在なので今回みたいに会合でも使える。


「……お邪魔するよ」


「ん。 『剣狼』お疲れ様。 元気にしてた?」


「ボチボチ。 そっちは?」


「俺は元気にしてたよ」


「そっか」


 俺が部屋に入って直ぐに来たのは剣狼だった。


 黒を基調とした動きやすい服を身に纏い、手ぶらで部屋へと入ってくる。


 男性の中でも線は細く、女性と見間違えても可笑しくないぐらい、可愛らしい中性的な顔だ。


「身長伸びた?」


「少しな。 やっと160cmになったよ」


 側にあるソファにゆっくり座り、剣狼は少し身体を伸ばす。


 いつもはぱっちりとしている二重が、少しトローンと下がっていた。


「『雷拳』は学校慣れたか? お前のところは『瞬雷』と『戦士皇女』、『竜姫』がいるんだっけ?」


「そうそう。 戦士皇女とは友達になったよ」


「ふーん」


「竜姫とは学校の大会で戦って負けたけど、瞬雷には勝てたな」


「……まじ?」


「なんなら勝ってから時々話しかけられるようになった」


「マジ!?」


 そうなのだ。 あの大会の後から会ったら話しかけてくるようになったし、時々食堂とかで会ったら一緒に飯を食う間柄になった。


 正直まだフランに対する苦手意識というか、関わりたくないという気持ちはあるけれど、フランに対する見方は良い方向へと変わってきている。


「そっか……。 どうやって勝ったとか、普段どんな感じで関わっているのかは知らないけど、1つの壁を突破したんだね。 おめでとう」


 剣狼は優しく微笑む。 色白で綺麗な顔に見つめられて、少し照れてしまった。


 こいつ……なんか日に日に綺麗になってきてないか??


 風呂に一緒に入ったことがなかったら、絶対に女じゃないかって疑ってたぞ。


「ありがとう。 そっちは『炎虎』と『奇術乙女』がいるんだっけ? まぁ、炎虎は問題ないだろうけど、奇術乙女とはその……大丈夫なのか?」


「あぁ……あいつとはーーーーーーーー」


「なになに〜?? 男2人が集まってボクの話かい?? いや〜モテる女は困るねぇい」


 そう言って部屋に入ってきたのは、白塗りで涙を流しているピエロの仮面を被った、フード姿の女性。


 ちょうど今話題に上がった『奇術乙女』だった。


「お疲れ様。 久しぶりだな。 お前、ラルク魔法学校で剣狼にちょかいとか出してるのか?」


「久しぶり〜で、いきなり雷拳は失礼なこと聞いてくるね。 ボクは君と同じで世間に素性を隠している人間。 剣狼とは学校で関わっていないよ」


 少し溜め息をついた後、奇術乙女は剣狼の隣に座る。


 青を基調にしたスカートが座った瞬間に舞い、紫色のソックスに包まれた綺麗な足は組まれていた。


「ま、それでも同じ学校に剣狼がいるのに関わらないのは寂しいと思ってね、時々念話をしているんだ」


「ほーん」


 奇術乙女にしては優しいな。


「おい、雷拳。 お前今優しいと思っただろ?……あれが優しいわけあるか! 授業中に何回も念話してくるし、こいつ俺が返事をしても意図的に会話のキャッチボールを拒否してくるんだぞ!? あれは寂しいからじゃない! 絶対退屈だから暇つぶしでオレを使っているだけだ!!」


「え〜そんなことないよぉ?」


「えぇい! 顔を触ろうとするなぁ!!」


 白い手袋をつけた奇術乙女の小さな手が剣狼の顔に伸びると、剣狼はその手を雑に取っ払う。


 そこからは子どものような喧嘩が行われたのだった。


「はいはい。 喧嘩はその辺にしときなよ」


「……はぁ、雷拳の言う通りだな。 オレ達は喧嘩をする為にここに来たわけではないからな」


「じゃあ、本格的に"首斬り事件"について話始めよっか」


 奇術乙女が言葉を発した瞬間、剣狼のトローンとした目はぱっちりと開き、奇術乙女のおちゃらけた雰囲気が消えた。


「首斬り事件について、マスターから2人ともどれくらい聞いてる?」


「マスターからは雷拳と同じことをお前に話したと言われた」


「ボクもー!」


「そうか。 なら、2人は話を聞いてなにか疑問に思ったことや、気になることはないか? 俺は冒険者の死体が綺麗だったのが気になる」


「それはボクも気になってた。 犯人はなんで冒険者だけ綺麗に殺したんだろうね? 嗜虐性が強いのかな? それともなにか目的があるのかな?」


「オレも気になって考えたが、正直情報だけじゃ分からない。 オレは現場に行くのも手の1つだと考えている」


「それはボクもかな。 できれば一ヶ所じゃなくて数カ所行きたいかも」


「俺も奇術乙女の意見に賛成だな。 なら、数カ所の現場に今から向かうか」


 俺がそう言うと、奇術乙女は良いよーと返事を返す。


 剣狼も返事を返してくれたが、なにか気になるのか眉間に皺を寄せていた。


「剣狼どうした?」


「いや、気になっていることが1つあるんだ」


「それはなに? 気になっていることは吐き出しときなよ。 その気になっていたことを言わないことで、ボク達の首を絞める可能性もあるしね」


 奇術乙女は剣狼の方を見ながら話す。


 ピエロの仮面から見える青空のような澄んだ青色の瞳が、剣狼に突き刺さっていた。


「気になっているのは犯行時刻が『夜』という点だ。 俺の属性のことは知っているだろう?」


「闇属性だね。 確かに夜になると力を増すし、出来ることが増えるね」


「そうだ。 闇属性は夜に強い。 だから、単純に考えたら犯人は闇属性の使い手である可能性が高い」


「でも、そんな安直に考えていいのか?」


「雷拳の言うことももっともだと思う。 でも、オレの勘からして、犯人は十中八九闇属性の使い手だと思うんだ」


 剣狼が考えを巡らしている様子を見て、俺と奇術乙女は顔を見合わす。


 ……うん。 勘ってのは結構バカにならないし、剣狼の言うことなら信用ができるかな。


「分かった。 剣狼の言う通り、犯人は闇属性の使い手の可能性が高いってことは頭に入れて、行動していこう」


「りょーかい」


「ありがとう。 オレの意見を聞いて考慮してくれて」


「別にお礼言うようなことじゃねーよ」


「そうだよ。 もしかしたら違うかもしれないしねー」


「……それでも、俺の勘を信じてくれてありがとう」


 剣狼は頭を下げた。


「はいはい! 剣狼は頭あげる! もう外は暗くなって夜がきてるよ! さっさと情報を纏めるなり、現場に行ってみて、早く犯人の手掛かりを掴むか捕まえちゃおうよ!!」


 奇術乙女がスクッと立ち上がって手を叩く。


 それを見て俺たちも立ち上がり、準備や情報を纏めて殺人現場へと向かったのだった。

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