2章 首斬り事件

第11話 首斬り事件。

「"首斬り事件"? それって最近噂になっているやつですよね?」


「そうだ。 やっぱり学園にも噂は広まっていたか……」


 目の前で座っているマスターが、真剣な表情で俺のことを見る。


 普段の優しく微笑むマスターの顔はなく、目は鋭くて声も真剣味を帯びていた。


 マスターの部屋の空気はピリピリと張り詰めている。


 授業中に念話を送ってくるぐらいだし、大事な話だと思っていたけど、今巷で噂になっている"首斬り事件"についてか……。


 さて、俺がここに呼ばれているってことはーーーーーーーー


「俺が出ないといけないぐらい、被害が大きいということですね?」


「話が早くて助かるよ」


 Sランクの俺にまで話がくるってことは、犯人はかなりの手練れか……。


「ここ数日、首を斬られている死体が増えている事件ですよね?」


「そうだ。 老若男女関わらず殺害されている。 被害人数は2桁を超え、特にここ2.3日は被害が大きくなってきている。 このペースでいくと、被害人数は3桁までいくだろうな」


 うん。 大体は噂で聞いた内容だな。


 でも、被害が大きくなってきていて、3桁ペースまでいきそうだということは知らなかった。


 ……まだ他にもなにかあるはずだ。


「他の情報は?」


「殺される場所に統一性は今のところ感じられないな。 逆に、殺された者の首は死体現場にいつもない……きっと、犯人が被害者の首を持っている」


 マスターは憤怒の表情で拳を握る。


 振動で机の上のコップから、紅茶が溢れそうになった。


「殺された者の首がいつもない理由などについては、検討がついてるんですか?」


「いや、ついていない。 犯人の目的が分からない状態だ。 ただの猟奇的な犯行なのか、それともなにか具体的な目的があるのか……」


「分かりました。 首斬り事件に対応した冒険者の数は?」


「Aランクが2人、Bランクのパーティーが2つ。 結果は……全滅だ」


「……………」


 まじか。 それだけ人員を割いて全滅か。


 この国にはAランク冒険者は100人ぐらいしかいない。 


 Bランク主体のパーティー1つで、ソロのAランク1人分に値するから、単純計算でAランク4人分費やしても敵わなかった相手ってことか。


「犯人はかなりの手練れだ。 一般市民の死体は惨殺されていたが、冒険者の死体は綺麗なものだった。 きっと、相手に攻撃されたと気づいていない状態か、まともな戦闘が始まる前に殺されたんだろう」


 冒険者の死体は綺麗な状態だった?


 犯人は猟奇的に見えるが、冒険者という闘いのプロに対しては細心の注意を払って殺したのだろうか??


 それなら一定の警戒心を持っていて、猟奇的だが冷静な部分があると考えられる。 相手にするとめんどくさいタイプだな。


 それとも弱者を痛ぶるのが好きで、嗜虐性がかなり強くて実力もあるタイプか?


 情報だけだと分からないな。 現場に行くなり、視覚聴覚とかも使って他の情報が欲しい。


「分かりました。 今回の事件に対応するのは俺だけですか??」


「いや、お前1人だけじゃない。 遠征とかクエストの関係、相性などを考慮して、今回はSランクの『雷拳』、『剣狼』、『奇術乙女』に対応してもらう」


「!!! 分かりました!!」


 あの2人と一緒か。 確かに相性とか連携は良いからな。


 でも俺、『奇術乙女』苦手なんだよなぁ……。


 確かに実力もあって良い奴なのは分かるんだけど、ノリについていけねぇんだ。


「じゃあ、とりあえず『剣狼』と『奇術乙女』と合流して、作戦を立てるなり、現場の調査に行ってみます」


「分かった。気をつけて行ってこい。 無理だと思ったら逃げろよ……ちゃんと、生きて帰ってこいよ」


「分かってますよ」


 俺はソファから立ち上がってマスターに会釈した後、部屋から出た。


 そして、念話で『剣狼』と『奇術乙女』に連絡をとったのだった。

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