第10話 1年生交流会お疲れ様でした会&親睦会②

「生で見る闘技場は良いなぁ! あの熱いバトルに歓声! 手に入るのは名誉と金! 滾るもんがあるよ! そう思うよなぁバルーノ!!」


「あぁ。 己の技と肉体で闘うのは好みだから、見てて滾るもんがあったよ。 それに、戦い方とか気持ちの持ち方とかも勉強できて良かった」


 俺達は闘技場で何回か試合を見た後、アリスが希望していた服屋へと向かう。


 女性陣も少なからず闘技場を楽しんでいたが、それ以上に楽しんだのは俺たち男性陣だった。


 やっぱり闘技場は男の浪漫だな。


「はいはい! あんたらがすっごく楽しかったのは分かったよ! でも、今からはうちら女の子の時間だよー!」


「えー! もうちょっと語っても良いじゃんかよー!」


「語るのは良いですけど、もうお店に着いちゃいましたよ。 そのテンションでお店に入ると、お店とお客さんに迷惑かけちゃいそうです」


「うっ……それは確かにいけねぇな」


「後で語りたい気持ちは聞いてあげるからさ、とりあえず服屋入ろー! うち、新しい服買えるかもってワクワクしてるんだからさ!」


 カミラが話しながら服屋へと入る。


 中は完全にレディース向けの服しかなく、居心地の悪さよりも先に、新鮮さが俺の中で勝っていた。


「うへぇ……何回か来たことあるけど、相変わらずこの雰囲気には慣れねぇな。 な、そう思うだろバルーノ」


「俺? 俺はレディース向けの服屋入ったことないから、なんだか新鮮だよ」


「嘘だろ!? だって俺たちしか店の中には男いないんだぞ!? 居心地悪くないのかよ??」


「確かに少しは悪いけどさ、カミラとアリスと一緒に来てるんだからそんなでもないかな」


「お前……凄いな」


 そうか? 男1人で入るのならものすっごく居心地悪いだろうけど、女友達も一緒だからそこまで意識しなくて良いと思うんだけど……。


 勿論、意識しすぎて変な言動をしたり、2人から離れてたらキツいと思う。


「カミラ。 こっち服の方がカミラには合うんじゃない?」


「うーん。 うちもそう思ってるんだけど、好み的にはこっちの服なんだよなー……むむむっ! バルーノー! オーウェン! 男子の意見聞かせて!!」


 俺たちが小声で話していると、さっきまで服を見比べていたカミラに話しかけられる。


 どうやらどっちの服を買うか迷っているようだ。


「別に良いけどさ、俺の意見役に立ったことねー気がするんだけど」


「そんなことはないよ。 ね、アリス」


「そうですよ。 流石オーウェンだなって思うことありますよ」


「そ、そうか?」


 オーウェンは少し照れ臭そうに頬を掻く。


 いや、女の子にあんま慣れてない俺だけど、オーウェンチョロくないか?


「勿論、バルーノにも期待してるからね! 頼むよ!」


 カミラはパチンっとウインクをする。 そのウインクから、キラキラしている星が見えそうなぐらいだった。


「バルーノ君。 あの、良かったら私の服にも意見もらえると嬉しい……です!!」


 アリスはどことなくて恥ずかし気だ。 皇女様だけど、あまり男の人に服で意見を貰う機会はないのかもしれない。


 少し頬を赤く染めてモジモジするアリスは、小動物のような可愛さがあった。


 そんな対照的な女の子達に話しかけられた俺はーーーーーーーー


「うん! 俺でよければ任せて!!」


 ーーーーーーーーオーウェンをどうこう言えないレベルでチョロかった。



 □ □ □


「いやーいっぱい買ったねー!」


「はい。 とっても満足です」


「「……………」」


 俺達は服屋で買い物をした後、カフェも併設されている本屋へと来ていた。


 女性陣は楽しそうにお茶を飲んでいるが、男性陣は机に突っ伏している。


 その理由は女性陣の買い物の長さにあった。


「おい、バルーノ……生きてるか?」


「……なんとか」


「凄いよな。 女って服1着買うのにたくさん時間かかるんだぜ?……凄いよな」


「……凄かった。 予想以上だった」


 最初は全員楽しんで服を選んでいたんだ。


 でも、少しずつ時間が経つにつれて違和感を感じるようになった。


 なぜ気に入ったと言ったのに服を戻す?


 そして、なぜすぐに気になる新しい服が出てきて、すぐに試着しようってことになるんだ?


 店員さんともなんであんなに会話が盛り上がるんだ? 不思議だ。


 幸いにも、試着は多くしたけど、買った服はアリス達が自分で持ってる分だけだ。


 男性陣が荷物持ちになることはない。


 でも、なんだか戦いとは違う疲れを感じてしまった。


「ふぅ……オレンジジュース美味しい」


 俺は突っ伏していた顔をあげて、オレンジジュースを飲む。


 柑橘の甘い味が、糖分を失っていたであろう身体に駆け巡られたような気がした。


「いや〜! 予想以上に盛り上がっちゃった。 2人ともごめんね!」


「ごめんなさい」


 2人とも申し訳なさそうに手を合わせた。


「……ま、別に良いよ。 今から俺達の闘技場への熱い想いを聞いてくれるならさ」


「ん、良いよ。 こっちも楽しませてもらったしね」


「話したいっていう2人の気持ちもよく分かりますしね」


「よっしゃ!! なら、次はこっちの番だ! やっぱり闘技場ってさーーーーーーーー!!!」


 オーウェンが話し始めて、俺も便乗する。


 俺たちの話を、女性陣は嫌な顔1つせずに聞いてくれた。


 そして、数十分経つと俺達は語れた満足感で、心地よい気持ちになっていた。


「いやー満足満足」


 俺はそう言いながら近くに置かれていた本棚から、一冊の雑誌を取り出した。


 その雑誌の表紙を見て俺は目を見開く。


 そこには燃えるような赤い髪をオールバックにした、強面な男が映っていた。


「『シンク=フィアンマ』……」


「おっ。 その雑誌の表紙、今月号は『炎帝』なんだな」


 俺が小さな声で呟くと、それを聞いたオーウェンが覗き込んでくる。


 シンク=フィアンマ。 アトラス王国に7人しかいないSSSランク冒険者の1人、『炎帝』。


 俺が憧れ、越えたいと思っている人の1人だ。


「相変わらず炎帝カッコ良いねぇ。 アリスは会ったことあるの?」


「皇女としても、『戦士皇女』としても会ったことがありますね。 言動はガサツですけど、良い人だと思いますよ」


「へぇー会ってみたいなぁ。 俺も同じ火属性だから、色々聞いてみてぇ。 バルーノは?」


「俺は、会って戦ってみたいな」


「「「はぁ!?」」」


 俺の発言を聞いて3人とも驚く。


 アリスは皇女様がしてはいけない顔をしていた。


「お前……ちょくちょく凄いことを言うなとは思ってだけど、まさかそんなことを言うなんて」


「ビックマウスというか、なんというか……」


「でも、私はそういうの嫌いじゃないです。 むしろ、好ましく思いますね」


 3人がそんなことを言う中、俺は雑誌の表紙をジッーと見る。


『炎帝』、シルク=フィアンマ。 元貧困民、魔力量が平均的、戦闘スタイルが徒手空拳など、色々共通点があったり、共感することが多い相手。


 俺が目指すのは『雷帝』だけど、『炎帝』の方が、色々と身近に感じる相手だ。


「会ってみてぇな。 ちなみにみんなは帝に会ったことあるの?」


 聞くと、3人とも3.4人ぐらいの帝は、パーティーで見たことがあったり、話したことがあると言っていた。


 それを聞いて、やっぱり貴族とか王族とかってすげぇなと俺は思ったのだった。


 そして、話していくうちに日が傾いてきたので、俺たちは1年生交流会お疲れ様でした会&親睦会をおしまいにして、みんなで学生寮へと帰ったのだった。
























 □ □ □


「や、やめろーーー!! 嫌だ! 死にたくない!  いやーーーだぁ???」


 アトラス王国にある森の中で、夜遅くに1人の男が殺害された。


 その男の死体の近くには、1人のフードを被った人物が立っていた。


 その人物の右手には、血と涙でぐしゃぐしゃになった首が1つ。


「ひひっ……! いいねいいねぇ! やっぱり死ぬ間際の色々な感情が駆け巡っている顔は、美しいぃぃぃ……………!!!」


 その男とも女ともとれる声には、狂気が含まれていた。


 ーーーーーーーーアトラス王国に1つの悪意が咲き、その悪意は少しずつ成長し、広がってきていた。

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