第7話 『雷拳』VS『瞬雷』戦の講評。た

『いやぁまさかの大番狂わせが起こりましたね! 学園長、この戦いの講評をお願いします!!』


『分かりました。 1つずつ振り返っていきましょう』


 アナウンサーの女の子と、学園長の解説が始まろうとする。


「まじか……まじでフランに勝っちゃったよ!!」


「……え、じゃあバルーノがうちらの代の最強格の1人になったってこと?? うわぁ……負けられない!!」


 オーウェンとカミラが信じられない表情を浮かべるが、どことなく嬉しそうだ。


 それが友人が勝ったことに対する喜びなのか、新たなライバルが出現したことによる喜びなのかは、私には分からなかった。


「有言実行するなんて、バルーノ君は凄いですね……」


「本当だよ! もしかしすると、アリスも危ないかもしれないよ!!」


 カミラの言葉を否定したい私がいたが、先程の戦いを見ると、はっきり断言できない自分がいた。


 もし、戦っているのがフランじゃなくて私だったら、私もフランと同じように地面に横たわっていたのかもしれない。


 そんなことを思っていると、バルーノ君がフランの手を取って起き上がらせる。


 2人が立つと、盛大な拍手が送られた。


『いやぁいいですねぇ。 男の友情って感じでいいですねぇ……』


『青春って感じで、グッと胸にくるものがありますね』


 フランの表情を見ると、白い歯を輝かせて嬉しそうに笑っていた。


 あ、バルーノ君に手を薙ぎ払われている。


 でも、良かったですね、フラン。


 良き友、ライバルができそうですね。


『それではほっこりしているところ申し訳ございませんが、次の試合も控えているので学園長、講評をお願いします』


『それでは始めていきます。 聞きたい人はよく聞いておいてくださいね』


 学園長が言った言葉を聞き、生徒達は滾る思いをなんとか収めながら講評を聞く準備をした。


 流石名門校。 気持ちを抑えて、少しでも自分が強くなれる機会を逃すまいとするその姿勢、私も見習わないといけませんね。


 私は背筋をビシッと伸ばして、2人の会話を集中して聞き始めたのだった。


『まずは最初ですね。 フラン選手の雷突剣を、上手い具合にバルーノ選手が軌道をズラしました』


『そうですね。 軌道をズラしてすぐ様雷突棍を放ったのはよかったですし、そのあと直ぐに追撃を忘れなかった。 よく場を冷静に見て、判断しましたね』


『確かにそうですね! 私だったらフラン選手の雷突剣の軌道をズラすことができたら、そこで満足したり、安心してしまいそうです!!』


『その後の守護雷陣も良かったですね。 特に遅延魔法が良かった。 まさかあの場面で遅延魔法とは……フラン選手、予想してなかったでしょう』


 確かに遅延魔法には驚いた。 あれは学校を卒業した時、数人が扱えることができるようになるか?ってぐらい、難しい魔法だ。


 それを入学したての1年生があそこまで上手く使うなんて……私も見習わないと!!


『遅延魔法って上級魔法ですよね?』


『そうです。 扱いがとても難しいんで、学生で使う人はあまりいないんですけどね』


『難しい?? どのような難しさがあるのですか?』


『バルーノ選手の戦いの場面を例にすると、バルーノ選手は自分の身体の後ろ、フラン選手からは見えない位置に雷槍を出したでしょ?』


『はい』


『結果はしゃがみ込んだ瞬間に雷槍が現れるようにして、威力が下がったとはいえ、フラン選手のペンダントにヒビを入れた。 では、失敗したらどんなことが起こる可能性があったと思いますか?』


『えっと……雷槍が少しでも速く動いていたら頭に刺さったり、暴発していた可能性があったと思います』


『それも確かに考えられますね。 私が考えた他の失敗の例としては、雷槍の大きさ等の調整をミスってしまい、身体の後ろに出して不意打ちをつけなくなっていたかもしれない可能性もあったと思います』


『なるほど……考えれば考えるほど、色々な失敗例が思い浮かびますね……』


『それに、失敗をするってことは怖いことですけど、今回の場合は失敗しても怖いの割合は普通ではないと思うんですよ。 普通、頭に雷槍が刺さったら死にますからね』


 確かにそうだ。 いくら特殊な魔法壁が張られているとはいえ、雷槍が自分の頭に刺さったらと考えたら、血の気が引いてしまう。


『うわぁ……そう考えると、失敗できないですね。 確かに遅延魔法を上手く調整したり、場を見極めて使うのは難しそう……』


『でも、使いこなせると戦術は広がります。 すぐに諦めるのではなく、頑張ってみるのもいいかもしれませんよ? 人の得意不得意は違いますかね』


『精進します……さて、話を戻しましょう。  次はフラン選手の上級魔法、稲妻が放たれましたね』


『流石瞬雷でしたね。 威力、速さともに申し分ない。 形だけの上級魔法ではなく、ちゃんとした上級魔法でした。しかも、あんなに連発するなんて、流石SSランク冒険者ですね』


『あれは凄かったですね! あんなにバンバン放つ人初めて見ましたよ!!』


 隣にいるオーウェンとカミラが仕切りにウンウンと頷く。 確かに、私も見たことがなかったら、2人と同じような反応をとっていたかもしれませんね。


『それに対してバルーノ選手は辛抱して次の手を考えていましたね。 気持ちが焦って悪手を出することはよくあるので、ここをグッと堪えたのは素晴らしいです』


『確かにそうですね! 私だったら一か八かで突っ込みそうです! さて、次の場面ではバルーノ選手が雷棒を何本か槍の要領で投げましたね』


『ここからバルーノ選手は、あの場面を作る準備をしていたみたいですね』


『そう考えると凄いですね! 1回バルーノ選手の頭の中見てみたいです!』


『気持ちは分からなくもないけど、なんだか猟奇的で怖いわよ!』


『すいません! ちょっと言葉を考えれば良かったですね』


『そうね……さて、話を戻すけど、バルーノ選手は状況を変えるために攻撃に出た。 その時、棍の先端から雷刃を発現させていたわ』


『あれインパクト強かったですよね! 死神の鎌みたいでカッコよかったです!』


『そのインパクトの強さが、後々効いてくるのよね……』


 感心している学園長の意見に私は頷く。 


 私にはない発想力だ。


『その後は雷箱と雷球を何十個も出して蹴ったり打ったりしていましたね! 正直、私気が狂ったのかと思いましたよ!!』


『フラン選手は確かに驚いていましたが、警戒はしっかりしていました。 そこは流石でしたね』


『そして、ここからが怒涛の展開になりました! まずはバルーノ選手が雷突棍で攻撃を仕掛け、棍の先端から雷刃を発現させました!!』


『えぇ。 少し前と殆ど同じ戦い方ね』


『しかし、ここでフラン選手がバルーノ選手の棍を吹き飛ばす! ここで勝負がついたかと思われたその時、空から何本もの雷槍が時間差で落ちてきました!』


『全体の警戒をしていたと思いますが、あの時はフラン選手の上空に対する警戒心が少し上がっていましたね』


 顔は上を向いていなかったけど、意識は少し上に向いていた。  これはバルーノ君が狙ったことでしょうね。


『フラン選手は防御魔法と無詠唱の雷槍で攻撃から身を守りました。 その時、バルーノ選手は雷線をフラン選手の脚に絡み付かせました!』


『あの時、前の攻撃で意識が上に向いていたので、下に対する警戒は少し薄かったのだと思います。 それと、お互いの脚に雷線が絡み付いている。 この状況に違和感を感じ、意識が少し囚われていたのではないでしょうか』


 上に意識が向いている状態で、下から攻撃がきて少しそっちに意識が向き、お互いの脚に雷線が絡み付いていることに違和感を感じる。


 この2つが同時に起こったことで、意識の何%かは囚われていたのかもしれませんね。


『その意識に囚われつつも、フラン選手は魔法を放とうとしました』


『しかし、その少しの間をバルーノ選手は見逃しませんでしたね』


『はい! バルーノ選手はフラン選手より早く、雷刃を発現させました! しかし、雷刃が発現した場所は今までの棍からではなく、その前に放っていた雷棒や雷箱、雷球からでしたね!!』


『そうですね。 あの3つの魔法から、雷刃が発現されるかもという発想は、頭に少しはあったかもしれません。 しかし、魔法を蹴る、打つなどのおよそ戦いではあまり見ない戦法、その前に2回、雷刃を棍の先端から出していた先入観から、のだと思います』


 きっとあの場面以外で他の3つの魔法から雷刃を発現していたら、最後フランは防ぐことができていて、まだ勝負はついていなかったでしょう。


 あの場面を作る、あの場面で使う為に、誰にも気付かれない様に戦いの中で準備をする。


 遅延魔法という上級魔法を使っていましたが、その魔法のインパクトを上回るぐらい、戦い方が上手いという印象がつきましたね。


『最後は雷棒や雷箱、雷球から発現した雷刃によって身体が貫かれ、ペンダントも破壊されました』


『これは完璧にバルーノ選手の勝ちですね。 いやー良い戦いだった! 私も色々と刺激を受けましたよ! でも、とりあえず2人ともお疲れ様! みんな、2人に盛大な拍手を!!』


 学園長が拍手をすると、もう1回盛大な拍手が沸き起こる。


 2人はその拍手を受けて、照れ臭そうに笑っていた。


「さて、次は私ですね」


 私は拍手をした後、席から立ち上がる。


 向かう先は控え室だ。


「おう。 頑張ってこいよ!」


「バルーノの例もあるし、アリス油断しないようにね!!」


「分かってますよ」


 私は2人と別れて控え室へと向かう。


「あぁ……良い。 良かったですよ2人とも……!!」


 私は廊下を歩きながら呟く。


 あんな良い戦いを見て、気持ちが上がっていることが自分でも分かった。


 バルーノ君……面白い。 面白いですよ!!


 学校生活に楽しみが増えました。


 私は、君と戦ってみたい。


 今回の1年生交流会で戦う機会はあるんでしょうか?? 


 ……早く戦ってみたいな。


「ふふっ……焦らない焦らない。 学校生活はまだ始まったばかり。 これからですよ、これから……」


 私はそんなことを呟きながら、気合い十分で自分の試合の準備をしたのだった。

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