第5話 『雷拳』VS『瞬雷』 ①
「さぁーー始まりました! 今年度の1年生交流会! 最初の勝負を飾ってくれるのは、歴代最速でSSランク冒険者になった『瞬雷』こと、フラン=オーリオだぁぁぁぁ!!」
アナウンサーの女生徒が声を張り上げた瞬間、フランは優雅な笑みを浮かべながら入場してくる。
その姿を見て、アリーナに集まっていた生徒達は大歓声を送っていた。
「対戦相手はバルーノ=エルガー! 瞬雷相手にどこまで持ち堪えることができるのか!? 期待が高まります!」
俺が入場するとまばらな拍手が送られる。
オーウェンとカミラの頑張れーという声援が、少しだけ聞こえてきたのは嬉しかった。
「初めまして。 フラン=オーリオです。 良い勝負しような!」
「……おう」
フランは明るい笑顔で話しかけてくる。
初めまして、か……。 お前とは初めましてではないんだけどな。
「バルーノの武器は棍か。 珍しいな」
「そうかもな。 フランは片手剣か? 瞬雷は双剣使いだと聞いたんだが」
「まぁ、そうなんだけど今回は片手剣で挑ませてもらうよ」
フランは学校指定の武器である片手剣を軽く触る。
ま、そうなるよな。 俺だって雷拳としての戦い方と、バルーノ=エルガーとしての戦い方は変える。
特に俺は素性を世間に公表していないからな。
雷拳の十八番であるあの技を使うもんなら、1発で正体がバレてしまう。
それは避けたい。
だから、俺の勝利条件としては、雷拳と正体がバレないようにしながら、フランに勝つことだ。
ちなみに、『無冠の五帝』と『五彗星』の中で素性を公表していないのは、『雷拳』と『奇術乙女』の2人だけ。
俺からしたら、よくみんな素性を世間に公表できるよなって思う。 15歳で自分の素性を世間の人達が知ると、良くも悪くも注目の的になったり誘惑がくるから、俺にはまだ公表することはできねぇわ。
「それにしても、みんな俺たちの戦いを見るために、凄い人数が集まったよな」
本当だよ。 周りを見渡せば人、人、人。 いすぎだろ。
「かなりの1年生と、少しの上級生がこのアリーナにいるらしぞ」
「上級生? 1年生は分かるけど、なんで上級生がいるんだ? 普通に授業の筈だろ?」
「その授業の先生が、俺たちの戦いや1年生の戦いを鑑賞するって授業内容に変えたんだと」
「……マジか」
フランが唖然としている。 俺も情報を手に入れた時はビックリしたけど、それと同じくらい納得をした。
SSランク冒険者の戦いなんてなかなか見れないからな。
もし、戦いが一瞬で終わったとしても、レベルの差が分かるかもしれないってのは大事なことだから、見たいって気持ちは分からなくもない。
それに、今年の1年生の情報を知れるってのも、大事なことだろうな。
「まぁいいや。 とりあえず、悔いないように戦おうぜ」
「おう」
俺たちは会話を終える。
少しするとアナウンサーの女生徒が開始を始めるゴングを鳴らし、戦いが始まった。
□ □ □ □
「ッッシ!!」
戦いが始まった瞬間に動いたのはバルーノ。
雷の身体強化魔法をすぐにかけ、一瞬で間合いを詰めた。
そして、棍で首にかけられているペンダントを破壊しようとする。
しかし、その攻撃はフランによって防がれた。
「!? 君、強いね!」
フランは予想以上の速さ、攻撃力の高さに驚いて目を見開くが、素早く反撃をする。
それをバルーノは落ち着いて冷静に処理していた。
『おおーー!? なんとバルーノ選手一瞬で間合いを詰めて攻撃を放ったぁ! フラン選手に届くことはなかったが、良いスピードと攻撃力だぁ!! 学園長、そう思いませんか!?』
『えぇ、とても良い攻撃でした。 その後のフラン選手の反撃を落ち着いて処理していたのも良いですね』
アナウンサー席にいる女生徒は今の攻防でテンションを上げ、解説役で来ていたミラは賞賛を送る。
観客席にいた生徒は今の攻防に驚いていた。
「おい、バルーノの動き見えたか……?」
「見えなかった……気づいたらフランと戦ってた」
「フランの攻撃を落ち着いて処理するとかまじかよ……」
「もしかして、あいつ強いんじゃね? 俺だったら今ので決着ついてたような気がするんだけど」
生徒達が驚いている間に、2人の戦いは激しさを増していた。
「オラァ!!」
バルーノは果敢に棍を使って攻める。
それをフランは受け流しつつ、剣で突いてきた。
「
雷を纏った剣を突き出しながら、フランはペンダントを狙う。
凄まじいスピードで突き出された剣に対して、バルーノは棍で思いっきり掬い上げることで、軌道を変えた。
剣が首の横を通る。 後ろ髪が少し燃えたようで、焦げた嫌な匂いが鼻についた。
バルーノとフランの距離は、人が1人入るぐらい近い。
それを見て、バルーノは技を放った。
「
バルーノは棍を持ち直して、雷を纏った棍を思いっきりお腹に向けて突く。
フランは防御魔法を張るが、反動で少し後退した。
それを見て、追撃を忘れないバルーノだった。
「
バルーノは一息吸った後、息が続く限り攻撃を繰り出す。 上下左右から激しい連打が繰り広げられる。
それはとても荒々しく、竜巻のような激しさがあった。
『おおっと!? バルーノ選手、もの凄い連打だぁ!! これは堪らない! 防御一戦かぁ!?』
『いや、フランならここから攻撃の手が出るはずよ…………ほら』
ミラがそう言った瞬間、フランは剣で棍を受け止め、思いっきり弾き返す。
それと同時に、雷突剣と無詠唱で
「ぐぅ……!!」
バルーノは弾き返されたことで体勢を崩していた。
「
バルーノは無詠唱で7本の雷槍を放ってすぐに、周りに雷の防御魔法を張る。
雷槍は相殺することができたが、雷突剣は円陣にヒビを入れていた。
「……!? まじか!! 結構威力上げても貫けねぇのかよ! 良い守護雷陣だな!!」
「そりゃぁどう、も!!」
守護雷陣が砕けた瞬間、バルーノはフランに思いっきり棍を叩きつける。
それを右手で防いだフランは、左手で魔法を放とうとした。
しかし、それが叶うことはなかった。
「なっ!?
バルーノは棍を叩きつけた後、思いっきりしゃがみ込む。
バルーノがさっきまでいた場所から、突如として雷槍が1本現れた。
「ぐぅ!?」
フランは防御魔法を張るが、不完全だった為魔法が壊され、後方へ吹っ飛ばされる。
威力が下がった雷の槍は、ペンダントにヒビを入れていた。
『こ、これはぁぁぁぁ!? まさかまさかのバルーノ選手! フラン選手のペンダントにヒビをいれたぞぉぉぉ!! 誰がこんなことを予想していたでしょうか!? 凄い! 凄すぎる!!』
『いやぁ、1年の今の時期で遅延魔法が使えるだけで驚きなのに、使い方がとても上手いですね。 身体の後ろに雷槍を無詠唱で出し、隠す。 そして、しゃがみ込んだ瞬間に、雷槍が襲ってくるようにする。 意識していない攻撃がいきなりくるのには驚いたでしょうね』
ミラは驚愕する。 なにより魔法の使い方、タイミング、戦い慣れていることに驚いていた。
「チッ!! 砕くまではいかなかったか!!」
「…………バルーノ! お前、良いな!! 良いよ!! やべぇ! 同い年でこんなにワクワクする相手は久しぶりだ! もっとやろうぜ!!!」
バルーノは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていると、フランは目をキラキラさせて興奮する。
それはまるで好きなものを見つけて喜ぶ子どもの様だった。
「うっせぇ! てめぇは地面に這いつくばってろ!!」
「嫌だね! こんなに楽しいんだ! 地面に這いつくばってる時間がもったいない!!」
フランは起き上がると、嬉しそうにバルーノの方を見る。
その笑顔を見たバルーノは顔を顰めていた。
「さぁ、第2ラウンドの始まりだ!!」
フランは左手を天に掲げる。
それを見て、バルーノは棍を更に力強く握ったのだった。
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