第4話 『五彗星』の一人、『戦士皇女』。

「いやー自分の組み合わせよりも、お前とフランの戦いの方が気になっちゃうわ」


「気持ちは分かるが、自分のことに集中しろよ。 足元掬われるかもしれねーぞ」


「確かにそうだな。 交流会までの時間は鍛錬と情報収集に努めよーっと」


 目の前に座っているオーウェンは長い足を組み、両手を頭の後ろに置きながら椅子を傾ける。


 入学式が終わってクラスに入ると、まさかのオーウェンが俺の前の席だった。


「……口笛吹いてんじゃねーよ。 なんだ? 心に余裕があんのか? あ?」


「わ、わりぃって……そんな喧嘩腰で話しかけんなって。 もっとフレンドリーにいこうぜ!」


 オーウェンは慌てながら苦笑いを浮かべ、俺の腕をポンポンと優しく叩く。


 オーウェンの苦笑いを見ていると、なんだか毒気が抜かれてしまった。


「それにしても担任の先生おせーな」


「出席簿忘れたとか言ってたけど、どこまで取りに行ったんだろーな」


 俺たちは入り口の方を見ながら会話をする。


 そんな俺たちに話しかけてくる人物達がいた。


「やっほー! オーウェン先日ぶりぃ!!」


「オーウェン。 ご無沙汰ですね」


「おー! カミラにアリス! お前らも同じクラスだったな! これからよろしくな」


 後ろを振り返ると緑髪をサイドポニーテールにし、快活な笑みを浮かべる少女と、長くて絹のような美しい金髪を胸あたりまで伸ばしている少女が立っていた。


 緑髪の方は知らないけど、金髪の方は『戦士皇女』じゃねーか!!


「おっ? オーウェンの友達?」


「初めて見る方ですね」


「おう。 さっき話して仲良くなったんだよ! 後、こいつの名前聞いたらお前ら、絶対驚くぞ〜」


「え? なになに? 有名人??」


 緑髪の少女が期待を込めた眼差しで俺のことを見た。


 うわぁ……名乗りにくいわぁ。


「……バルーノ=エルガーです。 よろしくお願い致します」


「えっ? なんで敬語? 俺には普通だったのに!!」


「バルーノ=エルガー?? なんか最近名前聞いた気がする!!」


「ほら、カミラ。 フランの対戦相手の方ですよ」


「あーーー! 瞬雷の対戦相手君か! 確かにそれはビックリだ!!」


 正直、こんなことで有名にはなりたくなかったんだけどなぁ。


「え、なんでお前敬語なん?」


「この王国の皇女様だぞ? 敬語使うのは当たり前だろ」


「俺、七大貴族の一角でそこそこ地位高いんだけど!?」


「お前はさっき口笛吹いてたから、敬語使う価値ねーよ」


「口笛吹いただけで!? それはあんまりだろ!?」


 オーウェンがガクガクと俺を揺する。


 正直、オーウェンに対しては敬語を使うタイミングを完璧に逃しただけなんだけどな。


「あははっ! 君、面白いねぇ」


「バルーノ君。 確かに私は皇女ですけど、15歳の女の子です。 普通に話をして欲しいです!」


 アリスがグッと顔を近づけて力説する。


 顔と顔が近すぎてドギマギしてしまった。


「わ、分かった! 普通に話をさせてもらうよ!」


「ありがとうございます! バルーノ君!」


 アリスは向日葵のような明るい笑顔を浮かべる。


 えぇ……素の『戦士皇女』ってこんな感じなのか?


 戦場で戦っている姿何回か見たことあるけど、凛とした出来る女って感じだったはずだけど。


「あ、そういえばちゃんとした自己紹介ってまだしてなかったね! うちの名前はカミラ=コールマン。 アリスと同じで普通に話していいからね!」


「お、おう……。 って、コールマンってことは……」


「うん! オーウェンと同じ七大貴族の一角で、風属性の一族だよ」


 おいおいおい。 七大貴族が2人もいて、皇女もいるだと? 一体どうなってんだこのクラス。


「私のことはご存知だと思いますけど、自己紹介をさせてもらいますね。 アトラス王国の第3皇女、アリス=アトラスです。 冒険者としては『戦士皇女』という二つ名をいただいております。 これからよろしくお願いしますね!」


 アリスはスカートの端を持って、上品な仕草で俺に自己紹介をしてくれた。


 おぉ……様になるなぁ。


「七大貴族が2人に、皇女が1人。 このクラスすげぇな。 もしかして他の七大貴族とかも、このクラスや学校にいたりしないよな?」


「上の学年に土の七大貴族がいるぞ」


「私たちと同じ歳の七大貴族は、水のオルコット家の次女だけだね。 その娘はラルク魔法学校に入学したよ」


「へぇーそうなんだ。 ちなみに土の七大貴族の人って強いの?」


「強いぜ。 この学校のTOP5には入るんじゃねーか??」


 へぇ……そんなに強いのか。 実際に戦うか、戦っているところ見てみたいな。


「それにしても、バルーノ! 瞬雷が相手だけど、意気込みはどうよ!?」


 俺がまだ見ぬ先輩に期待を寄せていると、机に手を置きながらカミラが聞いてきた。


「勝つつもりだ。 負けたくねぇからな」


 俺がそう言うと、カミラとアリスは驚いた表情を見せた。


 しかし、アリスの驚きの表情は、カミラとは少し違っていた。


「その強気の態度、すごいね!」


「そこまではっきりと宣言する同い年の人には久しぶりに会いました……。 しかも、同じ『五彗星』の私がいる前で……」


「アリスの前だろうと関係ねぇよ」


「……バルーノ君。 あなたはメンタルが強そうですね」


「俺のメンタルは強いよ。 自負してる。 なんなら、メンタル以外も俺は強いよ」


「…………へぇ。 いいですねぇ。 正直、フランが圧勝すると思っていたのですが、俄然と楽しみになってきましたよ!」


 俺の宣言を聞いてアリスは口角を上げ、少し荒々しさを感じる笑みを浮かべる。


 その笑みを見ると、俺が知っている『戦士皇女』の一部分が見えたような気がした。


「ごめーん! 遅くなっちゃった! 今からホームルーム始めるよー!」


 担任の先生が大慌てで教室に入ってきて、ホームルームで自己紹介をした後、学校初日は終わりとなった。


 2日目以降はオーウェン達と学校生活を通して親交を深めつつ、鍛錬をしたり、瞬雷についての情報を学校内外で調べる日々。


 そして、入学してから1週間が経ち、1年生交流会が遂に始まったのだった。

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