第九話 バカな口約束
布団を2セット敷き2人を慎重に寝かせた。ある程度の汚れや血は拭き取ったため布団の汚れは気にしなくていいだろう。そんなものを気にかける事態ではないが。
悠斗の能力によって肉体的には完全復活させたが、衰弱した心と疲労は簡単に治すこともできず目は覚まさない。
「悠くん、先走るのはダメって言ったでしょ」
「悪かったって」
エリカに説教を受けているがほぼ流している悠斗。
そもそも先走るなとは一度も言われてない、と心で愚痴を漏らす。
「また流してる」
「……本当に思ってるって」
ノアにも指摘され頭を掻き視線を逸らす。
3人は食卓を囲み本日の問題行動を指摘している。ここの問題とは当然悠斗の先行飛び出しだ。
「悠くんこれで3回目だよ」
「2回だろ、1回分盛るな」
「…………」
「どちらにせよ複数回であるのなら問題ですね」
「それお前らが言うか?」
無意識に話題をすり替えようとする悠斗、しかし2人の圧に萎縮する。
それを誤魔化すようにご飯を口内に掻き込むとすぐに呑み込む。
とにかく説教タイムはここで一度ストップ。複数気になる点がある悠斗はその話を持ち出す。
「取り敢えずあの2人は……何者だ」
何者であるのか、身体検査は2人に任せたため詳細は2人が知っている。しかし、空から飛来して来る人、加えて彼女たちは特殊なものを持っていた、ある程度の推測はできた。
「天使と悪魔」
エリカの紡いだ言葉は悠斗の想像にあった文字と一字違わず一致していた。
「しかも2人ともハーフだったよ。悪魔と天使のね」
その部分も概ね想定内だ。2人ともは見えなかったが認識した範囲に黒と白の羽が見えたからだ。しかし悠斗が最も不思議な点は別のところにある。
「あの2人はかなり高度から落下したことを踏まえても一点おかしい。公園に人がいなかったのは幸いだが激しい爆風が起きた、でも……地面に陥没が見られなかった。これはどう言うことだ。気掛かりなのはもう1つあるがそっちはいい」
悠斗の指摘に振り返る2人そしてその現場の状態は確かに不自然であった。全員の到達点は一箇所へと集中する。
その焦点は――
「本人のどちらかが被害を抑えるために能力を酷使した」
「やっぱそこだな」
エリカの発言に満場一致で納得する。納得しながらも詳細は不明だ。悠斗は能力の全てを知らない、ノアやエリカも多少は認識済みでも細かな違い等は区別できないはずだ。故にこの問題は必然的に打ち切りとなる。
「あとはどうして降ってきたかと言う問題ですね」
ノアの提示した第二の疑問はそれだ。いつの間にか全員食を終え箸が止まっている。
「翼があるからあの勢いで落下することはないよね、普通にしてれば。つまり突然放り出されて攻撃されたとかだよね」
エリカが自問自答して全員に理解を求める。周りも重々承知しており抜け目がない。
「結果として俺たちはこの2人をどうするかだが……あの状態で見捨てたくはない」
自分の意見から述べ周りの意見を目で尋ねる。
「いいんじゃないですか。お兄ちゃんですから」
「いいんじゃない。そこに惚れたわけだし。でも一番は私で決まりだよ〜」
2人は息をついた後概ね承諾してくれた。そのことに感謝し安堵する悠斗。もし反対されようものなら2人を家から出してでも看病する気だったが……。
「んじゃ今日の会談はここまで。風呂順どうする……俺が先だな」
会話を日常へ復帰させようと試る。
「「一緒とか」」
ハモる。こんな日常が続くのだとしたら毎日の疲労が絶えないだろう。
「じゃあ先入ってくるわ」
2人を無視して入浴準備を進める。アレでも悠斗の意思は尊重するらしく、どこぞの宇宙人みたく乱入はしてこないらしい。弁えを持っていて助かる。
その後順に入浴を済ませ就寝へ移る。開いた洋室を一部屋ずつ2人に用意しているがノアは少し特殊である。
定期的にエネルギーの主軸役を果たすコアを調節する必要がある。医者の推奨や論文を元に調べたところ睡眠時が調整に最適とのことだったため悠斗とノアは同室で寝ることになった。
悠斗にそのつもりは無かったがノアが強く要望を出してきたので許可した。エリカは断固拒否したが2人の事情は2人で決めるべきであるためその意向は無視された。
2日に一度で安定はするが不測の事態が発生した際対処できないことを鑑みて毎日コアの調整をすることにしている。
「ねぇ〜、私も一緒に寝たいんだけど〜」
ノアと悠斗の後を追いながら文句を垂れる。
「本来2人で寝るのもおかしいんだぞ、もう1人増やせるか」
この年頃の男女が同室で就寝などと言うことは世間一般で考えまず有り得ない。そもそもそんな常識があったとしても悠斗的に恥ずかしくてできない。
「残念ですが諦めてください」
ノアが煽るようにエリカに笑う。
「逆に考えてみよ? ほら、1人増えても変わんないって」
「うーん、そうだがな……でもまぁ、寝る時まで疲れたくないからやめてくれ」
ノアの挑発を無視して見方を変えるエリカ。
どちらの言い分も間違いは無いため自己の主張を優先。
「ぶーー。私も一回死んでみようかなー」
「……そんなこと言うな」
エリカの軽口に敏感に反応し覇気を変える悠斗。
エリカも自身の言葉に反省して押し黙る。ノアはと言うとその2人の雰囲気に少しばかり身を引く。
「……2人に力を使うのは疲れるからな」
「……うん……そうだね……」
本心では無いが雰囲気のあるセリフを言って場を流す。
折角の楽しげな雰囲気を壊してしまい、後悔の念を抱く。
それを察した2人、ノアはしばらく黙りエリカは短く答えた。
「ほら、お前の部屋。悪いとは思ってるから今度なんかしてやるよ」
非常に曖昧な約束だがそれを取り付ける。
あとで冷静になれば、何故こんな意味のない約束をしたのか不思議になった。
「何でも?」
ピクッと反応を見せ問い返すエリカ。
「ある程度ならな」
何でもとはいかないが弁えを持った上でなら基本良いと考えている。
3人とも部屋へ入り床に着く。しかしエリカだけは静かに室内へ消えた。
エリカはベッド、悠斗とノアは和室に来客用の布団を敷いて寝る。流石に2人で入れるほど巨大なベッドは備えられていない。
「お兄ちゃん……良いんですか、エリカさん」
悠斗の淡い光を受けながら定まらない疑問をかける。
「……お前だって嫌がったろ」
悠斗の返しに首を左右に振る。
「私は別にエリカさんのことが嫌なわけじゃ無いんですよ。あちらの態度に合わせているんです」
「…………」
意外だった……。
ノアは嫌いまでとは行かずとも敵として見ている様子があった。それが誤解と言うならこの会話は大きな納得を呼ぶだろう。
「確かにノアは返しだけだな。さっきは煽ってたけど」
過去の言い合いを振り返っても毎度エリカから仕掛けていることが分かる。何故エリカはそんな事をするのか、大方悠斗の予測であっているだろう……。
「アイツは……大丈夫だ」
「……そうですか……。まあおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
エリカの意図は見えないが悠斗に好意を寄せていることは事実だ。ここに住み込むほどなら簡単に挫けたりしない。
大丈夫……大丈夫……。
だから今は、今日は、この一日を終わらせよう……。
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