第10話 制御

祐樹は、初級魔法を撃つために距離をとり


「初級魔法。火の玉!」


と叫び魔法を発現させようとした。


祐樹の前に火の玉の核となる高エネルギー体が生まれその周りを炎が囲む。そして火の玉ができる。


リンゴサイズの火の玉の魔法が完全に発現した。


だが、それまでにかかる時間が長すぎる。


理由はさっき聞いた通り魔力の効率が悪いことだろう。火属性が適正だというのは間違いないだろうが、無駄が多すぎて実戦で使うことはできない。


しかし、威力だけはすごい。初級魔法とは思えないほどの魔力を蓄えた大きな火の玉。たぶん中級に匹敵する程の威力を持っている。


そんなことを言っても、今使いたいのは早く使うことができる初級魔法。


初級魔法としては無駄が多すぎる魔力、それが原因で効率が悪くなっているのならそれは今は逆効果である。


「俺の何処が悪いかわかるか?」


そう聞かれる前に大体の答えは出ていたので結論を述べる。


「魔力を魔法に変換する時の効率が悪いな。それをよくすればもう少し早く撃てるようになると思うけど。」


それを聞いて祐樹は心当たりがあるのか頷く。


「そうだよな。どんなことを試してもこんな感じになってしまって。」


祐樹は少し落ち込んでいる。


「自分一人でどうこうなる話じゃないよな?」


祐樹はそう聞いてくる。


「まあ、一人じゃ無理だけどどうにかできると思うよ。」


俺も昔は魔力の制御に時間がかかったし。


「刹那、どうすれば効率が良くなるんだ?」


効率の悪さは直そうと思っても直せるものじゃない。


個別に教えてもらわなければ難しいだろう。実技がほとんどないなら尚更のこと無理だ。


「魔法の威力を抑えることはできないか?」


そう言うと、祐樹は制御している腕に力を入れる。しかし、何も変化はない。


「魔法の威力を抑えるのは無理だな。これ以上、下げると俺は魔法を使えなくなる。」


まだ、魔法の精度が低いのか。それとも、それ以外の理由があるのか。


「そうか。わかった。一旦その魔法は消してくれ。それから色々試していこう。」


「わかった。」


祐樹は魔法を消そうとするが魔法は消えていない。全身に力を入れているように見えるが火の球は徐々に大きくなっている。


「嘘だろ。魔法が消えない。」


魔法が消せない。魔法の制御ができない祐樹は魔法が強すぎる火の球を完全に扱えていない。


まずい。


祐樹は動揺している。


「今まではどうやって消していたんだ。」


もしかしたら特別なやり方しかないのかもしれないと思いそう聞いてみる。


「ちゃんとした実技の授業はなかったからいままで授業中に魔法を発現することはなかったんだ。前の実習だって魔法すら発現できなかった。でも、練習してこれくらいできるようになったから今、発現はできてるけど。」


それなら、暴走しても問題になることはない。


「なら、授業外ではどうしてたんだ?」


「授業外では練習場の壁に向かってやってた。」


練習場の壁は魔力を吸収し、そのままバトルシステムなどに送られるためすぐに魔法は消える。


しかし、今、いるのは練習場の中心。どこに撃ったとしても他の生徒に当たってしまう。


祐樹は何度も何度も魔法を消そうする。それでも消えなく、最終的に何もせずあたふたしているだけだった。


明らかに動揺している。それが消すことができない原因の一つでもある。魔法の発現慣れしてないと、集中できないと制御できないことがある。


ここままじゃ、魔法の核となるエネルギーが暴走して祐樹が大怪我を負ってしまう。


どうにかするには消すか、遠くに飛ばすか。


「少し落ち着け。落ち着いたらその魔法を人がいないところに向かって撃て。」


祐樹に近づきそう言ったが、


「もう、それもできない。」


祐樹は辛そうな声でそう呟く。


くそ。やっぱり制御ができてないのか。


かなりやばい。


俺自身もかなり焦っていたせいで良い案が出せない。


魔法を斬って破壊することも考えたが魔力が溢れ出ている為、祐樹が溢れた魔力による爆風に呑まれるのでそれはできない。


「やばい。もう無理だ。」


完全に祐樹が制御できなくなった魔法は放たれる。


俺の方に放たれれば俺がそれを斬るため問題なかったが、運が悪いことに暴走した火の玉は別の方向へと放たれる。


祐樹は疲れてその場に膝をつく。


祐樹が放った火の玉が向かう進路の先には何人かの生徒がいる。


流石に威力が高い中級魔法当たればかなりの怪我をするし、最悪の場合は死ぬ。


先生は!

と咄嗟に先生の方を見るがこっちには気づいていない。他の生徒の質問に答えているのか生徒と話中だった。


今から伝えても間に合わない。これは俺のペアのミスだ。なら俺がやるしか。


走って火の球の進行を止めに行く。


火の球の先にいるのは座学しか行っていない初心者。そもそも中級クラスの魔法を止めることができるのは中級以上を扱える者。さっきの話を聞いたことを踏まえるとこのクラスの生徒じゃ止められない。


「そこにいるやつらは逃げろ。」


そう叫ぶものの、誰も動かない。俺の方を向くが俺に注目して誰も迫り来る魔法に気づいていないようだった。


「魔法がそっちに向かってる。逃げなきゃ死ぬぞ。」


そう言って火の球を指さすと、そちらを見て、やっと火の球を確認し、やっと自分たちの置かれている状況を把握したようだった。


だが、それが逆に混乱を招く。今まで座学しかやっていなかったからか緊急時の行動ができていない。


いきなり中級クラスの魔法が自分たちに迫っていたら、恐怖で動けなくなるのは当然だ。


「何もできないなら、一つの場所に固まれ。」


一つの場所に固まれば俺が間に合わなくても全員で魔法を撃てば防げる。


半分以上の人がその場から離れることができたが、一部の人は動かない。


いや、動けないか。


恐怖で腰が抜けてしまったらしい。そいつらを助けるにはやはり完全に防ぐしかないか。


生徒から意識を離し、全て火の玉に向ける。


この速さで走れば、なんとか間に合う!


どうにか他の人に当たる前に火の球の前に立つ。そして鞘から剣を抜き、構える。


どうする。魔法を破壊するか。だが、もし火の球が強すぎて俺が押されて破壊できなかったら。


そんなことを考えるが、迷っている暇はない。


待て、ここは魔法練習場。ここの壁は魔法によって壊れることはない。


ふとそんなことを考える。


後ろを一瞬振り返って何処に人がいるかを把握する。動かなかった人はそのまま、動いた人は1箇所に集まっていて生徒のいる場所にはあまりばらつきはない。


これならなんとかなりそうだな。


「安心しろ。もう大丈夫だ。」


後ろで腰が抜けて動けなくなっている人に向けてそう言って、魔法に向き直り、魔法の中心を見つめる。


そして目の前に来た瞬間、剣を斜めに振り下ろした。


魔法を破壊すれば爆風で他の人にも影響ができるかもしれない。


だから、俺は。


剣は火の球の横を掠る。手応えはあまりない。だが成功だ。魔法は掠っただけだが、それによって軌道が大きく逸れる。そして壁に当たると火の球は音を立てずに消えていった。

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