第38話 二人の魔法

花たちは魔法の練習をしていて話しかけられないので、一度魔法を撃ち終えるまで待つ。


近くで見る由依の魔法は夕陽にも劣らない綺麗な魔法で見惚れてしまう。祐樹も由緒の魔法をじっと見ていた。


由依が魔法を撃ち終えたのを見て花に話しかける。花はこちらに気づいていないようだったので、


「ちょっといいか?」


と花の肩を叩く。


「きゃっ。」


と声を上げて少し警戒しながらこちらを向く。話しかけてきたのが刹那だと分かると、


「なんだー、刹那くんか。」


と警戒をとく。そんなやりとりを見ていた由緒はいつも通り刹那を睨み無言の圧力をかけてくる。そんな由依を気にして、変なことを言わないように心がけながら、


「すまん。驚かせたみたいだな。」


「まさか、刹那くんから仕掛けてくるなんて。」


俺を驚かすとか言ってたやつか。色んなことがあって言われるまで忘れてた。


「いや、そういうわけでは。」


「ふふん。私にはわかるよ。刹那くんもやられっぱなしじゃ嫌だもんね。」


悔しいも何も、一度も成功してないし。忘れてたし。


「いや、一度も驚かされてないんだけど。」


「いいの!やられるだけじゃ、悔しいでしょ!」


強引でも認めさせたいみたいだ。


「そういうことにしておくよ。」


刹那がそういうと勝った!とドヤ顔を見せてくる。


別に勝負はしてないけどな。


「それで?何しにきたの?」


「あー、えっと、魔力が残ってて、これから魔力を使わないとかだったら魔力贈与を俺にしてくれないか?」


と無理と言われる覚悟で聞いてみる。


「魔力贈与かー。それならいいよ。」


少しは悩んで無理って言われると思ったがすんなり許容してもらえる。


魔力をかなり消耗すると思うので余裕がなければきついと思ったのだが。


当然、断られると思っていたので一瞬何も言えなかった。


「いいのか?本当に。聞いといてなんだが、由依に魔力を渡していたからかなり魔力を消費して、もうキツイんじゃないかなって思ったんだが。」


「全然大丈夫、問題ないよ。」


花の魔力がどれだけあるかわからないが、由依に与えても余裕があるという点だけを見ても、やはりこのクラスにいる理由がわからなかった。


「ほら、ぼーっとしてないで手を出して。」


刹那は言われるがまま手を花の前に出す。そして花は嫌がるそぶりを全く見せずに手を握る。その直後、魔力が流れてくる。それはあの時と同じように全く無駄が無い完璧な魔法だった。


目をつぶり流れてくる魔力を感じる。花の魔力贈与は師匠に初めて魔法を教えてもらった時に流してもらった時のような感じがした。


「これくらいでいいかな?」


と花は刹那の手を離す。そのタイミングは丁度、刹那の魔力が溜まった瞬間だった。


「ありがとな。」


一言そう言ってから数歩前に出るとすぐに魔力を自分の腕に溜める。先程同様、生み出した氷の弾丸は細長く槍のような姿になる。


刹那ははっきりとした剣のイメージをして更に魔力を掛ける。握った剣はイメージ通りの形へと変わっていく。そして、完成するとともにまばゆい光を出して消えた。


「また、駄目か。」


そう呟いたが、実際のところはあと少しで完成すると思えるような進歩をしている感じがする。


「今の何?」


今の失敗を見ていた花は何をしていたかわからないようだった。


それもそうだ、何のために魔力を流してほしいかなんて言っていない。新しく作ろうとしている魔法のことがわかるなら、それはもはや新しく作る魔法では無く既存の魔法ということになる。


刹那は何が何だかわからないという感じの花に何をしようとしているかを教える。


「えっと、俺の新しい魔法かな?」


「新しい魔法?それってどういう意味?」


花はそう聞き返してくる。そう簡単に理解してもらえないらしい。


「この世界にはまだない新しい魔法を作ろうとしてるんだよ。」


それを聞いた華は


「冗談だよね。」


と刹那の言ったことが信じられないようだった。


「だって、新しい魔法ってことは上級魔法だよ。上級魔法は魔法を極めた者にしか使うことのできない魔法だよ。」


刹那に魔法を教えた魔法師である師匠も自ら作った魔法を使っていた。そして、その魔法が上級魔法である事も師匠から教わっている。だが、上級魔法というのは中級魔法と呼ばれるようになることもある。


その理由は簡単だ。一人しか使うことのできない固有魔法、それが上級魔法というものであり、魔法を極めた者にしか使えない魔法なのだ。新しい魔法は魔法を極めた者がその者の理解でのみ作り出したものであり、他の者にはその理解がない故にその魔法が使えないことが多い。そのため新しく作られた魔法は上級魔法と呼ばれやすいのだ。そもそも魔法の階級とはざっくりとしていて


初級.魔法の適性のある者が魔法の詠唱すること(その魔法の名を言うこと)だけで使えるような魔法


中級.魔法の理解が必要で初級のように単純ではなく、ちょっとした応用や完璧な制御が必要な高火力な魔法


上級.少数の者にしか扱うことのできないような魔法で基本的には固有の魔法


という感じだ。だから、刹那が新しく魔法を使ったとしてもすぐに誰かが使えるようになるため上級魔法と言えるのも少しの間という訳だ。


「そこまで凄いことはしようとしてる訳じゃないよ。ただ、みんなが使えるような魔法を作るだけだし。」


上級魔法とか関係なく、自分の弱点を克服したいだけだ。だから、正直上級かそうでないかはあまり興味がない。それに対して、花は何故か興奮気味だった。


「それでもだよ!」


花は刹那の方に迫ってくる。花も祐樹も新しい魔法に興味を示しすぎだ。難しいのはわかってるけど、使える魔力が少ないので、それに見合った魔法しか作れない。なので、あまり凄いことではないと思う。


「そんなに凄いことだと思うなら今度から手伝ってくれるか?」


「もちろん!」


と刹那から少し離れて笑顔でそう言った。

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