第36話 氷の剣
次の日、刹那は祐樹と共に魔法の練習をしていた。
「今日も魔力の調整を練習してくれ。それが早くできれば出来るほど速く魔法が撃てるようになる。」
「わかったよ。」
祐樹に指示を出すと、自分の練習を始める。
剣が飛ばされたときや剣が折れた時のことを考えたことがなかったがそれが起こった場合、間違いなく負ける。昨日の戦いからそれを学んだ。
昨日、発現させた氷の剣。
あれが使えるようになったらその弱点はなかったことになる。弱点を知ったこと、そして無我夢中で作り上げた氷の剣。昨日の戦いから多くのことが得られたことに間違いはない。
しかし、氷の剣は無我夢中で作ったせいでどんな風に魔力を込めたかもわからないし、それをどのようにして長時間使えるものにできるかわからない。
「課題しかないな。」
刹那は一度、氷の弾丸を発現する。それを掴むようにして持つとそこに出来るだけ多くの魔力を込める。魔力を込めたその弾丸は一度強く光ると剣に姿を変えることなく空気中に消えていった。
「やっぱり無理か。」
これで今日は終わり。何も掴めず終わった。
やはり新しい魔法を覚えることが一番難しい。初級なら1日に何回か練習できるからいいが魔力を必要とする魔法は一回で練習はできなくなる。特に今回は作り方が曖昧だし、できるかどうかもわからない。それにアドバイスなどないため失敗しやすい。
「はあー。完成するまでに何ヶ月かかるんだろうな。」
完成までの道のりを考えるとため息が出てしまう。
「どうしようか。今日はもう練習できないしな。」
刹那の練習は終わりだから自分の部屋に戻るなんてことはできる訳なく、大人しく祐樹の魔法を見る。
「祐樹。どうだ、できてるか?」
「うーん。何も変わらないってないと思うぜ。慎重に魔力を調整しちゃうから時間も変わらないし。」
そう簡単にスピードが上がるわけなく、苦戦しているようだった。やはり発現時間が長いために効率が悪くなっている。一番これに関して効率がいい特訓は…。
「祐樹。俺に魔力を流し込んでくれ。魔力贈だ。」
魔力贈与なら、魔力の調整が必須になる。
特に魔力を渡す時、蓄えられる魔力の量が極めて少ない刹那の身体は魔力を蓄えられないため細かく調整しなければならない。ついでに俺の魔法の練習もできる。
一石二鳥だ。
「やるのはいいけど、その魔法の使い方がわからない。」
あれ、教えてなかったっけ?
前にやったのは俺が使う側だったのか。
「前に俺が祐樹に魔力を流しただろ?それを俺にやるんだ。感覚的には俺に触れたところから魔力を流し込む感じだ。」
「うーん。よくわからないな。」
イマイチよくわかっていないようだったが、今の祐樹は魔力をコントロールできる。魔法を使うことで何となくわかるだろう。
「やってみればなんとかなると思うぞ。」
「わかった。やってみる。」
祐樹はそう言って俺の背中に手を当てると魔力を流そうと試みる。
「魔力贈与」
祐樹がそう呟くとともに少しずつ魔力が送り込まれる。結構長い時間をかけて少しずつ魔力が蓄えられていく。
「これでいいか?」
そう聞いてくるときには刹那の魔力は最大値まで蓄えられていた、
「ああ、初めてで発現できたことだけですごいことだ。」
「俺の魔力半分くらい使ったんだけど…。本当にこれで良かったのか?」
魔力贈与は元々効率の悪い魔法だ。正直もう少し効率がいいと思った。
初心者が使う魔力贈与がここまで効率が悪いとは思わなかった。この効率の悪さから使うやついないんだなと納得してしまう。
本当にメリットなんてどこにもない使い勝手の悪い魔法だ。
「普通の魔法でもこれだけ効率が悪いんだ、それがわかってくれたら今日はそれでいいよ。今は一回休んでいいよ。」
一回の魔力贈与で疲れた様子の休ませる。
こんなに祐樹が魔力を使ってくれたんだ。俺もやるか。
「祐樹、ちょっと見ててくれ。今俺が作ろうとしている新しい魔法の練習を。」
「新しい魔法って、本当か!?」
かなり驚いている。
新しい魔法と言っても魔力の少ない自分に適しているものを作るだけなのであまり凄いものじゃない。作っても他にもっといい魔法があるから誰も使わないし。
「まだ、全然だけどな。祐樹の魔力を少し借りてやってみる。」
刹那はもう一度集中して、腕に魔力を込める。いい感じになったところで、
「行くぞ。氷の弾丸」
それと共に魔法が発現する。その瞬間にそれを掴む。そして、発現した魔法に今ある魔力全てを流し込む。
剣が現れることを願って。
魔力を込めた魔法は先程と同じように光る。だが、そのあとはさっきとは違った。弾丸のようだった氷は伸びて長くなり剣のような姿をする。
「いけたか!」
祐樹がそう言った瞬間、同じ事を考えたがそれと同時に剣は砕け散って無くなった。
最後の一瞬で気が抜けたか?
それだけで変わるものかどうかはわからないが今のはかなり良かった。
「やっぱり無理だったか。」
剣を発現させることには成功したが、この発現時間では使い物にならない。なんなら、氷の弾丸のままの方が使える。何がいけなかったんだ。考えても使えない理由が多すぎる。
「悪い。魔力を無駄にしてしまった。」
そう謝る。
祐樹は無言だった。
「次はもっと!」
いいものを。そう言おうとすると、
「凄いな!いまの!」
と口を開いた。
祐樹が魔法の失敗に何も言えないのかと思っていたが逆に興奮していた。
「何が凄いんだ?」
正直何も凄いことはない。一瞬で帰る魔法など使えても意味がないのだから。だが、祐樹の考えは違った。
「だってあんな剣を作る魔法なんて知らないからなー。」
「あんなのまだ全然使い物にならないぞ。」
「それでもだよ。あれより凄いものが作れるならこれからも協力してもいいか?魔力贈与は俺の特訓にもなるし。」
そんなこと願ったりかなったりだ。
「ああ、頼む。」
こうして、刹那は本格的に祐樹と共に魔法の練習を始めた。
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