第35話 二人きりの時間

「僕の負けだ。」


そう言って勇者は降参した。刹那が言おうとしていたことを言われた。


勇者が降参する理由なんてないのに、どうして降参するのか。


それが気になって刹那は勇者との距離を取りながら


「どうして、降参したんだ。途中で魔法が消えただろ。あれなら、どうにかできたんじゃないか?」


と聞いてみる。


「いや、あそこまでされたら負けを認めざるを得ない。それに、わざと魔法を消したんじゃないか?」


どうやら、最後は刹那の意図で寸止めにしたと思っているのか。いつも邪神と戦っているからか、やるなら、本気で倒しに行こうと思っていたから寸止めなんて考えてなかった。それに頭に血が上ってマジで戦闘不能にさせるつもりだった。手加減なしでって言ってたのはどっちだよと突っ込みたくなるが堪える。


「そうか。なら、この勝負俺の勝ちでいいよな?」


剣を鞘に収めてながらそう聞いて、


「ああ、勿論。」


という返事を聞いて鞄のあるところまで歩いていく。鞄からスマホを手に取り、時間を確認する。


「やば、もうこんな時間かよ。」


時計を見ると時計は夕陽との約束の時間を指していた。刹那は荷物を全て持つと勇者に


「じゃあ、もう用事があるんだ。」


と一言言ってすぐに廊下に出る。


練習場から出る前に勇者が近くまで来ていたが用事なんてなかったよな。いや、なかった。


と自分に言い聞かせながら廊下を駆け抜けた。


何分か過ぎていたが約束の場所(食堂)で夕陽は待っていてくれた。


「すまん。色々あって遅れた。」


息を切らしながら謝る。


「その姿を見たらわざとじゃないくらいわかるよ。そんなことより、お腹空いちゃったから早く行こ!」


と先に歩いていく。待っていてくれた夕陽に感謝しながら俺もそれについて行く。


刹那たちは夜ご飯を食べ終え、いつも通り会話を始める。あの襲撃から5日間、刹那たちはお互いの怪我のことを気遣って一緒に食べることなくスマホでのやり取りだけにしていた。だから、何から話そうか少し悩む。そして、先に話題を切り出したのは夕陽だった。


「そういえば、腕の怪我はどうなったの?」


お互いに気遣って合わなかったんだそれは知りたい。その思いは一緒だった。


「治ったかな。と言ってもまだ少し腕に違和感が残っているけど。」


勇者との勝負でもなるべく左腕は使わないように意識したからな。


そう言った点では手加減したのか?


でも、あれが今の全力だったからな手加減はしてない。


うん。


今回は勝ったからどうでもいいか。


そんな風に一人、意味のないことを考えている間、夕陽は目を丸くして驚いていた。


「えっ?本当に?」


「ああ、昔から怪我の治りが早くてな。」


「そういう問題ではないでしょ。」


そういう体質なのは事実だが、やっぱり信じてもらえないようだった。ってか、怪我の治りが早いから色々な場所で続けて邪神と戦っているのだが。


「どんな理由でも治ったんだからいいだろ。それよりも夕陽の足の怪我はどうなんだよ。」


「怪我の跡はまだ残ってるけど日常生活はもう普通に送れてるよ。」


それを聞いてホッとする。刹那が遅れたせいで負わせてしまった怪我だ。大切な時にもう遅れたくない。


「そっか。なら、よかった。」


それを聞いた夕陽は嬉しそうにしていた。


「そういえば、一つ聞きたいことがあるんだがいいか?」


「何かな?」


「なんで、あれほどの実力を持ちながら遠征部隊に呼ばれなかったんだ?邪神と戦っていたときの夕陽は間違いなく3年生と同じくらいの実力を持っていた。」


「えっと…。」


夕陽は理由をいい辛そうに黙り込む。


そして、「よし」っと決意を固めて理由を話し始めた。


「本当はね、行くことになってたんだ。でもその部隊に刹那くんは呼ばれてなかった。刹那くんが選ばれてないなら私にはその部隊に入る資格はない。そう思ったから辞退したんだ…。」


また俺のせいか。


本当に夕陽に迷惑しかかけてないみたいだ。


「そっか。」


夕陽が一人で決めたことであり、刹那がそのことに文句を言うことはできない。


俺のことなんて気にしなくて良かったのに。なんて言えない。


「まあ、別に後悔はしてないからいいんだ。今回のでわかったから。まだまだ私は半人前で刹那くんの足元にも及ばないって。」


「そんなことない。夕陽はすごいよ。」


「うんん。まだまだ。」


夕陽は首を横に振って否定する。


良くやったと思う。夕陽がいなきゃ、後輩の少女、みゆを助けられなかった。


「そんなに自分の実力を下に見ない方がいいよ。本当にすごいんだから。」


「わかってる。」


「ならいいや。」


刹那はそれ以上何も言わなかった。


「刹那くんの質問に一つ答えたから私も質問してもいい?」


「なんだ?」


「私も刹那くんみたいになれると思う?」


「無理だな。俺は剣を使えるだけの魔法師だから。」


刹那がそう返すと、違う違うと速攻否定してくる。


「そうじゃなくて、みんなを助けられる魔法使いみたいになれるかなってこと。」


「あー、なれるよ。夕陽なら。」


だって、もうみゆや俺を助けることができているのだから。


「ありがと。勇気出てきたよ。」


こんなのでよかったのか。


「遅くなっちゃったし今日は解散だね。」


「だな。」


刹那達はそう言って立ち上がって学食から出る。


外で一言、


「また、明日な。」


「うん。また明日。」


と言って自分たちの部屋へと歩いていった。

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