第33話 勇者

校長に5日前のことを刹那が知る限り全て話した。


突然、邪神が現れたこと。


刹那が戦っただけでも中級邪神が2体いたこと。


ゲートを破壊したこと。


「なるほど。中級邪神が2体もいたのか。君がいなければこの学園は本当に終わっていたみたいだね。君に言わなかったことが吉と出たようだ。」


その点に関しての意見は同感だった。


正直、遠征について話がちゃんとあったら刹那はそっちに行っていたし、今回何度も苦戦を強いられたものの誰も犠牲者は出なかった。一人でどうにかできたのは経験があったからだ。


校長の判断は正しかった。


そう言わざるを得ない。


「強さ的には普通の中級よりも少し強かったというくらいでした。ですが数が多かったこと、そして他の人を守りながらという点でピンチでした。多くの人たちが俺を助けてくれたから乗り越えられたんですよ。」


「そうか全員が成長できたのか。そういう点を見るとこの襲撃は悪いことだけじゃなかったみたいだね。」


全員無事だったから言えることだが刹那としても祐樹の成長が促進されて嬉しい一面もあるのだ。


だからといって、もう一度来てほしいわけではないし、そんなの結果論だ。事前にどうにかできた可能性は大いにある。


「悪いことの方が多かったと思いますがね…。」


と苦笑いしながら答える。


「そうかもね。さて、そろそろ時間だ。邪神の襲撃の話はこれで終わりにしようか。」


帰れる、そう思って刹那は椅子から立ち上がろうとする。


「まだ、座っていてくれ。もう一つ話したいことがあるんだ。」


まだ何かあるらしく、引き止められ渋々座り直す。


「それで、もう一つの用件っていうのはなんですか?」


そんな質問をするが、校長は刹那の方を見ずにドアの方をじっと見て、


「それは彼が入ってくればわかるよ。さあ、入ってきていいよ。」


校長がそういうとドアが開き、同い年かその前後くらいの一人の男が入ってくる。男は校長の横まで歩いて行って止まると校長に一礼してから、刹那の方を向く。


「えっと、彼は?」


学園ではもちろん、戦場でも見たことない知らない人だったため校長が何を話そうとしているかわからない。校長の説明待ちをしていると、男が口を開く。


「僕は一ノ瀬 かなで。勇者だ。」


その一言は予想外すぎた。目の前にいる人が勇者なんて誰も想像していなかったから。


「勇者。」


思わず呟いてしまう。


魔力無限回路を持つ人類最強の魔法師になる者。


それが勇者だ。


だが、魔力無限回路なんて作ることのできない空想上の存在だったはずだ。そのため当然勇者は存在することなんてあり得ないとされていた。


それが今、目の前にいる。


刹那はそのことが信じられなかった。


「本当に魔力無限回路を持つ勇者なのか。」


思わず刹那は失礼すぎる質問をしてしまう。その質問には勇者ではなく、校長が答える。


「本物だよ。魔力無限回路は最近完成したんだ。」


俺の知らない間にその実験は完成され、最終段階をクリアしたということか。


となると、邪神に対抗できる軍隊として勇者は増えていくだろう。


そうすれば邪神の被害がゼロになる日も早く、くるだろうな。


そんなことを考えたが現実はそう甘くなかった。


「しかし、今回勇者として完成したのは彼だけだった。回路があっても適正者がいなければ意味ないらしい。」


どうやら、そう簡単に最強の軍隊は作れないらしい。


「そうですか。」


だが、それでも勇者が誕生しただけでも凄いことなのだ。それだけでも未来は明るくなりかけていると思えるだろう。


「学園には今日から転校なんですか?」


多くの疑問が湧いてくるので一つずつ聞いていく。


「今日からだけど正確には5日前からだね。5日前は遠征部隊に所属させていたんだよ。」


そうなのか。5日前にいてくれれば楽だったのになどと思ったが、それに関してはやはりそちらに同行させていたか。


「でもなんで勇者のことを俺に話したんですか?」


「彼が君に会いたいと言ったからさ。」


校長がそういうと勇者は刹那に話しかけてくる。


「君が邪を斬る者だね。」


邪を斬る者か。


よく知っているな。


邪を斬る者は刹那が邪神と戦いまくっていた時に付けられた唯一邪神が斬れるということからついた嫌味のような二つ名。


昔は嫌だったが、言われ慣れたせいで今では普通に名乗っているが。


それでも一度共に戦った人しか知らない名前だ。どうして知っているのか。


「なんでその名を知っているかはわからないが、俺が邪を斬る者、黒崎 刹那だ。」


勇者はそういいながら前までくると、


「魔力をほとんど持たないのに邪神と戦える唯一の存在。そんな君に会いたかったんだ。」


と微笑みながらそう言う。


勇者も唯一の存在だからだろう。同じ唯一の存在として興味があった。


俺よりも勇者様の方が数千倍強いのだろうけど。


「そうか。なら用は済んだみたいだな。」


そう言って立ち去ろうとすると、


「いや、まだだよ。今回は君の実力を知りたくてね、僕と戦って欲しいんだ。」


とまた引き止められる。


いきなり切り出されたその言葉に一瞬だけ悩んだが、勇者の実力は知りたいと言う思いから、


「いいだろ。受けてたとうじゃないか。」


と立ち上がった。

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