勇者転校編

第32話 呼び出し

あの戦いから5日たち、今まで通りの学園生活へと戻った。


怪我人は少し出たものの、死んだものはいなく、誰かが悲しむような結果にならなかったことが幸いだった。


学園の破壊された場所は立ち入り禁止となったため完全に今まで通りにには戻らなかったものの、普通の座学が受けられなくなっただけでその授業の代わりに広い練習場やバトルシステムを使った授業を増やすことでなんとかその穴を埋めていた。


ここからは夕陽に聞いた話だが、遠征部隊に関してはあまり大変なことはなく、ただ数が多かっただけで、それも普段から邪神と戦っている本職が魔法使いの人達によって簡単に倒されたらしい。


予想通り、学園へと戻る帰り道に邪神が襲いかかってきたらしいが、強そうなやつ、中級邪神は何体か倒していたため、そこにも強敵はおらず問題なく殲滅して被害を出さずに帰ってきたらしい。


その後、学園に帰ってくると遠征に出る前とは違い多くの場所が破壊されていたため学園で何があったか聞かれたらしい。


だが、未だに刹那に聞きにくるものはいない。


そして今、刹那は祐樹と共に練習場の隅で魔法の特訓をしていた。


あの日以降、祐樹の成長は今までの比ではなく、魔力を調整することまでを簡単にできるようになっている。まだ、効率のいい魔法は撃てないがすぐに俺よりも上手く撃てるようになるだろう。


「なかなかいい感じだ。これなら自分の魔法で暴走することはないだろ。」


「ああ、自分が思った通りに魔法が当たるなんて嘘みたいだけどな。」


祐樹は汗を吹きながら返事をする。まだ、余裕がありそうな祐樹に尋ねる。


「もう一度いけるか。」


そう聞くと魔法が撃てるようになりやる気に満ち溢れている祐樹は


「余裕だぜ!」


とガッツポーズをとる。


そんな時、


「刹那くん!先生が読んでるよー。」


っと華の声がする。


「すまん。なんか呼ばれたみたいだから一人で練習して待っててくれ。」


申し訳なさそうに言うと


「わかったよ。早めに終わらせてきてくれよな。」


「勿論だ。」


先生と長話もしたくないので、早く帰ってくるだろう。


「また、後でな。」


そう言って小走りをしながら、何か悪いことをしたわけではないので多分5日前のことだろうと予想しながら先生の元へ向かった。


先生の前に行くとすぐに先生は刹那に話しかけてくる。


「遅くなりましたが、刹那くんに今日の放課後、校長室に来てくださいと校長からの連絡がありました。行けますか?」


「用事はないので行けますが、なんの話か聞いてますか?」


「特には聞いてませんが5日前の話だと思いますよ。」


やはりその話だろうな。俺自身もあの人には色々、聞きたいことがあったしいい機会だ。


「わかりました。連絡ありがとうございます。」


刹那は言われた通り校長室へ向かった。


「失礼します。」


と言って扉を開けると初日と同じように校長が座っている。


校長の前まで歩いていき、


「そこに座っていいよ。」


と言われたので椅子に座った。


「さて、今回のこと、邪神襲撃の件を聞いていこうかな。」


前回同様笑顔で話を切り出す校長。そんな校長に刹那は全てを話す前に聞きたいことがあった。


「それを話すのはいいんですが、その前に一ついいですか?」


「いいよ。」


笑顔を保ちながら失礼な事を言っても二つ返事でそれを了承してくれる。


「なぜ俺を遠征部隊に呼ばなかったのですか?」


刹那のことを知っているなら刹那を送り出すはずだ。しかし、それをせず何も言ってこなかった。そこがずっと引っかかっていた。


「少しでも戦力を送りたいあの状況で戦場慣れをしている俺を送らないということにどうもおかしいような気がしたんですよね。」


そのことかと頷き、校長は理由をはなす。


「こんな情報が流れてね。この学園に邪神が現れると。僕は信じられなかった。でも万が一のことがあったらと思ってね。君を残した。君の実力ならそれが起きたとしても対応してくれると思ったからね。」


「それは俺の実力を信じすぎてはないですかね。」


「君の実力は中級を倒せるほどだと聞いているからね。そこは問題なかった。そもそも今回の遠征は、早めに生徒たちに実戦を体験して欲しかったというのが本音でね、この学園で最も強い魔法使いは生徒会だ。生徒会が遠征に参加しなかったらうちの生徒は誰も行かないだろう。だから、この学園に中級を倒せる実力者はいなくなる。だが、僕に流れてきた情報はここにくるということだった。念のために学園に誰かを残しておきたかったが生徒会以外では中級が現れた時に対処できない。この学園にいる人間で中級を倒せるもの、それは君しかいなかったわけだ。」


「信じているのではなく、消去法だったと言うわけですか。」


「そんな感じかな。」


この人何者なんだ。


ここに来るという情報は刹那と数人しか知らない。まず、どうして知っていたのかそれは今回の最大の謎だ。


俺が頭の中で少し予想を立てていると、


「君を残したお陰で被害も少なくて済んだんだ。もうこれ以上話すことはないだろう?」


とこの話を終わらせる流れに持っていこうとする。


そこには得体の知れない圧力がかかっていた。


これ以上の詮索はまずいと判断して、本来ここに呼ばれた理由。


5日前の話をすることに決めた。

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