第31話 感謝
刹那が空を見上げながら倒れていると夕陽が後輩の少女に肩を借りながら刹那の前まで駆け足で走ってくる。
刹那の前に立つ夕陽は心配そうに顔をのぞいてくる。
「怪我大丈夫?」
「大丈夫かな。ギリギリだけど。」
正直言って片腕は動かないだけでそれほど大したことはない。動けないと言っても少し休めば何とかなるくらいだ。
「ちょっと休んでから行こうぜ。今ここで休んでも邪神が来る訳でもないんだ。」
俺が何気なく言ったその言葉にまゆたちは
「ほ、本当に来ないんですか?」
と心配そうに聞いてくる。
「さっきのゲートが邪神が出てくるところだ。つまり、さのゲートがなくなったってことは?」
自分たちでちゃんと理解して欲しくて少女に問いかける。
「えっと、帰れなくなった?」
「正解。あいつらは帰り道を失ったってことだ。帰り道を失った邪神どもは帰るために今、ちょうど開いてる討伐部隊がいる場所にある別のゲートを探しに行くだろ。だから、もうここには来ない。」
そう説明してもまだ半信半疑なようで心配そうにもう一度訪ねてくる。
「本当に、もう私たちは大丈夫なんですか?」
そんな二人に夕陽が不安を消し去るように
「刹那くんが大丈夫って言ってるんだから大丈夫だよ。」
と言った。
更に安心してもらえるように続く。
「ああ、それに最悪、雑魚が来ても俺がなんとかするよ。だからもう大丈夫だ。」
「そうですか。よかったー。」
刹那の言葉を聞いて、少女は安心して腰が抜け、尻もちをついた。夕陽も隣に来て座り込む。
夕陽は体育座りをして空を見上げる。そんな姿を見て、何処か懐かしさを感じる。
何故だろう。
あまり面と向かって言うことのない言葉に恥ずかしさを隠しながら、
「ありがとな。」
と呟いた。
それを聞いて、夕陽はこちらを向いて
「私の方こそ、ありがとう。」
と目を見て言ってくる。
それに続くように、
「ありがとうございます。」
と少女も感謝を述べる。
面と向かって言われたその言葉に戦ってよかったと思えた。
動けない中で破壊された天井から見える空を見て、清々しい気持ちになった。
もう大丈夫だ。
それから数分休んで歩けるまで回復した刹那たちはみんなのいるところへ向かった。
刹那たちは邪神によって破壊された学園を見ながら特別シェルターの前までたどり着いた。シェルターまでの道のりに邪神が現れることはなく、戦いが終わったことを更に感じさせてくれた。
シェルターの前まで来て、足を止める。シェルターを攻撃されたであろう痕跡は残っていたが壊されている部分はない。扉を開けた瞬間、生存者が誰もいないなんてなったらと思うと背筋が凍る。
「ここにみんながいるはずだ。」
全員無事でいてくれと願いながら扉を開けた。すると、扉の先にはちゃんと多くの人がいた。
中にいた全ての人に注目される。
みんなが無事であることにほっとしながら祐樹を探す。
そうしている間、誰も何も話さず黙っている。
祐樹が見つけると同時に何処からか、
「みゆ?」
と言う声が聞こえてくる。
一旦祐樹の方を見るのをやめその声の方を見ると一人の少女が歩いてくる。
「あーちゃん?」
後ろにいた少女がそう言った。
「無事だったんだね。」
とあーちゃんと呼ばれる少女はみゆに向かって抱きつく。
「うん!ここにいる夕陽先輩と刹那先輩が助けてくれたから。あーちゃんも無事だったんだね。」
少女もさっきまでとは違いパーっと笑顔になる。
「ここの部屋にいるみんなと一緒に逃げたから平気だったよ。」
「そうだったんだ。」
あーちゃんと呼ばれている少女は刹那の前に立つ。
「あの、みゆのこと、それに私のことを助けてくれてありがとうございます。」
そう言うと部屋の中央へと歩いて行った。
「なんで、刹那先輩に助けられたってどう言うことなの?ちゃんと教えてよー。」
「そっちもねー。」
小さな声でそんなことを話しながら後ろを追いかけるように後輩の二人も部屋の中央へと歩いて行った。
それを見てよかったなっと思っていると刹那の前にここまでくるのに指揮をとっていた奴が来る。
刹那は少々緩んだ顔を戻す。
男は目の前に立って、
「俺は今でもお前のことを認めてないし、信頼もしていない。俺たちは一番安全だと判断したことをやったまでだ。」
と言い放った。
いきなりなんだ?と思ったがその後も話を続ける。
「でも、その中で俺は最弱のお前に救われた。それだけはいくら最弱と言えども感謝しなければならない。」
最初っからそう言えばいいのに。
こいつプライドな高いだけでただの真面目な奴なだけみたいだな。
ツンデレか?
脳内で少しふざけていると、
「ありがとうな。」
男は刹那に対してお礼を言い、頭を下げた。
「そんなのいいよ。俺は最弱だ。それは変わらない。だから、認めてもらわなくてもいい。それに俺が提案したことで被害者が出ることだけは避けたかったって言う自己満だ。感謝されるようなことはしてないよ。」
それを聞いた男は、少しだけ笑い
「まあ、俺は勝手に感謝しとくよ。あと俺の名前は高坂 晴矢だ。名前だけでも覚えとけ。」
そう言って、部屋の奥に戻っていった。
周りにいた奴らも刹那に一礼してから、元にいた場所に戻っていった。
それが終わると裕樹が刹那の前にきた。
祐樹に怪我がバレないように咄嗟に左手を隠しす。
裕樹は刹那に近寄り、笑顔になる。
「やっぱり、刹那。お前はすげーよ。全員を本当に守り抜いたんだからよ。」
誇らしそうに祐樹はそう言う。
「俺だけの力じゃないよ。みんなが力を合わせたからさ。最後だって、そうだ。あそこで魔法を撃ってくれなければ俺たちはここに来れなかった。」
「今回はそう言うことにしとくぜ。」
「裕樹もありがとな。」
「当然のことだよ。」
裕樹はにかっと笑う。
「じゃ、俺は邪魔みたいだから他のところに行っておくよ。」
「何のことだ!」
そう言って引き止めようとするが無視して歩いて行った。
華は刹那の隣に来て、耳元で
「ありがと。」
と呟くと、もじもじ顔を赤らめながら駆け足で由緒の元へ向かった。
由緒は刹那を睨み、フンと顔を晒すとそのまま華と共に人の中へ消えて行った。
残った夕陽を見て苦笑いする。
そんな刹那を見て夕陽はクスクスと笑う。
「みんないい人みたいだね。」
「悪い奴ではない。だから、守れてよかったと思ってる。」
「そっか。お疲れ様。」
夕陽がそう言った時、やっと本当の意味で肩の荷が降りた。
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