第28話 夕陽と刹那
邪神を一通り倒し終え、刹那は夕陽の元へ向かった。
夕陽の周りにいた邪神は全て刹那の元に来ていたらしく夕陽は中級邪神にやられたところ以外に傷はなかった。
「遅くなって、ごめんな。」
「ううん。謝らないで。刹那くんには感謝しかないから。」
「俺は感謝されることは何もやってない。」
間に合わなかった。毎回、それで後悔する。
俺は魔法師。邪神から人を助ける存在。
今回はそれができなかった。だから、感謝されることではなく謝罪すべきことなのに。
夕陽は何を考えているんだ。
「刹那くんにここを教えていないのにここに来てくれた。それで私を助けてくれた。本当にありがとう。」
微笑みながらそう言う夕陽の姿を前にも一度見たことがあった。今よりも何年か前、一人で戦い続けていた時、一人の少女が邪神に襲われそうになっているのを助けた時。
その時も言ったんだ、
「ごめん。」
と。
その時はそのまま、走りだしたんだっけ。少女に何もしてあげられなかったから。
俺は邪神を倒すことしかできない。
恐怖を取り除くことも周りに倒れていた少女の両親だと思われた人を治すことも。だから逃げるように走り出した。でも、その瞬間、少女は言ったんだ。
「ありがとう。」
って。その時、振り返り見たそ少女の笑顔は忘れるわけなかった。絶望したような顔ではなく何かに希望を見出したような笑顔だったから。
「あの日の少女は夕陽だったのか。」
その一言が意外だったのか夕陽は目を見開く。
「あの日のことを覚えてるの?」
「あまり邪神と戦ったときのことは覚えてないんだけど、あの日、夕陽を助けた時は印象に残ってたから。」
やはり、あの日の少女は夕陽だったか。だから、俺のことを最後まで最弱だと言わないで、嫌な顔ひとつせずに助けてくれてのか。
「そっか。」
夕陽の顔は真顔にしようとしているのにどこか頰が緩んでいる。それを気にしてか顔をこちらに向けてこない。
「これからもまた、助けてくれる?」
夕陽は刹那の方を見ないように反対を向いて顔を隠しながらそう聞いてくる。
「助けてもらってるのはこっちの方だけど、いつだって助けてやるよ。今度は怪我すらしないようにな。」
「ありがと。」
「まあ、今度なんてない方がいいけどな。」
そう言いながらしゃがみ込む。
「さて、行くぞ。背中に乗れ。」
「えっ、恥ずかしいからいいよ。」
「いや、その怪我じゃ、動けないだろ。それにここには誰もいないから大丈夫だよ。」
そう言うと夕陽は渋々刹那の背中に乗る。
「じゃあ、歩くけど足が痛かったらすぐに言ってくれよ。」
そう言って立ち上がると夕陽を乗せて歩き出した。
しばらく歩いていると練習場の入り口にたどり着く。
すると、少女が刹那の前に出てくる。それを見た夕陽は背中を軽く叩いてくる。
「誰もいないって言ったじゃん。」
「いないって言わなきゃ乗らないだろ。」
「そうだけど!」
夕陽のことで頭がいっぱいで忘れてたなんて言えないからなー。夕陽もなんか恥ずかしそうだし下ろしてあげるか。この後も戦うかもしれないし、夕陽の手助けを少女に頼めばいいだけだ。
「じゃあ、降ろすぞ。」
「えっ。うん。」
残念そうに頷いた夕陽を降ろすと、少女は不安そうにしていたが、
「夕陽先輩、刹那先輩、ありがとうございます。」
と頭を下げた。
「みんな無事だったってことだけで俺が来た意味はあったんだ。君に怪我がなくてよかったよ。」
「いえ、私のことなんて別にどうでもいいですよ。夕陽先輩と刹那先輩が私を助けてくれたから。」
そう言って頭を上げようとしない。
「もういいから、ここも安全ってわけじゃないから、早く行くぞ。」
「あっ、はい!」
「待って、刹那くん。」
「夕陽のこと、頼んだぞ。」
「はい!」
元気よく返事をした二人を見て、刹那はまた、剣を持って歩き出す。それを追いかけるように夕陽と少女も歩き出した。
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