第29話 分身

刹那は二人を連れて来た道を戻っていた。


邪神の襲撃に何度かあったものの、特に強い邪神がでることもなく楽に倒すことができた。


「あと、少しでも着くけど気を抜くなよ。」


周りを警戒しながらそう警告する。


後ろの二人は刹那を気遣ってかさっきから何も話して来ないのでどんな感じかわからない。


この状況で気を抜くはずはないが念のためだ。


「わかりました。」


声は小さいがはっきりとそう言ってくれたことに安心する。


そのまま廊下を駆け抜けようとした瞬間、大きな魔力が伝わってくる。刹那は走ることをやめてその場で立ち止まるり二人の方に振り返る。


夕陽もその魔力を感じたのか、


「刹那くん。」


と名前を呼び、刹那のことをじっと見てくる。もう一人の少女は新入生ということもあり全く魔力を感じていないようで、さっきと変わらない。


夕陽に近づいて今のことについて話す。


「夕陽も感じたみたいだな。」


「うん。刹那くんならわかってると思うけどこの上の方から大きな魔力を感じる。」


「ああ、中級以上の邪神がもつ魔力だ。」


まずいかもしれない。中級邪神がもう一体。二人を守りながら戦えるのか。


「しかも、さっきの邪神とは少し違う感じ。」


さっきの邪神はほんの少しだけ、人に近い魔力を持っていた。今回のは純粋な邪神のものなのだが、何処か普通とは違う。


そう二人で話していると、


「どうしたんですか?」


さっきまで走ってシェルターを目指していた刹那たちがいきなり止まって真剣に話しはじめたことに不安を感じた少女は何が起きたか聞いてくる。


だが、それを話す前に


「一回後ろに下がれ!」


と叫び少女を押し倒す。少女は何が起きたか全く理解できずそのまま黙って押し倒される。


すると、頭上から大きな何かが落ちて来る。大きな衝撃とともに壁などの破片が飛んでくる。その破片が何個か背中にあたるが大きな怪我になるようなものはなく無事だった。


「大丈夫か。」


刹那は少女を見てそう聞くと


「えっ、はい。」


と返ってくる。動揺していたが問題なさそうだった。


「夕陽も大丈夫か。」


夕陽を見てそう聞くと、なんとか間に合ったみたいで、


「大丈夫だよ。」


と返事が返ってくる。


見た感じ誰も怪我していないみたいだった。


そのまま立ち上がり、落ちて来たものの方に振り返って剣を構える。


「二体出現してたか。」


予想していた通り、そこには中級邪神がいた。その邪神は羽はなく身体付きはがっしりしている対陸に特化した邪神のようだった。規模からいってこれ以上中級邪神が来ることはない。


「ならお前をやれば安心して雑魚狩りができるわけだ。」


そんなこと呟いていると中級邪神は刹那の様子を伺うこともなく速攻をきめようと飛び込んでくる。


「危ないから下がってくれ。」


そう言って手首を狙って軽く剣を振る。攻撃を入れようとした手がやられて攻撃をうまく入れることができなかった邪神はすぐに反転して、もう片方の腕を振り上げる。


「初級魔法。光の爆弾。」


しかし、それと同時に背中に夕陽が発現した魔法を浴びて体勢を崩す。


「弱いな。」


そう呟いて剣を両手で握って邪神の腹に突き刺す。切り裂かれた邪神は何もせずに地面に倒れこんだ。


たしかに今のやつに異様な魔力を感じた。その魔力も消えたがそれよりも大きな魔力がまだ消えていない。それに中級邪神のもうレベルの魔力を感じたのにあっさり倒してしまったことに違和感を覚える。


それでも倒したのならもう復活することもない。そう思って邪神の消失を待つ。辺りを警戒して見渡しているといつのまにか邪神は消失していた。邪神が完全に消えたことではっきりとした。


「夕陽、高火力の魔法を今邪神が落ちて来た方向へ放ってくれ。」


「わかった。ちょっと待っててね。」


そう返事して魔法を構築し始める。光の粒が集まって高エネルギー体が生み出されていく。そして、


「行くよ!中級魔法。光の砲撃。」


斜め上へと蓄積された光は一つの線を描いて突き進んでいき廊下の天井を破壊して行く。そして、空が見える。


そこには人間の世界と邪神のくる世界を繋げると言われているゲートとそれを囲むように無数の邪神があった。ゲートを守るように存在する邪神の中に先ほど感じていた魔力の存在がある。そこにいたのがさっき現れた邪神の羽がある邪神。


やはり、あれは分身の魔法か。


分身の魔法は普通、実体を持たない。その理由は自分と同じものを作り出すのには自分と同じだけの魔力が必要になるからだ。だが、空にいる奴は羽など細かいところをなくすことでそれを可能にした。魔力に違和感があったのはあいつ自身でなく魔力だったからということだ。


ゲート付近であったため、ちゃんとした魔力を把握できていなかった。今でもちゃんと把握できていない。


それでも、あいつはヤバい。あの分身と魔力を感じただけでそれは伝わってくる。


しかも飛んでいるため刹那一人では何もできない。


夕陽と目を合わせる。


「夕陽。あいつを倒すの手伝ってくれ。」


怪我人に手伝ってもらうのは少し気が引けるが今はそんなこと言ってられない。


「ここからでよければだけど。勿論だよ。」


「頼む。」


あれ以降、連戦だったとはいえ激戦はなかったため刹那の体力もそこそこ回復していた。これが終わればゲートも破壊できるためこの戦いを終わらせることができる。


「さあ、行くぞ。」

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