第19話 魔法師として
刹那は祐樹の元へ向かう。
今は邪神を倒すことは考えなくていい。早く祐樹たちのの安否を確認しなければならない。
隣の教室のドアは閉められ、その前に下級邪神が二体ほどいて、二体の邪神はドアを破壊しようとしている。破壊されるのも時間の問題だろう。
まずはここにいる邪神を倒す。その部屋の中に祐樹たちがいるかもしれない。いなかったらその後、次のことを考えるか。
「ドアなんか叩いてないで、来いよ。」
近くの壁を思いっきり殴る。邪神はその音に反応して、刹那を倒そうと襲いかかってくる。
大きな爪で切り裂こうとするが、一度バックステップで避け前傾姿勢をとり、前進する。そして、邪神の懐に入る。隙だらけの邪神に対して剣を水平に振り、そのまま邪神の腹を斬る。
剣なら確実に仕留められる。やはり剣の方がいい。
もう一体が刹那の横から攻撃をしてくる。腰から鞘を抜き取り、鞘で邪神の顔を殴る。そして、邪神の胸に剣を刺した。そのまま、剣を払って邪神を飛ばす。吹き飛んだ邪神は地面に倒れると動かなくなった。
邪神を倒したことを遠目で確認してドアの前に向かう。そして、ボロボロになったドアをノックする。
「俺は刹那だ。開けてくれ。」
そう言うとドアが少し開く。そこから祐樹が少しだけ顔を出した。警戒しているようで周囲を見渡す。
「刹那か。良かった。倒したのか。」
「勿論、倒したよ。まだ、邪神は大量にいるけど。」
「そうか。そこは危ないから早く入れよ。」
祐樹はそう言って俺が入れるくらいドアを開ける。祐樹のお陰ですんなり入ることが出来た。
「とりあえず、周りにいた邪神は三体倒した。」
「三体も倒せたのか!?」
普通驚くよな。魔法が三発しか撃てないのに三体倒したなんて、嘘に近いもんな。
「運が良かったからな。」
誤魔化せてはいないだろうが、今は魔法でではないが邪神を倒した事実を受け入れてもらうしかない。
教室を見渡すと他のクラスの人も集まっていた。今はここが避難場所なんだろう。ちゃんと花と由依の姿もある。無事だったようだ。しかし、ここに夕陽の姿はない。
夕陽はBクラスなので部隊に呼ばれてたと考えるしかない。夕陽は思っていた以上に結構な優秀な魔法使いだったのかもしれない。ここを乗り切ったら、今度聞いてみよう。
「これからどうする?」
祐樹は不安そうに聞いてくる。ここがもう持たないことはもう分かっているのだろう。
「取り敢えずここから、出て安全な場所に行くしかない。」
外には軽く十を超える邪神がいる。流石に残された生徒だけでなんとかなるようなものじゃない。状況は最悪だ。
それにしてもやはりここだったか。
俺のこの学園に来た一番の理由。それはここが外気の魔力の歪みが大きく次の邪神の出現ポイントとなり得る最も有力な場所だと言う話が出ていたからだ。
だが、この学園に部外者は入れない。そのためこの学園の生徒になるしかない。強い魔法使いが多くいても、実戦経験がないとどうなるかはわからない。そのため、刹那がこの学園に来たわけだ。
本来なら学園の先生たちでどうにかできると思っていたので念のために来ただけだが、こんなことになるとは思わなかった。
だが、どうしてこんなことになったかわからない。同時に大規模な邪神の襲撃があったことは過去にほとんどなかった。あったとすれば最初、魔法が使えなかった時だけ。邪神に変化が起きている。その可能性がある。
「ここから逃げるにも外の邪神をどうにかしなきゃいけないしな。」
「刹那くん。大丈夫だったんだね。」
どうしようかと悩んでいると花が話しかけてくる。
「俺は見ての通り大丈夫だよ。花は大丈夫か?」
「突然、祐樹くんに『ここから出るな!』って言われちゃって、驚いたけど、ここに留まってたら全然平気だったよ。」
祐樹はちゃんと言ったこと守ってくれただな。逃げないでここに留まったっていう点も良かったと思う。
「刹那に言われたから、言っただけだ。今の俺にはお前に言われたこれしかできないしな。」
「これだけできれば十分だ。」
今のところ知っている限りでは被害ゼロ。これは間違いなく祐樹のお陰だ。このまま、安全な場所に移動できればなんとかなりそうだ。
「さて、もうここにはいることができないと思うし、別の場所に移動しようか。」
「何処に行くんだ?」
「何処にも、逃げ場なんてない。闇雲に動いても被害が出るだけ。」
花の後ろにいた由依が突然そう言う。
「由依。そんな事言わないの。刹那くんも真剣に考えてくれているんだから。」
由依は花に怒られ、刹那のことを睨んでくる。
由依が言っていることは正しい。由依の発言は花のことを考えての発言だが、今、一番大事なのは安全性なので間違った事はない。
ここのドアもすぐに破壊される。
「そうだけど、ここにいてもすぐにドアは破壊され被害が出る。なら、安全な場所に移動するほうがいいと思う。」
由依の言った通り、何処にも逃げ場はない。
いや、待て。最初の日に迷った時に見つけた頑丈な部屋。確か、あそこは特別シェルターだった筈だ。今回のような襲撃を踏まえたあそこなら安全な筈だ。
「みんな聞いてくれ。」
その一言にクラスにいる全ての人が刹那に注目する。
「この学園には特別シェルターがある。そこに行く。」
「特別シェルターって?」
花がそう聞いてくる。
生徒には伝えていないのか。まあ、そんなことどうでもいい。そこしか逃げる場所なんてない。
「この学園の一階。この部屋の真下にそれはある。ここよりも頑丈にできている部屋だ。俺たちはそこに行く。」
ざわざわするが、誰も反対しない。多分ここにいる人たち全てがここがもうもたないことに気付いている。だから一か八かでもそこを目指す価値はあると思っている人が多いらしい。
「力を合わせて、特別シェルターに移動するぞ。」
最弱である刹那の言葉を嘘かもしれないのに信じてくれる。
今はどんなことがあろうと全員で乗り切るんだ。ここにいる人たちを守るために。
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