第8話 友達

剣を拾い腰の鞘に戻し、部屋から出ると試合を見に来ていたであろう人達が自分達のクラスに戻ろうとしていた。


「初級魔法三発で魔力切れとかどんだけ弱いんだよ。ほとんど一般人じゃん。転校生だからすごい強いのかなって期待してたけど、ありえないぐらい弱かったわ。」


「まさか裏口で入ってきたんじゃねーか?」


「そうかもな。最初はすごいと思ったんだけどな。ただの雑魚だったわ。さっきの時間は無駄な時間だったわ。」


などと話している声が聞こえてくる。


けっこうきついこと言われてるな。事実ではないことも言われているが、自分の魔力量じゃ何を言っても無駄だ。それに事実ではないので実質、裏口だ。魔法の実力ではなく特別な人間だから転校できたんだ。


実力の前に魔力量が少なすぎるんじゃここではまず認められない。魔力量を持っていることを前提としての実力。


つまりこの学園で邪神を倒す魔法使いとしての前提条件が達成されてない、実質ランキング外の雑魚というわけだ。


まあ、それでも問題ないが。


他の人達が俺を避けて帰っていく中、声をかけてくれる人がいた。


「頑張ったね。刹那くん。」


話しかけて来たのは夕陽だった。


「見に来ていたのか。」


ここにいると言うことはあの試合を見られたと言うわけだ。


「うん。かっこよかったよ。一体目やるときの動きすごく早くて私にはできないような回避をしてたし。それに二体目も惜しかったし。」


夕陽は、俺が邪神と戦っていたことを知っているような素振りをしていた。だからか俺の立ち回りを肯定してくれている。


「最初から見られてたのか。ってか他クラスも見にこれるんだな。」


「うん。さっきの時間は二学年は全クラス自由時間だったからね。刹那くんの戦いが見れるって先生に言われたから見に来たんだ。」


全クラスねぇ。クラスメイトだけでなく、最悪二学年全員に見られてたのか。


「じゃぁ、俺は二学年は全員に最弱認定されたわけだ。」


冗談ぽくそう言ってみる。


「そ、そうだね。でも、ヒナタくんは魔法がなくても、身体能力が高いから大丈夫だよ。」


反応に困っていたが傷つかないようにフォローしてくる。


「フォロー、ありがと。最弱であれ、俺にはやることがあるから、そこを否定されたわけじゃないから、特に気にしてないよ。」


元々わかっていた結果なので、そこまで傷つくわけでもないし、最弱であっても魔法使いとして認められているのだから、魔力一般人の刹那にとっては嬉しい方だ。


「まあ、これで俺のことを知っているような人じゃないと話しかけたいとは思わないだろう。」


初日から俺に優しくしてくれた夕陽には他の人に俺のせいで嫌われて欲しくない。


だから、そのまま続ける。


「だから、俺と話すのは控えた方がいいよ。俺と話して友達に嫌われたり、周りに何か言われたりする可能性もあるから。」


「それくらい気にしないよ。私が君といたいと思う気持ちは非難されることよりも強いから。」


どうしてそこまで言えるのか分からない。やめた方がいい。そう言った方が良かったのかもしれないけれど言えなかった。


「ありがとな。でも、嫌になったら辞めとけよ。嫌なのに俺といるってなってたら、俺も罪悪感が出てくるから。」


「わかってるよ。君といたいと思うまでずっと君といる。私はこれからもそうする。」


そう言って微笑んだ。少し照れ臭くて目を晒す。


そんな俺を見て夕陽も同じような感じになった。目を晒している間に周りを確認する。他のクラスの人はほとんどいなくなっていた。


「もう時間だ。じゃーね。またご飯の時に会おうね。」


「わかった。また、授業遅れないようにな。」


「わかってるよ!」


とそのまま、夕陽は手を振って部屋から出て行ったのだった。


夕陽と話したあと俺は一人でクラスに戻っていた。そんな中、後ろから背中を押された。


「おい、連れて行ってやったのに先に帰るのは酷いだろ。」


と祐樹はそう言って話しかから来た。


「悪いな。置いて行って。」


置いて行ったのは悪いと思うというか、そもそも話しかける人はいなくなったと思ったから一人で帰ってたんだよな。


「まあ、別にいいけど。今度は置いていくなよ。」


祐樹はそう言って笑う。そんな祐樹の隣を歩く。


「わかった。」


そう返事をした。


「一つ、疑問があるんだけどいいか?」


「なんだ?」


「最弱だってわかったのにどうして、こうやって話しかけてくれたんだ?」


夕陽は初日からそうだが優しいから話しかけてくれるが俺自身の過去を少しも知らない祐樹が話しかけるメリットなんてない。


「そんなことか。」


祐樹は頬を少し指で掻きながら


「俺にはできないことができる奴を最弱だと馬鹿にするほど、ダサくはなりたくないからな。」


「そうか。」


自分よりも弱いと思っていた人に助けられると言った話はよくある。いい考えを思っているな。


素直にそう思った。


話している間に教室に着く。教室に入ろうとすると多くの人に注目され、俺には聞こえないような小声で何か話していた。


内容は大体予想できる。教室に入りづらい空気だったので廊下で祐樹の話を聞く。


「俺、魔法が使えないんだよ。だから、使えるやつの悪口は言わないし、そいつを嫌うことなんてしない。」


祐樹は確かにどこか悲しそうな表情をしていた。


「俺は魔力があるがそのバトルシステムで魔法を使えず、邪神を一体も倒せなかったんだ。」


俺と同じように魔力が少ないのかと思ったので正直意外だった。


「魔法が使えないって、魔力はあるんだろ?なら何故。」


魔力があれば魔法が使えると思っていたから、だからどうして使えないのか分からなかった。


よくよく考えてみれば邪神を一体倒しても最下位だったので、一体も倒せていないと言った祐樹が魔力を持っているのは当たり前か。


邪神を倒せなかったとしても俺より高いランキングなら魔力はそこそこあるはずだ。


「どうして魔力はけっこうあるのに使えないのかって思ってるだろ?確かに俺は、魔力はある。でも、効率が悪すぎて発現までに時間がかかりすぎるんだよ。」


魔法の発現の効率。


それは魔法を使い始めた時、少しでも多く魔法を使う為に何度も練習したものだ。


魔法発現の効率は効率が悪くても魔法を発現できるため、魔力量が高い人が困るものだなんて考えたことなどなかった。


「だから俺は二年のワースト10に入ってる。だからお前を避ける理由なんかないし。あんなに効率のいい魔法の使い手のことを最弱とは思わない。邪神を倒せなかった俺こそ最弱なんだよ。」


何もわかっていなかった。


魔力量が高い人はみな強い魔法使いなのだと勘違いしていた。


魔力量が高くてもその全てを出せるようになるためにはその魔力の分だけ努力が必要である。それができて強者と言われる。


そして、強者しなれなかった、魔力があるのに魔法が使えない者は見下される。この学園には明らかに格差がある。


「そうだったのか。悪いな。変な事、聞いちゃって。」


「いいよ、そんなの気にしなくて。俺はお前よりも弱いんだ。だから、ランキングとか気にせず接してくれよ。」


俺と同じく魔法を使えない者か。


実戦では皆魔法が使えるため、知らなかったがその前段階である魔法学園だからこそ、魔力だけでは魔法使いにはなれないことを知れた。


俺の魔法ももう少し、上達するかもしれない。


「わかった。これからもよろしくな。祐樹。」


「おう。改めてよろしくな。刹那。」


刹那たちはお互いを知り、教室に入った。祐樹と共に刹那の席まで向かう。机の周りで話していると


「ちょっといいかな。刹那くん。私を忘れてないかな?ちょっと、授業で離れただけで、忘れられるとか悲しいんですけど。」


と隣の席の花に話しかけられる。しかし、それに返す言葉が見つからず、黙り込む。


「無視。まさか、もう新しい友達ができたからって言って私を捨てるの?」


ひどいっと花は大袈裟に悲しがる。それを聞いた由依がつかさず、


「最低。」


と冷たい一言を放つ。


冗談でもその言葉は胸に響く。


「いや、待て。俺は別に見捨ててないし。」


そんな冗談に冷静に答える。


「じゃー、なんで話しかけてくれなかったのー?」


「まだ、教室に帰ってきて殆ど、時間経ってないから?」


特に理由があった訳ではなかったので疑問形になってしまう。


「そっか。そっか。」


そうだよね。と頷いて、納得する。何に対して納得したかは分からない。


「でも、私は教室に帰ってきて一番最初に話しかけて欲しかったなー。」


「悪かったよ。」


なんか、さっきから謝ってばかりだな。


「でも、祐樹もそうだけど俺に話しかけてくるって相当変わってるよな。」


「変わってるって。」


祐樹がポツリとそう呟いた。周りを見ても殆どの人が陰口をしているのでそれをしていない祐樹たちが変わっているというのは間違いでない。普通におかしい。


「そうかな。刹那くんは面白いから、ランキングだけで判断したらもったいないよ。」


花も魔法を使えないことを気にしていないようだった。


「それに私も由依もあまりランキング高くないから低い人の気持ちはよくわかるんだ。由依も刹那くんと仲が悪いのは嫌でしょ?」


花は由依にそう聞くが、


「私はどっちでもいい。私は姉さんといれればいい。」


と興味なさそうにそう言う。


本当に花といれればいいらしい。最初はずっと無視してたし興味ないのは知ってる。


「だからね、私達とはさっきと同じで感じでいいよ。一人でなんでもできる人なんてAクラスにしかいないよ。私だって一人じゃ何もできないもん。完璧な人なんていないよ。そうだよね?由依。」


意味ありげに花は由依に同意を求める。それに由依はコクっと頷いて。


「全ての人がなんでも一人でできたら苦労はしない。」


「そうだよな。ありがとう。花、由依。それに祐樹。最初に話したのがみんなでよかったよ。」


誰とも話さず一人で行動してもいい。けど、誰かといた方が得られるものは多い。


「えっへん。これからも私を頼ってね。」


と花は胸を張る。


「これからもって、まだ、何も頼ってないけどな。」


刹那のツッコミに花はそうだっけ?っと、首を傾げる。


「何ができるか分からないけど俺も頼ってくれていいぞ。」


祐樹もそう言ってくる。


ずっと邪神と戦っていたため仲間などはいたが友達と言うものを作ってこなかったため、こういう繋がりは久しぶりだなっと感じる刹那だった。

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