第4話 夕食
謎の襲撃の後、特に何もなく寮にたどり着くことができた俺は、一人剣を手入れしていた。
漆黒に包まれたこの剣は、かれこれ3年程使っているが、手入れしているからか全く斬れ味は落ちていない。
ちゃんとした攻撃なら、一振りで邪神を倒せるだけの強さを持つ。かすっただけだと倒せないこともあるが、それでもそれなりのダメージを与えられる。
俺が邪神に対抗できているのはこの剣のおかげだ。
この剣に何度も助けられたし、この剣がなかったら今頃、邪神に殺されて、この世界にいなかっただろう。だからこそ、毎日はちゃんと手入れをしている。
俺はこの剣とともに邪神を倒す。それがこの剣を持つ俺の使命。
「よし、これでいいかな。」
磨きを掛け終えた剣を鞘にしまい、棚の横に立てかける。
部屋は俺が来る前に必要な物は揃えてくれていたらしく普通に生活が送れそうだった。
「そろそろ、腹も減ってきたし、ご飯食べに行くか。」
寮について部屋を確認し終え、特に何もすることはないのでご飯にしてもよいだろう。
学園の寮生は夕ご飯に学食を利用することができる。これは一人暮らしをしても、栄養の偏りのないような食生活を送れるようにという学園の配慮らしい。まだ、この学園の生徒ではないが校長から事前に許可は貰っているので、問題なく今日から使える。
そういうことで、夕ご飯を食べるために学食に向かっていると、
「あれ、刹那くん?」
と聞いたことのある声に名前を呼ばれた。 そこには先ほど見た制服ではなく軽く着替えた夕陽がいた。
「夕陽か。こんな時間に出歩いてるってことは夕陽もご飯食べに行く途中か?」
時間的にはご飯には少し早い目の時間だったので、まさか夕陽に会うとは思っていなかった。
「うん!うちの学校のご飯はすっごく美味しくて並ぶから少し早めに来てるの。」
夕陽は早く食べたいという気持ちが抑えられないのかソワソワしている。それだけ美味しいのだろう。
「並ぶくらい美味しいのか。」
「期待しててもいいよ。私が保証するよ。」
と、自信満々に胸を叩いた。
学食に着くと何人か人が並んでいた。刹那はもう並んでいるのかと驚く。
「どれににしようかなー?刹那くんはどれにする?」
学食のメニューはかなりあり、いつでも好きなものが食べれるようになっていた。
初めての学食で大量のメニューの中から一つを選べなかった俺は夕陽におすすめを聞く。
「夕陽のオススメは?」
「えっと、私は今日のオススメとかいいと思うよ。」
今日のオススメ。俺のように選べない人の為のメニューだろう。
特に食べたいものもないし今日はこれにしよう。
「じゃぁ、それにしようかな。」
「刹那君がそれにするなら、私もそれにしよ。」
夕陽と俺は今日のオススメを選び受け取り、二人で席についた。そのままご飯を食べる。
「美味しいでしょ。」
「ああ。うまい。」
そう返した後、俺は夢中でご飯を食べた。そして俺たちは何も話さず定食を食べ終えた。
夕陽は俺が夢中でご飯を食べているから気を遣って話さなかったのかもしれないが。
「あー、美味しかったー。」
と夕陽は背もたれにもたれてゆったりしている。
「量もなかなかあったし、よかったよ。」
「だから、言ったでしょ。」
「そうだな。夕陽が早く食べたくてそわそわする理由もわかったよ。」
「ほんとに?」
「ああ。本当にそれくらい美味しかった。」
そういうと夕陽はなんか誇らしそうだ。
まぁ、夕陽を褒めているわけではないけど。
「夕陽は普段、ここに一人で食べにくるのか?」
「うん。家から通ってる友達が多くてどうしても一人になっちゃうんだよね。」
寮生は意外と少ないと聞いていたが、本当に少ないのかもしれない。
「そうか。」
「そんなことはどうでもよくって、クラスはどうだったの?」
夕陽は話を変えて聞いてくる。
クラスは後で教えるとは言ったものの、時間がなくて教えられなかったし、校長が適当に伝えて来たのでクラスのことすっかり忘れていた。
「ああ、クラスはDだった。」
「えー。Dかー。同じクラスがよかったなー。」
クラスが違うことを聞いて残念がる。
そういえば夕陽はBクラスって言ってたもんな。ってことはクラス全員初めて会う人か。
「しょうがないな。学校が決めたことだからな。」
「そうだね。会えなくなるわけじゃないもんね。」
俺のことを気にしてくる。何かあるのか?わからないけどそのうちわかるだろ。本人から何か言ってくれるだろうし。
「そういえば、授業はどうだったんだ?間に合ったのか?」
「えっと、間に合わなくて怒られました。」
夕陽は肩を沈める。
なんかすごい悪いことしたみたいだ。
「悪いかった。俺のせいで。」
「いやいや、刹那くんのせいじゃないよ。私がただ忘れてただけだから。」
そう言って怒らないのはやっぱり夕陽が優しいからだろう。
ご飯を食べ終わり、夕陽からの質問責めをされた。どこから来たのか。何をしていたのか。もちろん答えられる範囲で答えた。
「魔法学校と普通の学校両方体験できるっていいなー。」
夕陽は羨ましそうにそう言う。
通っていたと言っても殆ど名前だけの不登校だったけど。
「俺は色々あって、前の学校はあまり通ってなかったからそうでもないけどな。」
「そっか。普通の学校だもんねー。」
と最初にあった時のことを根に持っているのかそう言ってくる。
「そうだよ。それと通えてなかったから。」
「ふーん。ねぇ、刹那くん。刹那くんが学校に通えてなかったのって、邪神と関係ある?」
と聞いて来た。
何故それを聞くのかと言う疑問もあったが、隠す必要はない。
「ああ、関係あるよ。」
と返事をする。
「やっぱり。やっぱり君があの時の…だったんだね。」
夕陽によって呟かれた言葉を聞き取ることができなかった。
「聞き取れなかったからもう一回言ってくれないか?」
夕陽は何処か嬉しそうだったが、俺がそう尋ねると、慌てて否定する。
「あ、えっとなんでもないよ。き、今日は遅いしもう帰ろっか。」
何故か動揺しているが、あまり気にするのも夕陽に悪いかなと思い、
「そうだな。」
と夕陽の提案に乗った。
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