第3話 魔法と邪神

「ここが校長室だよ。」


夕陽と会ってから五分もしないうちに校長室にたどり着いた。


流石にここに通っている生徒だなと感心する。


ついでに校長室にたどり着くまでは何処に何があるか説明してもらい何箇所か場所を覚えることができた。


「ありがとな。夕陽。」


校長室まで案内してくれたこと、部屋の説明をしてくれたことに感謝する。


「うん。」


「じゃぁ、クラスと学校の説明を聞いてくるよ。長くなるから待って…。」


ふと、そこで冷静になったことであることに気づく。


待てよ。夕陽はここの学生だよな?

今はまだ授業をしているはずだが、こんな場所にいていいのか?


「どうかしたの?」


流石に俺の考えすぎだと思うが、もし授業を受けられていなかったらまずい気がする。


「夕陽、授業は?」


念のために聞いてみると、


「あっ。」


っと何かを思い出したかのような反応をする。そしてみるみる不安そうな顔になっていく。どんな言葉が返ってくるか容易に想像できる。


「授業忘れてた。」


思った通りの反応だった。


悪いことしたなと感じ謝ろうとすると、


「まだ、始まったばっかりだから間に合うかも。ごめんね。私、もう行くね。」


と言って、夕陽は自分の教室へ向かおうとした。そして、ちょっと歩いてから、立ち止まりこっちに向き直って、


「また今度クラス教えてね!同じクラスだと嬉しいな。」


そう言って謝る隙もなく、こちらに手を振って駆け足で走っていった。


俺との授業を忘れるほど夢中になっていた。初めて会った俺にあそこまで馴れ馴れしく、しかも夢中になるなんてことがあるのか?


単に優しいだけかそれとも裏があるか。


って、それは考えすぎだな。ただ優しいだけに決まっている。


そう考えながら夕陽が見えなくなるまで見届け、校長室のドアの前に立った。


「さて、一人になったし、校長室にでも入ろっかな。」


そう呟いて、中に入るために気を取り直す。


「よし。」


と一言呟いてコンコンっと扉を叩く。


「失礼します。」


扉を開けるとそこには20歳前半の眼鏡をかけた黒の魔法服姿の男が椅子に座っていた。


秘書か。校長はどこかな。


刹那は周りを一回見渡して、校長が何処にいるか探す。しかし、魔法使いのような男以外の人はいない。


校長を探していると男は話しかてくる。


「よくきてくれたね。黒崎刹那君。座りたまえ。」


そう言って男はにこりと笑いかけてくる。


校長が今いないから、ここで待ってればいいのかな?などと考えしょうがなく前にいる男に校長の居場所を尋ねる。


「あのー。校長はどこに?」


その言葉を聞くと男は何故かいきなりはっはっはっはっと大笑いする。


なんで笑ってるんだよ。


理由がわからず少しイラっとする。


「いやいや校長はここにいるよ。」


そう言われてまさかと思った。だが、すぐにそれが答えだとわかる。


男はさっきとは一変して真剣な顔つきになり


「僕が校長のさ。」


と言った。


嘘だろ!流石に若すぎないか?ここは国が認める学園だぞ。などと失礼なことを考えていると、


「嘘だろ。若すぎないかとでも思っているような顔だね。」


少し笑いながら俺の思考を読んでくる。よく言われるのか大体合っているから何も言い返すことができない。


「すみません。勘違いしてしまって。」


校長は笑顔を保ったまま、話を続ける。


「大丈夫だよ。よく勘違いされるからね。」


自身も完全に勘違いしたのでよく勘違いされると言うのは納得がいく。多分これが普通の反応だ。


「君が転校してまでしてここに来てくれたことにはとても感謝しているよ。」


ついさっきまで失礼なことを考えていたが早速真面目な話をしてきたので切り替える。


「いえ、ここが一番、今の自分にとって最適な場所だと思っていたので転校できてよかったですよ。」


というのも刹那の転校してきた理由の一つが、この学園のシステムにある。


この学園は他の魔法学園が取り入れていない対邪神用の授業を取り入れている。魔法を使えるようにということだけではなく、邪神と戦うことを前提とした授業、その授業を受けるためというのが一つの理由だ。


「君はこの学園にとって、いや世界にとって特別な存在だからね。君の転校を受け入れないわけがないよ。」


特別な存在。少しは自覚しているがそれは口にしない。


「そうですか。」


そして、もう一度真剣な表情に戻って話をきりだした。


「100年以上前のあの日以来この世界には邪神どもが進行してきた。邪神どもには剣や弓などの武器の攻撃は効かず、効くのは魔法と呼ばれる今までになかった、世界を変える力だけ。それなのにもかかわらず君は唯一、魔法を使わずして邪神に攻撃を入れられる存在。君はどうして邪神と戦えるのかな?」


やっぱりそこが知りたいだよな。


俺は他の人と違い魔法なしで邪神、世界の敵と戦える唯一の特異体質の人間。


この世界唯一の剣士。


さっきまでの話にも出ている邪神、それは、黒い今までに見たことのない謎の生物。その姿は今、わかるだけで10種類以上ある謎の存在。空を飛べるやつ、姿を変えられるやつなど、多くいる。


そして、邪神には今わかるだけで大きく分けて三つに分けられる。下級、中級、上級。


下級は飛べるだけだったり魔法は使えるが連続で打てないなど、邪神の中でもかなり弱い。


中級は魔法の連続攻撃や、単純な特殊能力を持つものなどのことを言い、かなり強い邪神。


そして、上級は今までに一度しか現れたことがない。その一体は超再生で、上級魔法を巧みに操るようなものだったと聞いている。上級魔法使い20人が同時に相手しても勝てず、結局邪神側が一時撤退したことで、勝負はついたらしい。その時なぜ撤退したかはわかっていない。


そんな邪神だが、魔法以外は一切効かないという人間には不利な能力を共通して全ての邪神が持っている。


そして、魔法というのは邪神と共にこの世界に現れたもので、魔力と呼ばれる力によって事象を変えることのできる力である。


と言っても、なんでも変えられるという訳ではなく、氷を作り出したり、光を出したりするものや、攻撃するための技を出したりすることぐらいまでしかできない。


また、魔力は全員が持っているらしいが魔法を行使できるだけの魔力を持っている人は1万人に1人ぐらいと言われている。


そのため魔法以外で攻撃を入れられることができれば戦力は大幅に上がる。ただでさえ魔法使いは少ないのだ。知りたがるのは当たり前だ。


今、近接攻撃で邪神に攻撃を入れられるのは武器に魔法を付与する付与魔法だけ。ただその時間は魔法を発動してから持って一時間程度。魔力を多く持つものはなんどか使えるが常に魔法を行使し続けなければならないため消耗が半端ない。使っている間に他の魔法を使うこともあるし、そもそも遠距離魔法を使っていた方が効率がよい。


使い物にならないというのが今の現状だ。


そのため近接戦闘ができるものは無限魔力回路を持つ勇者と呼ばれる魔法師と俺だけだった。


「自分にもわかりません。邪神が攻撃してきた時に剣を使って戦ったところたまたま戦えただけなので。多分なのですが邪神が進行してきたあと、多くの人の身体に変化が起きているのでその変化の一つではないかと自分は考えています。」


剣で邪神と戦える。それは体力がなくならない限り永続的に戦えるということを指している。魔力には限界があるという最大の欠点を補える。それが俺のもつ力だという訳だ。


「そうか。そうだよね。今は未知の力で戦っている。魔法だってそうだからね。ただ君の力は今の学園にとっては必要なものだ。君には期待しているよ。」


「期待に応えられるよう頑張ります。」


と校長の前に立ち一礼をした。


「それじゃ、君のクラスはDだから、明日から頑張ってね。」


聞きたい話を聞けた校長はさっきとは違い適当にクラスを発表する。


「わかりました。」


と返事をして出て行こうとすると、


「これが寮の鍵。寮の位置は把握してるよね?」


と聞いてくる。


「この学園の裏ですよね。」


さっき道に迷ってるときに通ったので完全に把握している。方向音痴ではないので場所さえ把握できていれば迷うことはない。


「そうだよ。じゃぁ、また会おう。」


「はい。今日はありがとうございました。失礼しました。」


そう言って校長室から出て寮まで歩いた。


これから自分の住む部屋がどんな部屋か気になって少し走っていると、その途中、俺は誰かに見られているような感覚に襲われた。


普段から戦いをしていてそういった感覚は鍛えられているので間違いない。


まあ、夕陽を気づかなかったので少しだけ自信をなくしているけど。


「俺についてきているやつ、出てこい。」


とうとう我慢できず振り向く。


これでいなかったら恥ずかしい人だが、この時はそんなことまったく考えていなかった。


「バレてたか。バレないようにつけていたのになー。」


そう言ってフードを被った見るからに怪しい人が歩いてくる。フードの下にワイシャツを着ているのが僅かながらに見える。あまりガッチリしている体型ではなく一般的な体型でフードで顔が隠れているせいで性別も表情もわからない。

 

半分、感だったから人が出てきてくれて少しホッとするが顔には出さない。


「何者だ、なぜ俺を付け回す。」


その質問に何も答えない。


その代わりに目の前の人は何かを呟いた。


その瞬間、前の人から黒い何かが放出された。


「魔法か。」


即座に魔法を展開する。


あれは確か闇系統の中級魔法。名前は忘れたが、直線上に放つ波動系魔法だったはずだ。


即座にその魔法が何か理解する。これは邪神と戦っている間に自然とできるようになっていた。


魔法を理解した俺はその特徴を把握し、何をすればいいか即座に考える。


周りに被害を出さず防ぐには相殺するしかない。


「氷の衝撃」


そう叫ぶと俺の腕に氷が出現する。そして、相手から放たれた魔法めがけて氷の出現した腕を前に突き出す。


氷が相手の魔法にぶつかる直前で氷は爆散し、その衝撃が氷の代わりにぶつかり、相手の魔法が爆発する。辺り一面が煙に覆われる。

 

魔法は魔法同士ならば同等かそれを上回ることにより魔法を破壊することができる。魔法が爆散することで膨大なエネルギーが発散し視界が悪くなる。視界が悪くなったとしても強い威力の魔法になるほど魔法を打ち消すことができるのはかなりアドバンテージを取れるが今はその話は置いておく。


俺が使った魔法は中級以上の魔法でも打ち消せるだけの威力を持つ魔法。


氷の衝撃。


刹那の使える数少ない魔法であり、俺の使える唯一の中級魔法。部分的超火力型魔法。ただし、使えるのは魔力全回復状態で一回のみというデメリット付き。


まあ、普通の魔法師なら何発でも打てるが。


また、俺は他にもいくつか氷系統の初級魔法を使えるが基本三回しか使えない。


ほんと自分の魔力のなさに呆れてしまう。


そんなことは置いといてだ相手の魔法を抹殺したが、まだ追撃が来るかもしれない。


煙の中、腰にある剣を抜き、相手との距離を詰める。そして煙から抜けると相手のいた場所めがけて剣を振る。が、そこには誰もいなかった。


周りを見渡すが誰もいない。


「逃げたか。一体何だったんだ。」

 

何も分からなかった。何が目的か。どこの誰なのか。なぜ俺を狙ったのか。


今は考えても仕方がないか。何も分からないんだ。考えたって何も解決しない。


「疲れたし、明日学校だし、早く帰るか。」


そう言って、次は必ず倒すことを心に決めて、学園の寮に向かったのだった。

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