失いし君
ピート
なくした日々は帰ってはこない。わかっているのに何故、同じ事を繰り返すんだろう。
誰と会うでもなく、どこかに出掛けるでもなく、ただただ無意義に時が過ぎ、この身体が朽ちていくのを待つばかりだ。
あの人のいない世界になど、存在する意味がないから…。
その日がおとずれるまで、空想の世界に飛ぶ、本の中へ……あの人が大好きだった本の世界へ。
あの人が残してくれた本……数え切れない、沢山の本の山に囲まれ、ただ無感動にページをめくる。
これは、あの人にプレゼントした本だ。
懐かしい記憶がよみがえる。何件も本屋を探し歩いて見つけた本、渡した時の笑顔がついさっきの事の様に目に浮かぶ。
ページの間から、一枚のメモが落ちた。
こ のメモに、貴方は何時気付くだろう?
その時、私は傍にいる事ができるだろうか?
メモを読んでるだろう、貴方の隣に私はいるだろうか?
心から、愛している貴 方は今、幸せだろうか?
私に残された時は少ない……その現実を受け入れ、貴方は傍に、私を愛してくれると言った。
とても嬉しかった。私は幸せだよ。いつ までも、貴方が隣にいてくれるから。心残りがあるとすれば、私が消えてしまった時、貴方が立ち止まってしまうんじゃないかという事。
歩いてほしい、私の見 れなかったもの、辿りつけなかった場所、出会う事のなかった人、たくさんの可能性を掴んでほしい。
踏み出して下さい。無責任に貴方を置いていってしまう私 の、最期のお願いです。幸せになってください。未来をあきらめないでください。
あの人の字だ。
薄れかけていた、声が、笑顔が鮮明によみがえる。
私は、貴方と生きたかった。
流れる事のなかった涙がとめどもなくあふれた。
Fin
失いし君 ピート @peat_wizard
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