終わりの始まり


 カラオケから翌日。鮎川さんは宣言通り、学校に俺とユキがキスをしている写真をばらまいていた。案の定、学校を歩けば視線を感じない時はなく、落ち着くことすらできない状況だ。


 でも、それを選んだのは俺。ユキに対する思いを誤魔化して、鮎川さんと交際するだなんて選択をしたところで、後悔することは目に見えていたから。


「ひ、宏樹!」


 まだユキが来ておらず俺が教室で孤立していると、顔色が悪いながらも心配そうな表情で、紫が俺に話しかけてくれた。


「あ、あの写真……何なの。や、やっぱり浜地さんと付き合ってたの?」


「……付き合ってはない。ユキが、まだ付き合えないっていってるから」


「な、なんなのそれ……意味わかんないんだけど! 浜地さんはどこ? 話したいんだけど」


 どうしてか、紫は怒り狂った形相でユキと話そうとしていた。一体、何に怒っているんだろう、別に紫に被害が被ったわけじゃないだろうに。


「まだ来てないんじゃないか……あ、浩一」


「宏樹、監督が呼んでる。話があるって……」


 神妙な面持ちで、浩一が俺にそう伝えてくれた。きっと、悪い話なんだろう。キスの写真がばらまかれて、俺に対する処罰を伝えるといったところか。最悪、もう部活に来るなと言われるかもしれない。


「ああ、わかった。ありがとう浩一」


 だけど、今の俺はそれに対してあまり焦りを感じていなかった。昨日まで、こうなることを確かに恐れていたはずなのに。もう、どうでもいいやと思えるようになっていた。


 もしかしたら、もうすぐユキと付き合うことができるかもしれない。ユキだって、俺と付き合う気がないわけじゃないみたいだから、きっと俺の願いは叶う。その考えが、俺の頭を蝕んでいるんだろう。


「あ、ユキ……」


 職員室に行く途中、ユキとすれ違った。ユキも写真がばらまかれて、みんなから視線を集めていることにビクビクしているようだったが、俺の顔を見ると落ち着いた様子を見せる。


「だ、大丈夫か?」


「う、うん……平気だよ。こうなることを覚悟して、私はああしたんだから。ヒロくんは……大丈夫?」


「俺も平気だよ。ユキのことを思えば、これぐらいなんてことない:


「……ふふっ、良かった。ヒロくん、私のことをもっと好きになってくれたんだね」


「え?」


 もっと好きになった? それって一体どういうことだ……?


「な、なぁユキ。それってどういう意味——」


「いた、浜地さん。ちょっと顔貸して欲しいんだけど」


 俺がその言葉の意味を聞こうとした矢先、ユキのことを探していた紫が殺意すら感じる視線をユキに送りながら、返答が来る前にユキを引っ張って連れ去ろうとする。


「な、何してんだよ紫」


「……浜地さんに用があるだけ。話ぐらい、できるでしょ?」


「……いいよ。ヒロくん、私は大丈夫だよ」


 ニコッとユキは笑い、それに紫は嫌悪感を感じる表情を見せながら、どこかに紫はユキを連れて行ってしまった。


 正直後を追いたかったが、その際先生に呼ばれてしまって強制的に職員室に連れて行かれてしまった。


 その後、話の内容はあまり頭に入ってこなかった。ただ、しばらく部活動には参加できないことは理解した。つまり、俺のサッカー選手としてのキャリアはかなり厳しいものになってしまったってことだろう。


 だけど、正直それに対するショックよりも今はユキのことが心配だった。ただならぬ状況だった紫を見ていると、ユキに何かするんじゃないかって思わずにはいられないから。


「ゆ、ユキは……!?」


 ユキの姿を見つけ、その側に行くと……。


「あんたが……あんたがいると宏樹がダメになる!」


 ユキの胸ぐらを掴んで、怒りをあらわにしていた紫が、そこにいた。


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【メンヘラしかいないアイドルグループのマネージャーになった俺、「どんなに炎上しても俺はずっとお前たちのファンだから」と言ってなんとか人気アイドルに導いた結果、みんなヤンデレに進化?してしまった件について】





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不登校の幼馴染が学校に行く条件は、毎日俺とキスをすることだった【WEB版】 倉敷紺 @tomogainai

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