誰が一番好き?
「ゆ、ユキ……どうしてここに」
突然現れたユキに、俺は思わずそう質問する。だって、俺は今日ユキにここに行くだなんてこと言った覚えがないから。
「ヒロくんのこと……心配だったから、こっそりついてきてたの。それで、鮎川さん。ヒロくんに何してるの? 早く離れてほしいな」
ユキは今まで見たことがないぐらい怒った表情で、鮎川さんを睨みつけている。けれど、鮎川さんはそれに対して全く動じる様子はなく、俺から一向に離れてくれない。
「嫌です。せっかくここまでこれたのですから、もう私は行けるところまでするつもりですので。それに、浜地先輩。ここで私の邪魔したら、二人がキスしている写真ばら撒きますよ?」
鮎川さんはユキに対しても脅しをかけて、このまま俺にキスをさせようとする。写真の弱みさえなければ、なんとかできるかもしれないのに……くそっ、ユキにまで迷惑をかける羽目になるなんて。
「ほら、何もできないでしょ? では、さっさとおかえりください浜地先輩。もう、梅崎先輩はあなたのものではありま——」
「ちゅっ」
ユキは鮎川さんを無理やり退けて、俺の頰にキスをした。
「ヒロくんは、あなたのものじゃないよ」
ユキはそう言って、もう一回俺にキスをした。まるで、鮎川さんに見せつけるかのように。それをみて、鮎川さんは一気に顔色を悪くしていた。
「随分酷いことをしますね……。梅崎先輩、今すぐその女から離れて私のことを抱きしめてください。そうしたら、写真をばらまくことはしません。ほら、早く!」
よほどユキにムカついているのだろう。鮎川さんは怒り狂った様子で、声を荒げながらそう言う。
「しなくていいよ、ヒロくん。私は写真なんてばらまかれても平気。でも……ヒロくんが嫌なら、鮎川さんのところ、行ってもいいよ」
ユキはキスの写真をばらまかれても平気だと言ってくれた。でも、俺は……写真がばらまかれるなんて嫌だ。だけど、俺が、俺が好きなのは……。
「でも、ヒロくんは鮎川さんのこと好き?」
「そ、それは……」
ユキは俺の服をギュっと掴んで、俺に問いかける。まるで、俺が迷っていることを見透かしているかのような、その質問に俺は言葉を詰まらす。きっと、ユキは分かっているんだ。俺が、どうしたいかなんて。
「ヒロくんが好きなのは、誰?」
「……」
「な、何を悩んでいるんですか。は、早く私のことを選んでください! そうしないと、この写真をばら撒き——」
「……俺は、ユキが好きだ」
頭で考えるより先に、俺はそう喋っていた。もう、写真なんてばらまかれたってどうでもいい。このままユキへの思いを誤魔化して、好きでもなんでもない鮎川さんと付き合うなんて、俺にはできないから。
「だから鮎川さん、俺は君の想いには答えられない。写真は好きにしてくれていい」
「お、おかしいですよ……。ぜ、絶対そんな女より、私の方がいいじゃないですか! こ、後悔したくないでしょ、先輩だって!」
鮎川さんは予想外の答えに、焦って取り乱す。けれど、そんなことで俺の答えは揺るがない。もうここで、俺はまたユキに想いを伝えてしまおう。そう決めて、俺はユキの顔を見た。
「後悔なんてしない。ユキ、だから俺と——」
「……ごめんね」
「……え?」
けれど、ユキは申し訳なさそうな顔をしていた。それは、俺がかつてユキに告白した時と同じ表情で……。
「ヒロくんとは、まだ付き合えないの。まだ……そう、まだヒロくんは私に……」
交際を断られた。な、なんなんだよ……一体、俺に何が不足していてそうユキは答えるんだよ。
「……あっははは! 断られてるじゃないですか! 浜地先輩、本当に罪な人ですね。付き合わないなら、梅崎先輩を私にくれたっていいじゃないですか!」
惨めな俺のことを盛大に笑って、ユキにそう言う。けれど、ユキは一切動じることなく、俺のことをギュっと抱きしめてながらこう答えた。
「イヤ。私、ヒロくんのことは大好きだもん。……まだ、付き合いたくないだけ。でも……もうすぐ、もうすぐ付き合えるかもしれないから、ヒロくんは……渡さないよ」
「な、なんですかそれ……。なら、もういいです。梅崎先輩、明日からの学校生活、楽しみにしてくださいね」
そう捨てセリフを吐いて、鮎川さんはカラオケボックスから出て行ってしまった。……きっと、明日から俺の学校生活は様変わりしたものになってしまうんだろうな。……でも、覚悟の上だ。
「……ヒロくん、ごめんね。私がもっと気をつけていれば……」
「ユキが謝ることじゃない。……でも、聞かせてくれ。まだ付き合えないって、一体……」
「……それは、ヒロくんが知らなくていいことだよ。じゃ、じゃあ帰ろっか」
ユキは答えを教えてくれず、結局俺は「まだ」の意味がわからなかった。この前は、付き合いたくないって言っていたのに……ど、どういうことなんだよ。
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