不登校の幼馴染が学校に行く条件は、毎日俺とキスをすることだった【WEB版】

日常を守りたい

　決勝戦に負けた翌日。

　「……行くか」

　俺は学校に行きたくなかった。やはり自分のしてしまったミスは大きいものだから、チームメイトに顔を合わせたくなかったし……それにユキにも……あんなことをしてしまったから。

　でもここで逃げるわけにはいかない。逃げたってどうせその先には何もない。だから俺は重い腰を上げて準備をして、玄関で靴を履いて学校に向かった。

　今日は朝練もないからいつもよりゆっくりした時間。だからのんびり行けばいい……と思っていたけど。

　「おはよう、ヒロくん」

　「ゆ、ユキ……」

　家の前には、ユキがいた。俺を見ると嬉しそうにニコッと愛らしく笑っていて、まるで昨日のことなんてなかったように。

　今日は朝練がないことをユキに伝えた覚えはないけど……どうしてここにいるんだ？　

　「……ヒロくん、昨日とっても落ち込んでたから……私、心配で。よ、余計なお世話だったら……ごめんね」

　そうか、ユキは俺のことを心配してくれてここに来てくれたのか。……正直、昨日のことがあったからユキとも会うのが気まづかったけど……こうして心配してくれたご好意を蔑ろにするわけにはいかない。

　「……そんなことないよ。ありがとうユキ」

　「……良かった。じゃあ……行こっか」

　それから、俺たちは二人で学校に行った。昨日のことに一切触れることなく、たわいのない会話を必死に俺からして……日常を取り繕いながら。

　「オッスー宏樹。あれ、浜地さんも一緒？」

　「あ、浩一……」

　その途中、浩一とばったりあった。

　「ひ、ヒロくんが心配で一緒に来ただけ……だよ」

　「あ、ああ……」

　「う、疑ってねぇよ！　俺も心配だったから宏樹の家行こうかと思ったけど、知らなかったから行けなかったんだ。だけど浜地さんが一緒ならまぁ……大丈夫か。それに、思ったよりは元気そうだしな」

　浩一も俺のことを心配してくれていたようだ。やっぱり、こいつはいいやつだよ。それなのに昨日の俺はその優しさを蔑ろにして……はぁ、つくづく自分が嫌になる。

　「……ありがとな浩一。昨日も……」

　「昨日のことは気にすんな。それより次に切り替えようぜ」

　「……で、でも」

　「大丈夫だって、選手権だってあるんだからさ。次こそは浜地さんを全国に連れて行くんだろ？」

　「……」

　できるのかな。俺のせいでチャンスを不意にしてしまったし、それに……これからの試合に出られるかもわからない。でも……そのつもりでいないと行けないよな。それに、全国に行くことを実現できたら……昨日のことも、多少は許されるかもしれない。

　「……私、待ってるよ」

　ユキもそう言ってくれてる。その期待を、もう裏切るわけにはいかない。

　「…………うん。頑張るよ、俺」

　「それでこそ宏樹だ！　よし、今日はオフだから放課後自主練した後ラーメン食いに行くからな！」

　「ちょ！？　か、勝手に決めてんじゃない！」

　「ふふっ」

　それから俺たちは学校に着いて、下駄箱で上履きをとる。……良かった、何も入ってない。一昨日家にキスの写真が来たからもしかしたらと思っていたけど……今日は大丈夫そうだ。そして上履きを履いて俺たちは教室に入る。

　「あ、宏樹……。良かった、学校きて。……大丈夫？」

　先に学校に来ていた紫は俺を見るとすぐに駆け寄ってきて心配してくれた。

　「なんとか。ありがとう、心配してくれて」

　「そ、そりゃあ心配するでしょ！　あんなに落ち込んでたんだから……でも良かった、思ったより元気そうで」

　「だよなー。よし、紫も今日ラーメン食いに行くからな。四人でニンニク油マシマシ食うぞ」

　「それを食えるのはあんただけでしょ！　はぁ……ま、いっか。気分転換にもなるだろうし」

　「よし、決まり」

　というわけで、俺たちは放課後に練習した後ラーメンを食べることになった。……ほんと、みんなには頭があがらない。俺をこれ以上落ち込ませないように色々としてくれて。

　それから授業があって、昼休みがあって、また授業があって。何気ない日常が続いて行く。そして……。

　「……ごめんねヒロくん」

　「……約束だから、気にしなくていいよ」

　「……うん」

　放課後、誰にもバレないところでひっそりとユキとキスをした。あんなことがあったけど、これはしなくてはいけないことだから。今日はこの後浩一たちとの約束もあるから、すぐに済ませないといけない。

　「んんっ……ぷはぁ…………」

　「……じゃあ、行こうか」

　いつもより短くキスを済ませて、俺は浩一たちが待ってるところに行こうとする。だけど。

　「……ユキ？」

　「……ねぇヒロくん。私、もっとキスしたい……」

　ユキは俺の手を掴んで、キスをもっと懇願してきた。もう時間だから、行かないといけない。これ以上待たせるわけにも行かないし、怪しまれるのは間違いないだろう。

　だから。

　「……ダメだよ。行かないと」

　俺はそれを拒んだ。もうこれ以上、日常を壊すわけには行かない。もちろんユキのことは大事だ。それに……キスだって、もっとしたい。だけど同じぐらい二人のことも大事だから……。

　「……そ、そうだよね。ご、ごめんね……変なこと言って」

　ユキは申し訳なさそうな顔をして謝ってくれて、俺の手を離した。それから、俺たちは二人の待ってるところに行って、二人で自主練してるのを見てもらった後にラーメンを食べに行った。

　なんとか日常を過ごせると思った。もう二度と道を外すことなんてないと思ってた。このまま、何事もなく青春を過ごせると本気で思ってた。

　甘いよな。俺はバカすぎた。

　これからのユキとの関係、そして……紫、鮎川さんとの関係が……日常からかけ離れたものになることを、知らないで。

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