夢を掴めない


 決勝当日。空は曇り空で、試合会場はどんよりとした空気となっていた。俺たち選手たちも決勝ということでいつもにも増してピリピリとしていて……息がつまりそうだ。


 加えて俺は……昨日家に届いた写真のことが、いまだに気になっていて。一睡もできなかったから体も重い。正直、コンディションは最悪だ。だから俺は監督にスタメンから下げてくれって言おうとしたが……。


 「今日の試合、期待してるぞ宏樹」


 それをいう前に、監督からこう言われてしまった。ここまで期待してもらっているのに、自分からそれを裏切ることをいう度胸は……俺にはなくて。結局俺はスタメンとして、決勝に出場した。


 試合展開は0-0の状態が続いた。何度も全国出場経験のある相手校は華麗なポゼッションサッカーで攻めてきたが、こちらがしっかりと守ってカウンター、と言った展開が続く。


 俺はなんとか今の所ミスはしてないけど……活躍もしていない。CBの相方である先輩が絶好調だからうまくカバーしてもらってるだけとも言える。


 だけど、焦ったって仕方がない。落ち着いてプレーしなければ足元をすくわれてしまう。出来るだけ冷静にならないと……期待を裏切るのも、見放されるのも、惨めな姿を見せるのも、嫌だから。


 「……!」


 前半ももう終わろうかと言った時間。CBの先輩が相手選手と衝突した際足を怪我してしまい、途中交代となってしまった。その時俺は……。


 「あとは……任せる」


 先輩が、涙を流しながら俺の肩を叩いてそう言った。また、期待を託されて……どうして、よりによって今日の俺にと思ってしまったけど……もう、腹をくくるしかない。


 交代選手が入って、それから大きな展開はなく前半が終わった。いつもにも増して体力の消耗が激しい。それに集中力も……。


 「……い! おい宏樹!」


 「……あ、こ、浩一……」


 ベンチで水を飲んでいた俺の様子が変だと気付いたのか、浩一が声をかけてくれた。


 「大丈夫かお前。汗すげーぞ」


 「……な、なんとか」


 「なら良かった。……あともう半分だ、気合い入れていこうぜ!」


 俺の背中をぺしんと叩いて、浩一はゲキを入れてくれた。……そうだ、あと半分だ。延長戦に入るかもしれないけど……きっと浩一が点を決めてくれる。だから……俺は、乗り切らないといけない。


 そして後半。


 「っ!」


 前半とは打って変わって、相手はパスを回すことをやめてガンガンこちらに向かってくるようになった。こちらにわざとボールを持たせて、しつこいマークをしてはカウンターを狙ってくるスタイルだ。


 しかも、明らかに俺を狙っている。おそらく俺が調子が最悪であることを見抜かれたんだろう。だけど俺が交代されることはなかった。この試合を任せられるレベルに到達してる人が……先輩が負傷退場してしまったので、もう他にいないからだろう。


 「クッソ……」


 何度も何度も迫ってくる相手選手のプレスをなんとか凌ぐことはできた。だが一向に相手ペースのままで、こちらが得点する気配はゼロに等しい。やばい、このままだとやられっぱなしで……いつか点を取られる。


 それだけは……それだけは……だめだ!


 「はぁ……はぁ……」


 息が苦しい。気を抜けば、今すぐにでも倒れてしまいそうだ。それに頭の中ももやがかかったみたいにぼんやりとしてて……。だけど、だけど点を取られるわけには……いかない…………。


 「…………っ!?」


 向こうの交代選手だろう。交代したばっかで体力がフレッシュでなおかつ足がすごく速かった。そして……俺の集中力がもう限界を迎えていることを見逃さないで……。


 「宏樹!」


 俺は、自陣で相手に猛突進された際にボールを取られてしまう。


 後ろにはもうGKしかいなくて、このまま前に進ませてしまったら確実にゴールを取られてしまう。だから……無理に相手の体を引っ張って、前に行かせないようにしたが………。


 その際、後ろから引っ張ってしまったから……相手選手が倒れて。


 「…………………………レッド」


 俺は、レッドカード……一発退場になった。


 頭が真っ白になった。血の気が引いていって、呼吸は過呼吸になって、体がガクガク震えて、視界は歪む。タダでさえ押されている展開だというのに、ここで一人欠けるなんて……絶望でしかない。


 味方の応援団は言葉を失ったかのようにだんまりとしてしまう。そして味方は……特に三年生は俺に、殺意すら感じられる視線を送っていた。当たり前だ、試合をぶち壊してしまったんだから。


 もう、何も考えられずに俺はベンチにいく。……人の視線が怖くて、下を向きながら。


 その時、ユキからもらったミサンガが切れていたことに気付いた。……力をもらったはずなのに、こんな不甲斐ないプレーを見せて……。


 ベンチで落ち込んで下を向いている中、案の定試合は相手チームが点を取った。俺が退場になったあと何度も相手チームの応援団の歓声が聞こえてくる。対して、こちらの応援団は常に沈黙状態。


 決勝戦。夢を掴むことはできず、ボロボロにされて終わった。


  ――――――――――――


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