決勝前日


 「明日のスタメンは以上だ。各々、しっかり準備を整えるように」


 決勝前日、試合のスタメンが発表された。準決勝が終わった後俺はスタメンから外される……なんて話を聞いてしまったが、それもあってか最近の練習ではなんとか持ち直して……。


 「よし、決勝も頑張ろうぜ宏樹」


 「ああ、浩一もな」


 俺はスタメンに名を連ねた。もちろん、浩一も。安堵と同時に決勝、しかもインターハイがかかった試合ということでのしかかるプレッシャーも今までとは桁違いだからか……やはり緊張してしまう。


 「お、震えてんじゃん宏樹。おいおい大丈夫か〜?」


 「う、うるせぇ。浩一だって今日、昼休みいつもより食欲がなかったじゃないか」


 「た、たまには俺だって食わないときもあんだよ!」


 「ははっ。……絶対明日、勝とうな」


 「たりめーだろ。そして全国に俺らの名前知らしめようぜ!」


 拳を合わせて笑いあって、お互いに決意を固めて最後の調整に向かった。そのあとはどこによるわけでもなく、浩一と紫と一緒にまっすぐ家に帰ることにした。もう遅い時間だし、そもそも遊びに行けるような気分でもないし。


 「それにしても二人とも決勝に出るのかぁ……。なんだか、すごいところまで行ったって感じ」


 「そうだ、すごいだろ!」


 「でも紫だって決勝まで行くチームの一員なんだから誇ってもいいんじゃない?」


 「宏樹、あたし虎の威を借る狐じゃんそれ」


 「いや、常に俺たちができないいろんなことしてくれてるしさ……。やっぱ紫の力もあってこその今の俺たちだと思う」


 「……まぁ、宏樹がそう言うならそうかもね。ありがと」


 「ウンウン、俺もそう思ってたぞ」


 「浩一、あんたは絶対思ってないでしょ。後付けってのバレバレ」


 「ぎくっ。い、いやあ……そ、そんなことは」


 「はぁ……。でもま、あんたらが決勝勝ってくれたらあたしも雑用頑張った甲斐があるってことだし。頑張って、きっと、勝てるから」


 力強い目で、だけど優しい雰囲気で紫は俺たちにエールをくれた。こうやって真正面から応援してもらえると……やっぱり元気がでる。


 「……もちろん」


 「あたぼうよ!」


 そのエールを俺たちは受け取って。決勝へのモチベーションがもっと上がった。これなら……もっと、もっと頑張れる気がする。それから帰り道、二人と別れて一人で帰っている途中……俺の家の前で、すごく見覚えのある姿が見えた。


 「……あれ、ユキ? どうしたの?」


 「あ……ひ、ヒロくん!」


 ユキが、俺の家の前にいた。今日はもう学校で約束をキスをしているから……要件はそれじゃないのだろう。何やら小さな紙袋を持っていて、何か俺に渡すつもりなのかもしれない。


 「こ、これ……渡そうと思って。ヒロくん……明日決勝だから、応援したくって」


 ユキは袋から何かを取り出す。それは……。


 「ミサンガ……これ、ユキが作ったの?」


 カラフルな色をした、綺麗なミサンガだった。とても精巧に作られていて、お店で売っていてもおかしくないぐらいのクオリティだった。


 「う、うん! 前からヒロくんに何かプレゼントしたくて……作ったの。ど、どう……かな?」


 「ありがとうユキ! すごいなこれ……試合につけてこ。これがあれば、きっと試合にも勝てるよ!」


 「……ふふっ。よかった……ヒロくんが喜んでくれて。……他には、してほしいことある?」


 「他に?」


 …………あ。そっか……焼肉食べに行った時、できることがあればなんでもするって言ってくれてたもんな。でも……これ以上ユキにしてもらえることはないや。それぐらい、このミサンガは嬉しい。


 「ああ、大丈夫だよユキ。このミサンガがあれば百人力だからさ」


 「……ミサンガだけで、いいの?」


 「え……?」


 自身の唇に人差し指を当てて、クスッと笑いながらユキは俺にそう語りかける。なんだ一体……まさか、俺がキスをしたいんじゃないかと思って……言ってくれてるのか? 


 ……確かに、物足りないと思うことが最近増えたのは……間違いない。だけど……そこまでユキに頼るわけにはいかない。それに……今の俺は、十分すぎるぐらいやる気があるから。ユキに頼る必要はないはずだ。


 「大丈夫だよ、ユキ。このミサンガは俺に十分すぎるぐらい元気をくれるから。それじゃあ家まで送るよ」


 「…………ううん、一人で帰れるよ。ヒロくんに、余計な負担かけたくないから。バイバイヒロくん……明日、頑張ってね」


 ユキは笑いながら、俺に手を振って家に帰っていった。なんだか少しだけ、その笑いが作り物に見えた気がしたけど……気のせいかな。


 「ただいま」


 ユキが見えなくなったところで、俺は家に帰る。すると何やら玄関に俺あての封筒が置いてあった。差出人は……? 書いてないな。


 「母さん、これ何?」


 「さぁ。ポストに入ってたのよ。あとであんたが開けときなさい」


 「ふーん……わかった」


 俺は部屋に戻って荷物を置いて、その封筒を開けてみた。しっかしなんだこれ……なんか入ってるみたいだけど……………………は?


 「な、なんだよこれ…………」


 中身を見たとき、心臓がガシッと掴まれる感覚に陥った。だってそれは……俺とユキが、キスをしているところをとった写真だったから。しかも一枚だけじゃない、数枚。それも……下駄箱に入ってたものじゃない。最近……ユキと学校でキスした時の……光景だ。


 最近下駄箱に入れられることがなかったから大丈夫だと思っていたけど……家のポストに入れられるなんて、思わないだろ普通。誰なんだよ……誰がこんなことしてんだよ……。


 「……す、少なくとも……俺の家、知ってるってこと……だよな」


 ポストに入れられていたのだからそうなる。だったら……家が近所のユキの家も知っているのかもしれない。なら……ユキの家にも入れられているのか? それに……ユキが危険に晒されることだって……ありえるし……。


 「…………い、今は……気にしてる場合じゃない……」


 震えが止まらないが、明日は決勝。こんな誰かの嫌がらせを気にしてる場合じゃない。だから俺は……ハサミを取り出して、写真を切り刻んでいく。ただ無心で、何も思わずに。そうしないと、気になって仕方がないと思ったから。


 「…………」


 切り終わったあと俺は風呂に入って、飯を食って、さっさと寝ようとした。


 だけど……不安が俺の体を襲って。俺は……一睡もできずに、試合を迎えることになってしまった。


 ――――――――――――


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