全て俺が悪い


 試合後、空気は最悪だった。あと一歩で優勝できたのに……こんな情けない負け方をしたから。それも、俺のせいで。


 「……あーあ。宏樹が余計なことしやがるから負けちまったなぁ!」


 CBの四番手の先輩がボトルを蹴飛ばして、俺に怒りをぶつける。もっともだ、この人を押しのけて俺は試合に出ていたのに……あんな不甲斐ないプレーをして。しかも、俺が退場する前までは俺と交代するつもりだったらしいから……なおのこと、怒りをぶつけられても仕方がない。


 「どう責任とってくれんだよクソ野郎! どうせテメェ、女と遊んでたんじゃねえのか? あのキスマークも本物だったんだろ? ああん?」


 俺につかみかかって、先輩はとことん俺に罵声を浴びせる。遊んではない、だけどキスが原因の一つであるのは間違いないから……俺は何も言えず。自分が犯してた罪の重さがずしずしとのしかかって……震えが止まらない。


 「いい加減にしたらどうだ! 試合に出られねぇ実力しかねえくせに一丁前に怒ってんじゃねえぞ!」


 先輩と俺を引き離して、浩一が先輩に吠える。きっと……俺をかばってくれたんだろう。表情は怒り、そして……悔しさに満ちていた。


 「んだとクソ野郎! 後輩のくせに生意気いうんじゃねえ!」


 「いくらでもいってやるよ! カスが一生懸命戦った宏樹に文句言うなってな! 今までの試合、宏樹に助けられた場面もいくらでもあんだろうがよ!」


 「テメェ……殴られてぇのか!」


 「ああ、殴ったって構わねえよ! どうせこの試合、俺が点を取れなかったから負けたんだからな! 宏樹だけ責めてんじゃねえ、責めんだったら俺も責めたらどうだ!」


 「じゃあやってやるよ! 覚悟しろクソ野郎!」


 「やめろお前たち!」


 危うく殴り合いに発展してしまうところで、監督が二人を制止した。そして部員全員を集めて、ミーティングを始める。監督はこういった、俺の采配が悪かった、早めに手を打つべきだったと。だから悪いのは俺だって、責任を背負ってくれる発言をしてくれた。


 だけど。


 俺がちゃんとコンディションが悪いと伝えたら? 


 俺が何事もなく試合に臨めたら?


 俺が……最近ユキとのキスに、浮ついていなかったら?


 どれか一つでも違えば、結果は変わったかもしれない。浩一が責任を負うことも、監督が責任を負うことも、先輩が怒ることも……なかったんじゃないか?


 ……俺が、悪いんだ。俺が……全て悪い。


 「……い! おい宏樹!」


 「宏樹……!」


 「………あ」


 気づけば、ミーティングは終わっていた。俺は浩一と紫に話しかけられていたようだ。……それにも全く気づかないなんて、俺はよほど気が滅入っているらしい。


 「気にし過ぎだ宏樹。確かにあれはまずかったけど、お前の今までの貢献度はあんなんじゃ崩れねぇよ」


 「そうだよ、またきっと活躍できるよ! 宏樹なら……きっとできるから!」


 二人は必死に俺を励ましてくれる。浩一だって悔しいはずだろうし、紫だって見ていて良い試合じゃなかっただろうに……。二人とも、本当にいいやつだ。俺は本当に、いい友達を持ったと思う。


 ……でも、俺自身は。


 「……ありがとう。でも……ごめん。一人に……させてほしい」


 その優しさを、素直に受け取ることができないクズ野郎だ。


 それから、俺は俺が何をしていたのかわからない。ただ街をふらふらと歩いて、時間が過ぎて絶望が体の中から抜け落ちるのを待っていたのかもしれない。だがそんなことをしたって、何も変わらないのはわかりきったこと。


 「……」


 気づけば、どこかもわからない公園のベンチに座っていた。もう夕暮れ時で、あたりが暗くなる。だけど俺は動かずにずっとベンチで呆然としていて……ははっ、笑えてくるな。自分の情けなさに。


 「……」


 俺は何がしたいんだろう。何を求めてるんだろう。何を待っているんだろう。


 「…………!」


 自問自答しても答えが出ない中、彼女が目の前に現れたことで、その答えはすぐにわかった。


 「ユキ……ど、どうして……」


 ユキが、俺の目の前にいた。その姿を見ると心が少し落ち着く。やっぱり俺は、ユキに会いたかったんだ。でも俺でさえここがどこかわからないのに……どうしてここにいるんだろう。


 「……私、ヒロくんの幼馴染だから」


 ユキは俺の隣に座って、答えにならない回答を返してくれた。……でも、それ以上の回答もないと思う。


 「……ごめん、ミサンガまで作ってもらったのに……。切れて、願い事叶わなかったよ」


 「……ううん、気にしないで」


 「……ごめん、こんな情けないところ見せて」


 「……いいよ」


 ユキは俺の頭を撫で始めて、優しい笑顔と優しい声で……俺の心を包み込む。


 「いつも……私がヒロくんに助けてもらってるから。だから……今日は、私がヒロくんを……助ける番……だよ」


 「…………ユキ」


 まるで天使のような笑みで、そんな優しいことを言われると……。浩一と、紫の時には優しさを受け取れなかったのに、ユキに言われると……その優しさが、俺の傷ついた心に染みて……。


 「……ユキ!」


 俺の中に生まれたある衝動が、止められなかった。俺は……ユキの体を抱きしめて、そして……。


 「んっ……ヒロくん……」


 初めて、自分からユキにキスをした。


 ――――――――――――


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