予兆
準決勝。相手は過去に全国大会に出たことがある実績を持った強豪校で、試合は苦しい展開になった。前半に浩一のゴールで先制したものの……味方のマークが緩くなった一瞬を突かれて失点。
それから持ち直すことができず、今度はディフェンダーの俺が一対一で抜かれてしまい追加点を与えてしまい、前半は1-2で終わった。
「宏樹、あれは気にするな。あそこで一対一になったら、中々止めることはできないからな」
「は、はい……」
ハーフタイム中、監督にフォローされるも……今までの俺であれば、多分止めることはできなくとも、もう少し遅らせることができたはずだ。そしたら味方が戻ってこれて止められたかもしれない。
だけど今日は……いつもより気持ちがふわついてて。冷静な判断ができずに相手に向かって行ってしまった。
「安心しろ宏樹。俺がまた点を取ってやるから。ドラマティックな展開にはピンチが付き物だろ?」
いつもにも増して落ち着いていて、目をぎらつかせている浩一は俺が落ち込んでいることを察したのか、かっこいいことをを言ってくれる。ああ、今日のこいつはこれ以上ないぐらいに頼りになりそうだ。
「……だな。任せたぞ、浩一」
「ああ!」
それから後半。一点が中々取れない状況下で、俺が相手のパスをカットすると、前が空いていることに気づいた。ここをチャンスと見て、俺は前にドリブルしていく。すると相手が俺にマークをつけなくてはいけないから、その分スペースが空いて……。
「そこだ!」
空いた右のスペースに、味方を走らせるパスを送る。ボールは綺麗な軌道を描いて、味方はフリーの状態でボールを受け取り、ぐんぐんと前に上がって……最後は、クロスボールを浩一が決めて同点。そこから勢いを取り戻して、他の味方がPKを獲得し、それをキャプテンが決めて見事逆転。
そして試合は3-2で終わり、なんとか俺たちは決勝戦に進むことができた。
「やったー!!! やったぜ宏樹! ほんと、ナイスパスだったよ!」
試合後、浩一が俺とハイタッチをして笑顔でそういう。
「いや、俺なんて……。浩一の活躍あってこそだろ」
「ま、それは間違いない! 俺をもっと褒めろ褒めろ!」
「よ、エースストライカー様」
「ふー! 気持ちぃ!」
こんなばかなやりとりをして、それから今日はすぐにミーティングあったから見にきてくれた二人に会う前にそっちに行って、それが終わると今日は解散となった。
「お疲れ様、ヒロくん、柳くん」
「お疲れ、宏樹、浩一」
ミーティングが終わると、今日も試合を見にきてくれた二人が出迎えてくれた。
「ありがと。あれ、今日は鮎川さんいないの?」
「うん、なんか用事があるって。にしても決勝かぁ……いざ決まるとマネージャーのあたしまでドキドキしちゃうや」
「それは俺も……。全然実感わかない」
「俺はいけるって思ってたけどな!」
「あんたは考えなしなだけでしょ浩一」
「う、うるせぇ! てかせっかく決勝行くしさ、祈願も兼ねて今から焼肉行かね? いや、行くぞ」
「決定事項かよ……まぁいっか。ユキは行く?」
「ひ、ヒロくんが行くなら……行くよ」
……ああ、そっか。今日の分もキスをしないといけないからな。だから一緒に行きたいんだろう。……どのみち、俺もユキが行かないなら焼肉やめてたかもしれないし。
「オッケー。紫は?」
「……行く。焼肉食べたかったし」
「よし、決まりだな。そんじゃみんな財布を見ろ、割り勘できそうな額で行く店決めんぞ!」
「へいへい……ってやべ。財布会場に置いてきた。取ってくる」
浩一に言われて財布を見ようとしたら、財布を忘れたことに気づいた。多分試合前に自販機行くとき取り出した時だな。なので俺は会場に戻って、落し物がないか聞く。すると親切な人がいるもので、ちゃんと届けてもらってた。
「ふぅ……よかった、財布が無事で…………ん?」
財布が手元に戻ったのでみんなのところに戻ろうとした途中、ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。多分これ……監督とキャプテンの声だよな……。
一体何を話しているのか気になった俺は二人にバレないよう身をひそめながら、こっそりと聞き耳を立てる。
すると……。
「決勝、宏樹を先発で出すのは危ない気がします」
キャプテンが、思っても見なかったことを言っていた。
「今日の試合、確かにあいつの起点のパスがあったからこそ同点弾が生まれました。だけど……アンカー(守備的MF)の俺からして、今日のあいつは……なんかところどころ浮ついてる気がして」
「……確かに、いつもの宏樹なら難なく対処していたはずの場面も手間取っていたのは俺も思った。最近のあいつが、練習も集中できてないのもあるんだろうが……」
「三年生は出せないんですか? 実力は宏樹に劣っているかもしれませんが、気合いなら、どいつも負けてないはずです」
「…………考えておく。ただ、現状のファーストチョイスは宏樹であることは変わらない」
「……わかりました」
話が終わったようで、二人が歩き出したところで俺はそそくさとバレないよう移動して、一旦呼吸を整える。
思い返せば、確かに危ないプレーが多々あった。一対一だけじゃない、いつもの俺なら、難なくできたはずのことに手こずっていた。……ここまできて、スタメンを外される? そんなの……受け入れられる訳が無い。
「…………戻ろう」
だけど、これを聞いたことがバレるわけにも行かない。いいプレーをできなかった俺が悪いだけなんだ。明日からの練習で、見返してやればいい。それを心のうちにしまって、俺はユキたちの元に戻った。
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