夢を掴めるかもしれない
五月の終わりを迎える頃。俺たちサッカー部は春大会の準決勝、ここまでなんとか進むことができた。準決勝に勝って、決勝でも勝てば俺たちはインターハイに出られるわけで。だからサッカー部全体では活気で満ち溢れている。
「やべぇもうすぐ俺の輝く勇姿を全国で見せられる時じゃん! フォー!」
特に浩一が。昼休みの食事中に奇声をあげるぐらい。実際こいつが点を取ってくれるおかげで勝てた試合も多くあるからナルシストになっても仕方がない部分はある。にしたって調子に乗りすぎな気はするけどさ。
「調子に乗りすぎ浩一。そもそも、あんたこの前の試合はごっつあんゴールでしょ」
あ、紫が指摘した。
「る、るせい! それを決めるのも才能ってもんだよ!」
「まぁ確かにそれは否定できない。……にしても、まさかここまで来れるなんて思わなかったな。もしかしたら、全国に行けるのかもしれないのか」
「ぜ、全国に行けそうなのヒロくん? ご、ごめんね……私あんまり大会のことわかってなくて……」
ふとユキが質問を投げかける。そっか。ユキには試合を見にきてもらっているけど、どんな大会かは詳しく説明してなかったな。
「今回の大会はインターハイっていう全国規模の大きな大会の予選も兼ねてるんだよ。だからこの大会で優勝したチームはそのインターハイに出れるんだ」
「そ、そうなんだ。やっぱりすごいなヒロくんは……。小学校の作文に描いてたサッカー選手になる夢、掴めそうなんだね」
「え。い、いやまだそこまででは……。てかユキ、よく覚えてるな」
正直俺もそんなこと書いたなぁって今思い出したぐらいだ。
「私にとって、印象的だったから」
「そ、そう? 割とありがちな夢だと思うけどなぁ」
「うんうん、俺が小六の頃に書いた【世界制覇】よりしょぼいと思うぜ浜地さん」
「え、それはやばくね……」
浩一らしいといえばそうなんだけどさ。でもそれを恥ずかしがらずに、むしろ誇らしげに語ってるところは心臓に毛が生えてるとしか思えない。
「やばくねえよ! 普通だろこれぐらい! そういえば紫は何書いたんだ? 小学生の頃の夢」
「え、あたし? なんだっけな……ケーキ屋さんとかだったと思う」
「へえ……紫も可愛いこと考えてたんだな」
「宏樹、あたしだって乙女なんだけど」
「すみませんでした」
危うく踏んではいけないところを踏みかけてしまったので、俺は早急に紫に謝る。そうだよな、紫だって乙女だもんな。それに女子がケーキ屋さんを夢とするのはよくあることだ。
……あれ、そういえばユキの夢はなんだっけ。
「ははっ、怒られてやんの宏樹。で、浜地さんは何書いたの?」
俺が聞く前に浩一が先にユキに質問を投げる。するとユキは悩むそぶりを見せて、それからこう答えた。
「……忘れちゃった。私、書くことがなくて……思い入れがないことを書いたから」
「え、そうなの? 宏樹も覚えてない?」
「う、うん……俺も覚えてない」
ユキの言う通りなのかもしれない。俺もユキが何を書いたのか覚えていないから、本当によくありがちなことを書いていたんだろう。まぁ……昔のことだから、ユキにとってどうでもいいことなんだろうけど。
「ふーん。まぁ俺みたいに世界征服級じゃないとインパクトもないからなー」
「あんたはバカ丸出しってことでインパクトがあるんでしょ……。でも宏樹、きっと全国行けたらスカウトの人も見てくれると思うし……試合頑張ってね。絶対、宏樹はプロになれるから」
「……ありがと紫。前に約束したもんな、特等席で試合見せるって」
「え!? 紫さん、俺は!? 俺もプロになるけど!」
「まぁ……浩一、あんたは頑張って。多分なれるよ」
「辛辣ぅ! ま、そのためにも勝たねーとな試合。てか今日から練習時間長引くんだっけ」
「え、そうなの?」
「宏樹……この前監督が話してたでしょ。決勝に行くために練習時間しばらく伸ばすって。わざわざ下校時刻過ぎても練習してもいいよう許可までとったんだから」
そういえば、確かにそんな話をしてた気がする。……最近、なんだかぼんやりしてしまうことが多くて話を聞き逃すことが増えたな。……やっぱり、ユキとのことが……頭から離れないからか?
「そ、そうだったな。じゃあ気合い入れて練習に入らないと」
……でも、練習時間が下校時刻を過ぎるのなら……ユキがいつものように図書室で待つことはできない。他の場所で待ってもらうか……いや、サッカー部しかいないんだから……他の誰かに見られてしまうかも。
ユキとの約束を果たすために、どうしたものかと考えながら昼休みは終わって。それから授業を聞かずに考えていると……。
【今日、屋上付近でしよ。ヒロくん、放課後時間なさそうだから】
と授業中ユキからラインがきた。……正直、また写真を撮られる恐れがあるのであんまり気は進まない。ただ……今日は他のところを探す時間もないだろうから。
【わかった】
俺は教師にバレないようこっそりと返信した。それから放課後、約束どおり屋上のドア付近に行って……。
「はむっ……ヒロくん……んんっ、んむっ……」
ユキの唇が、ぴったりと俺の唇に合わさって……いつも通り、ユキは濃厚なキスをしていた。久しぶりに学校でしたこともあってか……肌に当たる空気ですら、体をびくりとさせるぐらい今の俺は敏感になって。それは口元もそうで……。
「れろれろっ……んっ、んんっ……ちゅ、ちゅぅ……ヒロくん……」
ユキのキスが上手いことも合わさって、とても気持ちよかった。このまま、ずっとしていたくなるぐらい。だけど……そうするわけには行かないから。
「んんっ……ぷはぁ……はぁ……はぁ…………ありがとう……ヒロくん。部活……頑張ってね……」
部活の時間が迫ると、俺たちはキスをやめる。そして俺は部活に行って……ユキは家に帰った。だけど、正直……家でキスしていた時間よりも短いから。物足りなさが……やっぱりあって。
「どうした宏樹? なんか集中できてなくね?」
「え……ご、ごめん。気合い入れ直すわ」
練習中、キスのことが頭から離れなくて……集中力を欠いてしまった。
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