不穏な空気


 「ど、どうして二人ともここに?」


 てっきり二人はもう帰ったものだと思っていたから、俺は驚いてしまう。しかもこのユキと一緒に帰ろうってタイミングだ。なんて偶然なんだか……それとも、もしかして俺たちが一緒に帰ることを察して……?


 「いやだなーたまたまだよ。あたしら二人で次の試合見てたから、ついでに宏樹と浜地さんとも一緒に帰ろうかなって。でもびっくりした、てっきり浜地さんはもう帰ったのかと思ってたよ」


 「……い、いや、その……一人で帰るの、やっぱり寂しかったから」


 「わかるー。それじゃああたしらと一緒に帰ろっか。あ、途中でいい感じの喫茶店があるから、そこによっていかない?」


 「いいですね、そうしましょう。先輩たちもいいですよね?」


 「え……あ、うん」


 なんだか、紫と鮎川さんが一方的に話を進めてきている気がする。……どのみち、もうこのままユキと一緒に帰れば怪しまれるのは間違いないから、二人の提案に乗るしかない。だから俺は、そしてユキも頷いてそうする事にした。


 それからしばらく歩いたのち、喫茶店について俺らはテーブル席に座る。確かに二人の言う通りいい感じのお店で、雰囲気はとてもいい。だけど……。


 「ねえ宏樹。なに頼むの?」


 「これとかどうですか先輩、美味しそうですよ」


 どことなく、二人から圧を感じる。やけに胃もたれしそうなパフェを進めてくるし……何を考えているんだ一体。ただ、その圧を俺は弾き返せるほど今は体力的にも元気が無くて……。


 「……でか」


 言われるがまま特大のパフェを頼んでしまった。……食べきれるのか、これ。


 「す、すごいねこれ……。ひ、ヒロくん食べれる……?」


 ユキもこれを見て心配してくれた。……だが頼んでしまった以上、残すわけには行かない。


 「食べてやる!」


 俺は精一杯パフェを食らって食らって喰らい尽くした。途中紫と鮎川さんが少し食べようかって申し出てくれたけど、誰かにあげれば糸が切れてしまいそうで、勢いのまま食べ続けた。そして……。


 「……はぁ」


 お腹を下した。お店のトイレを借りて、しばらくトイレにこもる始末。そりゃあれだけの量を食べてお腹を下さないわけがないんだからさ……俺、無理して食べる必要なかったじゃん。ほんと、俺ってバカだ……。


 「……」


 にしても、どうして二人はあれを異様に進めてきたんだ? そりゃ確かに店の看板メニューではあるけどさ。もしかして……一緒にシェアして食べたかったって事なのかな。あれだけのカロリーの塊、中々食べたくても食べられないだろうし。


 「……あ!」


 まだまだお腹の調子が戻らない中、ふと気づいたことがある。今って……あの二人にユキが一緒にいるんだよな。特に紫は……以前、ユキがなんだか最近冷たくなったって言ってた。つまり、二人の仲は……あまりよくないのかもしれない。


 それに加えてユキがあまり親しくない鮎川さんもいて。……でも、それって紫もだよな。あの二人が仲良いだなんて聞いたことないし。もしかしたら、俺の知らないところで仲良くなったのかもしれないけど……。


 ただ、とにかく今言えることは……ユキにとって、気まづい空間が出来上がってるってことだ。早く戻りたいけど……ああ、お腹が言うことを聞かない。


 ……でも、あの二人は良い人だから。きっとなんだかんだユキとも優しく接してくれると思う。思いたい。


 それから数分後。なんとかお腹が落ち着いて、俺はトイレから出て手を洗う。そしてドアを開けてお店の中に戻ろうとすると……。


 「……あ、ユキ」


 偶然、ユキもトイレに来ていた。男女別だから俺が終わるのを待っていたわけじゃないだろうけど。


 「……ヒロくん、んっ…………」


 「っ!?」


 それは突然のことで。ユキは俺に有無も言わせずにキスをしてきた。のれんがあるから、外には見えないけど、それでも誰がいつ来るかわからないこの場所で躊躇なく。


 「んんっ……ちゅ……ぷはぁ……はぁ……。今日は……二人にバレちゃ大変だから……これぐらいに……しとこっか」


 いつもより早くキスを終わらせて、ユキは俺にそう言ってきた。……そう、だよな。そうするべきだ。ここで二人にバレてしまったら、それこそ誤魔化した意味がなくなってしまう。ユキがそう言ってくれて……俺は安心した。


 「じゃあ……またね」


 そしてユキは女子トイレに入っていって。俺はすぐに席に……は戻らなかった。いや、戻れなかった。だって、不思議な気分になったんだ。いつもより早くユキとのキスが終わったことで……俺は……。


 「……」


 もっとユキとキスしたかった。なんて思ってしまったんだから。


  ――――――――――――


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