一緒に帰ろう


 夢を見た。


 「おいお前ら! これ以上ユキを泣かせるんじゃない! 大丈夫か、ユキ」


 それは幼い頃の記憶。おそらく、小学生の頃かな。


 「……う、うん。あ、ありがとうヒロくん……ご、ごめんね、私のせいで……怪我までして……」


 その時、俺はいじめられていたユキを助けた。喧嘩になったんだっけな、相手は三人ぐらいいたから結構俺はボコボコにされてしまったけど、それでもなんとか勝てて、ユキを守れた。


 「これぐらいかすり傷だっての。気にすんな」


 「……本当に、ヒロくんはかっこいいね。ヒロくんは……私にとって、太陽みたい」


 「な、何言ってんだよユキ。ほら、さっさと帰るぞ」


 夢で見たのは、ここまで。今思えばなんて生意気なことを俺はしていたんだとも思うし、ユキは……変わらないなって思う。それにしたって、どうしてこんな夢をいきなり見たのかなぁ……。


 ……最近、自分の家でユキと過ごすことが多くなったからか?


 放課後、結局俺たちは俺の家でキスするのが決まりになった。写真を撮られないためにも、そうするしかなかったから。ただ、ユキがもう一度家に泊まることはなかったけど。


 キスマークについては……噂にはなってしまったけど、なんとかごまかしを貫き通して大ごとにはならずに済んでいる。あれ以来、ユキがキスマークをつけることもまだないし。


 ……それに、なんだかんだ紫ともまた気軽に話せるようになったと思う。気まづいことにはなったけど、それでもなんとか……元に戻せた気がする。


 「……さて、今日は試合だ。準備すっか」


 俺は頰を両手でべちんと叩いて、試合に集中することにした。今日の相手は今までと違ってそれなりに強い。いや、これからはもう油断なんてしたらすぐ足元をすくわれるレベルの相手だ。余計なことなんて、考えてる余裕はない。


 それから、俺は身支度を済ませてチームの集合場所に向かった。今日はユキも紫も、鮎川さんも来てくれるから、変なところは見せられない。そしてチームの集合場所に着くとすぐに会場に向かって、それから少し練習して……。


 試合が、始まった。


 試合展開的に苦しい時間が続いたけど、なんとか浩一のゴールもあって前半はリード。後半に危うく同点弾を打ち込まれそうになったけど、俺が間一髪ブロックして危機を回避した。そしてそのままスコアは動かず、1-0で俺らはなんとか勝った。


 「助かった宏樹……あれ決められてたらやばかったな」


 「浩一こそ、あのゴールがなければどうなってたことやら」


 「ははっ。俺ら二年の活躍あっての勝利だな!」


 試合後、ベンチから空いている場所に移動した俺らは辛くも勝利したことで俺らは結構喜んだ。苦しい試合に勝つほど嬉しいことってないからな。


 「……あ」


 その際、紫とユキ、そして鮎川さんが三人とも同時にやってきた。


 「お疲れ様です、先輩。初めて試合見たんですけど……やっぱり、活躍されていましたね。これ、差し入れです」


 「あたしからも。これ、ちゃんと飲んでよ」


 「わ、私も……」


 「さ、三人ともありがとう。差し入れまでくれて」


 三人とも別々な飲み物を俺にくれた。あ、どれも美味しいスポーツドリンクだ。家に帰っても飲めるな。


 「おい俺は」


 「はいこれ」

 「これです」

 「……これ」


 「……あ、くれるんだ。てっきりもらえないもんかと思ってた」


 浩一も三人からもらっていたので、特に他意はなさそうだ。


 「それにしても、相手も強くなってきたね。見てる方としては見ごたえあるけどさ」


 「まぁ、そうだよな。でも試合してる方はきついわ……自由にプレーできないし」


 「俺も。守備の時集中切らしたら一発でやられそうだからなあ」


 「……で、でもヒロくん……今日、すごく集中してたよ。だから……あんなに凄かったのかな……?」


 「そ、そう? ……ま、ユキがそう言うならそうかも」


 サッカー初心者のユキから見てもすごいと思ってもらえるプレーができたなら、自信を持っていいのかもしれない。


 「あ、監督呼んでる。行こうぜ宏樹」


 「あ、ああ」


 それから俺は監督の話を聞いて、そして家に帰ろうとしたけど……また副審をやる羽目になった。なんでこんなに運が悪いのか……。とはいえ決まってしまったものをやらないわけにはいかないので、俺は残って副審をした。


 「……あ」


 「……お、おつかれ……ヒロくん」


 終わると、ユキが待っててくれたようで俺のところにきてくれた。多分、このままキスをする流れなんだろうけど……それでもいいや。ユキが待っててくれたことが、嬉しいから。


 「い、一緒に帰っても……いい?」


 「……もちろん」


 そして俺らは一緒に帰る……つまり、俺の家に行くことになるはずだった。だけど……。


 「ねぇ宏樹」

 「先輩」


 後ろから、聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向くとそこには……紫と鮎川さんがいて。


 「私たちとも、一緒に帰ろうよ」


 紫が、笑いながら俺にそう提案してきた。


 ――――――――――――


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