隠してることなんてない
「キスマーク……?」
紫が何を言っているのか、俺は理解できなかった。今日はまだキスをしていないし、そもそもユキは俺にキスマークが着くようなところにはキスをしたことがない。
「気づいてないの……? ……これ」
スマホを取り出して、紫は俺の首元を写真に撮る。それを俺は見せられたのだが……な、なんだこれ……全く心当たりはないけど……確かに、キスマークに見える。
……もしかして、昨日ユキが俺が寝てる時にキスしたってこと? いやでも……ユキはそんなことするような人じゃないはず。だから……これは……。
「……虫刺され……だよ」
我ながら、苦しすぎる言い訳をした。でも、こう言うしかないだろ。俺だってことの真実は今知らないし、ユキとの関係を紫に知られるわけにはいかないんだ。
「虫刺され……? それが? ……ねぇ宏樹、浜地さんと昨日何してたの? 今日、一緒に登校してたよね? 本当は、付き合ってるんじゃないの?」
当然、そんな急造の嘘で紫をごまかせるわけがない。紫は怖さすら感じる迫力で俺に追求してくる。
「つ、付き合ってなんか……ない。前に言っただろ、俺はユキに振られたんだ」
今度は嘘偽りのないことを言う。事実だから。……じゃあなんでキスマークなんてあるんだって話だけど……。
「……ねぇ宏樹。私たち……友達でしょ。だから……隠してること、教えてよ。い、一緒に……考えられるかも……しれないじゃん」
だけど、やっぱり紫は信じてないみたいで。紫は俺に訴えかけるように、本当のことを教えてくれと懇願してくる。……確かに俺たちは友達だ。一年の頃からずっと、仲良く笑いあって、部活で苦しんだりして……。だけど、さ。
友達だからって、なんでも言えるわけがない。
「……いや、隠してることなんてないよ。俺はユキとただの幼馴染、それだけだから。……じゃあ俺、着替えてくる」
俺は早口で紫にそう言うと、逃げるように更衣室に向かった。……これでよくないことなんてわかってる。だけどさ……こうするしかないだろ。本当のこと言ったって、何も意味がないんだから。
「……あー虫刺され。あー……よし、そう言うことにしておこう」
更衣室に入ると、浩一が俺の苦しい嘘を本当ということにしてくれた。多分こいつも紫同様追求したかったに違いないだろうけど、俺が本当のことなんかいうわけがないと思ってそうしてくれたんだろう。……こういうところは、気が利くやつだ。
それから、俺は下駄箱に行く。昨日俺の家でした甲斐があって写真は入れられてなかった。よかった……これだけは救いだ。となると、今日も俺の家でした方がいいのか? いや、だけど連日は……そうも言ってられないか。
でもまずは聞かないといけないことがある。
「……ユキ」
「あ、ヒロくん。練習……かっこよかったよ。……あれ、どうしたの?」
俺は教室に行って、そしてユキを呼び出して人気のないところに連れて行き。
「……これ、どういうことか知ってる?」
首の後ろにあるキスマークを見せて、俺はユキに問いかける。するとユキは……。
「…………ご、ごめんねヒロくん…………。昨日、我慢できなくて……1回だけしちゃったの。……で、でも……そんな跡になってるなんて……気づかなくて」
ちゃんと理由を説明して、謝ってくれた。……そっか、我慢できなくて一回だけしちゃっただけ……か。……なら、仕方がないのかもしれない。俺も、もっと早く起きて朝気づけばよかったんだろうし。
「……わかった。じゃあ次から約束以外のキスは……やめてね」
「う、うん。……本当に、ごめんね……ヒロくん」
ユキは今にも泣きそうなぐらい震えた声で、謝ってくれる。……俺は、ユキに泣いて欲しくなかったから、背中をポンポンとさすって、教室に戻る。
それからは、いつもどおりの日常だった。つまらない授業を受けて、昼ごはん食べて……まぁ、紫とは気まづかったけど、浩一がうまいこと盛り上げてくれたからなんとかなって……そして放課後になって。
「じゃあ……また図書室で……待ってるね」
ユキとはまた、俺の家でキスすることになって。
★★★
「な、なあ紫……」
放課後、部活が始まる前に私は浩一から話しかけられた。
「何?」
「……宏樹さ、多分まじでキスマーク気づいてなかったんだと思うんだよ」
「……え?」
いつになく真剣な表情で、浩一は私にそんなことをいう。
「根拠は?」
「……更衣室でさ、あいつの背中見たんだけど…………キスマークが、恐ろしいぐらいについてて……普通、あれだけついてたら……隠すってのに、何も気にしないで着替えてやがって……他の奴らにバレないよう俺がなんとかしたけどさ。だから絶対、キスマークのこと知らないんだと思う」
「…………」
そう、なんだ。思えば、私があの時みたキスの光景も……浜地さんからしていた。だとしたら……宏樹は無理やりキスされてるってこと? 付き合ってないってのが、本当だとしたら。
「……なんか、宏樹がやべえことに巻き込まれそうで……俺怖いよ。あんないいヤツだからさ……どんなわがままも聞いちゃいそうだし。……ほんと、誰があんなキスしたんだか」
「…………大丈夫、手は打ってある」
「え?」
もうこれ以上宏樹を好きにされたら嫌だから。あの子と一緒に宏樹を奪い返す。今日の出来事で、私はもっと決意を固めた。
――――――――――――
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